1 背景と目的
近年,学校や職場などの同じコミュニティ内における人間関係の希薄化が指摘されています. 一方で,日常的にSNSを用いた交流が行われていますが,SNS上の人間関係を負担に感じるSNS疲れも問題視されています
そこで,本研究では,ゆるやかなつながりに着目しました. ゆるやかなつながりとは,直接的なつながりではなく,相手の存在を感じたり,興味や親近感を抱いたりする程度の心理的抵抗が少ないつながりのことです. 本研究では,適度な匿名性を持ちながら,相手の存在感を表現するものとしてシルエットを採用し,メッセージとともに共用空間で共有する「チルえっと」を開発しました.
2 チルえっと
共用空間において,ゆるやかなつながりを実現するために,本システムでは,お題を提示し,利用者がシステムにお題に対するメッセージを投稿し,その内容を共用空間で共有することで,ゆるやかなつながりの実現を目指します. 本システムは,学校や職場など,同じ建物を利用し,同じコミュニティ内に属する人を対象としています. また,エレベータホールや廊下,ラウンジなどの建物内の共用空間への設置を想定しています.
図1にシステムの外観を示します. 本システムは同じコミュニティ内の人が日常的に気軽に使えるように,共用空間へ設置する固定システムとして開発しました. システム画面表示用のディスプレイ(図1(1))を棚の上に設置し,入力用のマイク(図1(2))とAzure Kinect(図1(3))を設置します.
図2にシステム構成を示します. 利用者がシステムの前に立つと,Azure Kinect DKが取得した骨格データと深度データ (図2(1))から,シルエットを作成し(図2(2)),リアルタイムの利用者のシルエット(図2(3))を表示します. システムへ投稿する場合は,マイクや表示されるQRコードで開くWebページからメッセージを入力します.
図1.システムの外観 |
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図2.システムの構成 |
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3 システムの機能
(1) シルエット撮影
本システムでは,適度な匿名性を持ちながらも,相手の存在感を提示するために,第三者のユーザ表現としてシルエットを採用しました. システム前に立つ利用者のシルエットとその動きを自動で撮影し,共有することで,共用空間を利用する人の存在感の提示を目指しています. 図3に撮影されたシルエットの例を示します.
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図3.シルエットの例 |
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(2) 非接触操作
チルえっとは日常生活における気軽な利用を想定しているため,非接触で完結し,直感的でわかりやすい操作を目指して実装を行いました. 操作の様子を図4に示します. システムの前に利用者が立つと,画面手前に利用者の姿をシルエットとしてリアルタイムで表示し,利用者は右手を動かし,表示されているポインタ動かすことで操作が可能になっています. また,メッセージは,システムのマイクを使った音声入力や,表示されるQRコードで開くWebページからの入力で投稿することができます.
図4.システム操作の様子 |
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(3) 投稿表示
投稿表示画面を動画1に示します.お題を画面上部に表示し,お題に対する回答や,システム前に立った人のシルエットを表示しています. 投稿が奥から手前に流れていくようなデザインを採用し,操作をすることなく,投稿を眺めることができます.
動画1.投稿表示の様子 |
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発表
- 田賀康平,吉野孝: 影とプロジェクタを用いた公共空間における緩やかなコミュニケーション支援システムの提案, 情報処理学会, 第 84 回全国大会講演論文集, 1ZF-02, pp.185–186(2022)
- 田賀康平,吉野孝: 動きのあるシルエットを用いた公共空間における緩やかなつながりを実現するシステムの開発, 情報処理学会, マルチメディア, 分散, 協調とモバイルシンポジウム 論文集, pp.1280–1285 (2022).
連絡先
- 田賀 康平 :s246142[at]wakayama-u.ac.jp
- 吉野 孝 :yoshino[at]wakayama-u.ac.jp