背景と目的

建物の設計図である間取図は,現状,設計士の経験に基づいて,手作業で試行錯誤しながら作成されることが多いです. 間取図は,建築基準法や隣接関係などのルール,住みやすさを考慮した配置など,多くの要素を考慮して作成を行う必要があります. そのため,作成に多くの時間を要します. また,複数の住戸を持った共同住宅は,敷地によって様々な形を持った住戸ごとに間取図を作成する必要があるため,作成により多くの時間を要します.

間取図作成を支援するための研究として,いくつかのアプローチが提案されています. しかし,機械学習によるアプローチでは,細かい制約条件を反映することが困難であったり,最適化問題として扱うアプローチでは,複数パターンの提示が難しいなどの問題があります.

そこで,本研究では,共同住宅における間取図の自動作成システムを開発し,共同住宅の間取図作成における負担の軽減や業務の効率化を目指しています. 本研究では,設計士の作成手順を参考にすることで,実用的な間取図を複数提示することを目指しています.

システム概要

本システムの概要を説明します. 図1に,システム構成図を示します.本システムは大きく4つの工程があります.

(1) 図面の入力

まず,間取り作成前の図面を本システムに入力します. 入力する図面は,それぞれの住戸がバルコニーを持ち,共用部で繋がっている共同住宅となっています.

(2) 間取図の作成

次に,入力された図面から間取図を自動で作成します. 現在は,1Kタイプの住戸に玄関,MBPS(メーターボックス・パイプスペース),UB(ユニットバス),洗面室,トイレ,キッチン,洋室の配置を行うことができます. 部屋の配置を様々な並び方を試すように行い,その後,制約条件などに合わないものを除いていく事で,複数の間取図を作成します.

(3) 間取図の評価

そして,作成された間取図の評価を行います. 評価指標は,設計士が間取図を作成する際に重要視している要素を基に作成しています. 具体的な評価指標は,洋室の広さ,洋室の形状,トイレとMBPSの距離,キッチンと外壁面の位置関係となっています. これらのうち,設計士が特に重要視している洋室の評価が強く反映されるように,評価関数を作成しました.

(4) 間取図の出力

最後に,評価の高い間取図を複数提示することで,設計士がいくつかの選択肢の中から選ぶことを想定しています. 設計士の意図に合った間取図を複数提示しつつ,中には設計士が考えなかったような間取図も提示できることも目指しています.

システム構成図
図1. システム構成図

結果

本システムによって作成された間取図の例を,図2に示します.

図2(a)は,評価の高い間取図の例です. 洋室が広くとられており,トイレや洗面室などの水回りの部屋配置が効率よく行われています.

図2(b)は,評価の低い間取図の例です. 洋室に少し大きな凹凸が存在し,トイレ付近に無駄なスペースが存在するなどの問題があります.

作成された間取図の例
図2. 作成された間取図の例

発表

  1. 森川聖也, 本庄麻衣子, 吉野孝: 共同住宅における間取図作成自動化手法の提案, 2023年度情報処理学会関西支部支部大会, G-16, pp. 1-3 (2023).
  2. 森川聖也, 本庄麻衣子, 吉野孝: 共同住宅における間取図自動作成システムの開発, 第166回情報システムと社会環境研究発表会, pp. 1-6 (2023).
  3. 森川聖也, 本庄麻衣子, 吉野孝: 共同住宅における間取図自動作成手法の評価, 2024年電子通信情報学会総合大会, D-9-05, p. 1 (2024).

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