和歌山大学 システム工学部 精密物質学科

  篠塚雄三

第4回 太陽電池にうってつけ

−古くて新しいアモルファス半導体−

 

       
 

 ○ アモルファス半導体
 電気をよく通す金属と比べて、シリコンやゲルマニウムなどはあまり電気を通さず、半導体と呼ばれている。半導体の特徴は、異種の原子を添加することで電気的特性を幅広くコントロールできることにある。たとえば、燐(りん)や砒素(ひそ)を添加すると、結晶内を動く電子の数が増加し、電流が流れやすくなる。これをn型シリコンを呼ぶ。一方、アルミニウムやガリウムを添加すると、電子の数が減り、電子の孔ができる。この孔は正の電荷をもった粒子(正孔)として振る舞い、この場合も電流が流れやすくなる。これをp型シリコンと呼ぶ。ただし、電流が流れるといっても実質は違い、たとえていえば、n型では「お金」が右から左へ動くのに対し、p型では「借金」が左から右に動く。
 このn型の領域とp型の領域を結晶中に適切に配置することで、電子や正孔の動きをコントロールし、ダイオードやトランジスタ、IC,LSIなど今日のエレクトロニクスを

 

支えている半導体素子ができている。しかし異種の原子を添加しn型やp型化するためには、元のシリコンは99.99999999%もの純度と完全な並進対称性が要求される(このような結晶を単結晶と呼ぶ。ちなみに結晶シリコンはダイヤモンドと同じ結晶構造をもつ)。したがって、大面積が必要な太陽電池などではコストがかかりすぎる。


Pn接合を利用した半導体発光ダイオード

 そこで登場したのがアモルファスシリコン(a-Si)である。a-SiはSi原子をガラス基盤などに蒸着することで作られ、並進対称性は必要ないため、安価にできる。しかし必然的にSi原子の結合の手がいたるところで切れて欠陥ができているので、そのままではn型化、p型化できない。
 ところが1975年にイギリスの物理学者によって、水素原子を加えるとその欠陥を「埋める」ことができ、したがってn型化、p型化可能となることが見いだされた。それ以来a-Siを用いた半導体素子は急速に実用化されてきた。とくに、新しいエネルギー源として注目されている太陽電池に関しては、太陽光線を効率よく吸収するという点で、結晶Siよりも都合がよい。その理由を次に簡単に説明する。
 光を物質にあてると、物質中の電子が光の波長で定まるエネルギーをもらい、高いエネルギーをもった状態に移ることで、光が吸収される。たとえばダイヤモンドなどでは、紫外線は吸収するが、可視光線に対応するエネルギー範囲では電子の移り先がないため、光は吸収されず、したがって我々の目には透明に見える。さて、結晶中ではこのエネルギー保存の法則以外に、並進対称性のために電子の移り先の状態に別の制限がつく。ところが構造の乱れているアモルファスでは、その制限は緩和され、したがって光を効率よく吸収することができる。
 ところで、我々が古くから知っている物質のなかにもアモルファス半導体がある。それはガラスである。ただし、ガラスはなぜ透明であるかということについては、残念ながら現在の段階では説明できない(右に紹介した理論をそのまま適用すると不透明が結論)。
 アモルファス半導体の基礎研究はまだこれからである。

太陽電池を用いた屋根瓦