背景と目的

脊椎圧迫骨折の診断には,簡便かつ早期に診断できる単純X線撮影を用いた検査が多く用いられています. しかし,X線画像は不明瞭な場合が多いため,医師が常に正確に読影できるとは限りません.

そこで本研究では,診療現場でのX線画像読影の支援を目的として,撮影する際の患者の体位が様々であるX線画像における, CNN(畳み込みニューラルネットワーク)を用いたセマンティクセグメンテーションによる椎骨の検出手法を提案します.

体位が様々なX線画像に適したCNNモデルを開発することで,どのような体位のX線画像においても,迅速かつ正確な読影の支援が可能となります.

精度評価

本研究の概要を図1に示します.まず,使用する元データをJPEG形式に変換し,その後正規化します.正規化したデータと作成した正解データを入力として,使用するそれぞれのCNNモデルに学習させます. そうして出力される予測画像,および様々な評価指標による検出精度を元にCNNの性能を比較し, 今回使用するデータセットに最も適したCNNを探索します.

使用するデータは,2017年8月から2020年10月の期間に,和歌山県立医科大学附属病院紀北分院で脊椎疾患患者56人から撮影された120枚の単純X線画像であり,胸腰椎を撮影した側面像となっています.

本研究の概要
図1. 本研究の概要

(1) 評価結果

本研究で学習したモデルは,Accuracy,Precision,Recall,meanIoU(mean Intersection over Union)を用いて評価を行いました. meanIoUとは,IoUのクラス平均の値であり,ここでのIoUとは,正解データとモデルによる予測結果のオーバーラップ率を表しています. meanIoUは物体検出の分野において広く利用されている評価指標であり,本研究でも特にmeanIoUを重視して評価を行います.

各CNNの評価結果を表1に示します.学習回数を3000に設定して学習を行った結果,U-NetにおけるmeanIoUの値が最も高い結果となりました. このことから,今回のデータセットにおいてはU-Netが最も椎骨の検出に適していると言えます. しかし,他の3つのモデルにおいても値が70%を超えていることから,全体的に高い精度で椎骨を検出できていると言えます.

表1.各CNNの評価結果
モデル
Accuracy
Precision
Recall
meanIoU
U-net
98.0%
91.9%
94.2%
86.5%
Residual U-net
97.8%
96.1%
94.1%
78.1%
Dense U-net
97.8%
95.4%
93.5%
71.5%
SegNet
97.0%
94.1%
89.3%
76.4%

(2) 予測画像

椎骨の予測画像を図2に示します.ほとんどの椎骨の形状および位置を正確に捉えられており,SegNetの予測画像以外ではノイズは見られません. しかし,画像CにおけるU-Netの予測画像などで,上手く形状を検出できず崩れてしまっているような椎骨がいくつか見られます. 原因としては,元画像に白いもやがかかっている部分があるため椎骨の形状が見えにくくなっていることなどが挙げられます. そのため,元画像の前処理段階において改良の余地がある可能性があります.

椎骨の予測画像
図2. 椎骨の予測画像

参考文献・発表

  1. 森川大翔,吉野孝,寺口真年: CNNを用いたX線画像からの椎骨検出,情報処理学会関西支部支部大会,G-52,pp.1–4 (2022).
  2. 森川大翔,吉野孝,寺口真年: セマンティックセグメンテーション手法を用いたX線画像からの椎骨検出,医療情報学連合大会,ポスター展示 2-P-4-03,pp.1–5 (2022).

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