背景と目的

集団に属する人々が交流を深めるための手法として,これまでに様々なものが考案されてきました. 例えば,自身の特徴を表すキーワードを名札に記載することで,自己開示を行い会話の話題を提供する事例などが挙げられます. しかし,それらのような紙媒体を用いる方法では,相手に対する関心や行動を自ら起こす必要がありました.

そこで本研究では,類似性を持つユーザをリアルタイムに探索し,相手までの距離を視覚的に提示することで,初対面の相手とのコミュニケーションのきっかけを提供するシステム「Mukuiru」を提案します.

提案システム

本システムのインタフェースを,図1に示します. はじめに,ユーザ名やアイコンなどの基本情報と,自身の特徴を表すキーワードを複数登録します. 例えば,ゲームや映画,ねこ,サッカーなどが挙げられます.

次に,会場の合言葉を入力すると周囲のユーザを探索し,自身と共通しているキーワードとともにユーザ名が一覧表示されます. その際,自身と相手の共通しているキーワードが多い順にリスト表示されるため,自身と類似性の高いユーザを受動的に探すことができるようになっています.

そして,リストから興味を持ったユーザを選択すると,相手までの距離がリアルタイムに表示されます. その表示をヒントに,気になった相手に実際に会いに行くことができるようになっています. なお,本システムは距離の取得にUWBを用いるため,UWBチップが搭載されているiPhone11以降のデバイスを対象としています.

インタフェース
図1. インタフェース

本システムの処理プロセスを,図2に示します. はじめに,P2P通信の許可が与えられると,周囲のユーザ探索されてキーワードとともに一覧表示されます. 次に,リストからユーザが選択され,両者からUWB通信の許可が与えられると,相手までの距離が表示されます.

処理プロセス
図2. 処理プロセス

設計意図

コミュニケーションは,「会話のきっかけを作り出す段階」,「会話の話題を作り出す段階」の2つのフェーズで構成されています. 普段の会話や従来手法では,この手順でコミュニケーションが進行するのに対して,本システムでは逆手順にすることで,両者に適した話題の提供を保証しています. しかし,これらの実現のためには両者が対面していない状態で話題を提供し,その後に両者を対面させる必要があります.

そこで,本システムでは離れた位置にいるユーザ同士を引き合わせるため,位置情報の取得にUWBを用いています. さらに,ユーザが所持するスマートフォンで完結するため,外部機器などの事前準備が必要ありません.

シミュレーション

今回,「相手までの距離提示の有無が,マッチングに要する時間に影響を与える」と仮説を立てて,実験を行いました. 実験には,本システムとは別に,再現性を担保できる実験用アプリケーションを用いています.

実験参加者には,自身と同じキーワードを持つ他の参加者を,会場内から探すよう指示しました. 発見後,画面上の所定のボタンを押すことで,表示されるキーワードが新しいものに更新されます. 1人目のマッチングに要した時間を「マッチング時間」として,距離提示なし・ありの場合を比較しました.

実験結果
図3. 実験結果

実験結果を,図3に示します. 得られたデータに対してt検定を行ったところ,p値が2.33×10^(-8)と,有意水準1%を下回っていることから,マッチング時間が有意に短縮したと判断できます. また,標準偏差は,距離提示なしが3分22秒,ありが0分35秒となり,ユーザ間のマッチング時間のばらつきが小さくなりました. 実験中の参加者の様子を観察したところ,距離を提示することで,相手を探すための移動,会釈,会話のスムーズな移行が観察できたことから,相手の話しかける不安を払拭できたのではないかと考えています.

このことから,マッチング時間の短縮に伴って,単位時間における対話の数が増加すると考えられます. また,マッチング時間のばらつきが小さいことから,イベントで設けるべき適切な交流時間の予測が容易になると予想できます. これにより,利用者間における,サービスの質の均一な提供が可能となります.

参考文献・発表

  1. 柴谷椋,吉野孝: UWBを用いた位置提示による交流機会創出手法の提案,電子情報通信学会総合大会講演論文集,IEICE総合大会,B-8-12,p.1 (2025).

連絡先

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