背景と目的
総務省の家計調査をはじめとする食肉消費に関する調査はこれまでにも多く報告されており,それらの調査はすべてアンケートで実施されています.しかし,アンケート調査は手間やコストがかかるうえ,作成時に留意すべき点が多く存在します.
そこで,本研究ではID-POSデータを用いる方法について検討しました.ID-POSデータを用いることにより,これまでアンケート調査で捉えていた内容を抽出可能であることを検証します.
ID-POSデータを用いた食肉消費の特性抽出の可能性検証
(1) 使用データ
POS(Point Of Sales)データとは,レジで商品のバーコードを読み取るなどをして取得したレシートデータです.ID-POSデータとは,このPOSデータに顧客を識別する情報を紐づけたデータであり,誰がどの商品をいつ,どこで,いくらで,いくつ購入したかという情報が登録されています.
ここで使用するID-POSデータは,株式会社オークワで収集された和歌山県の2021年の12月21日から2022年12月20日までの1年間のデータです.
(2) 分析概要
引地が2012年にアンケートで実施した調査研究「25~35歳の牛肉に対する嗜好,購買行動に関する実態調査」の調査結果と本研究の分析結果を比較します.
そこで,引地の調査項目の中からID-POSデータで抽出可能だと考えられる下記の項目についての分析を行います.
(3) 普段購入する牛肉の価格帯
本研究の結果を図1,引地の調査結果を図2に示します.
図1. 普段購入する牛肉の価格帯(本研究の結果) |
---|
図2. 普段購入する牛肉の価格帯(引地の調査結果) |
---|
外国産牛肉では,どちらも100円台が最も高くなっている点で共通しています.
国産牛肉では,本研究は200円台が最も高いのに対し,引地の調査結果は300円台が最も高くなってるという点で少し違いが見られました.
黒毛和牛肉では,特に高い割合の価格帯はなく均等に散らばっている点で共通しているが,本研究は低価格帯の割合が比較的高くなっており,引地の調査結果は高価格帯の割合が高くなっています.
(4) 普段購入する牛肉の部位
本研究の結果と引地の調査結果を表1に示します.
表1. 普段購入する牛肉の部位 | ||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
|
本研究の結果では肩ロースが1位だが,引地の調査結果では4位であり,全体を見ても大きな差異が見られました.
他地域(岐阜県と愛知県)への適用
(1) 使用データ
ここでは,和歌山県に加え,岐阜県と愛知県のID-POSデータを使用します.
期間は2022年の8月21日から2022年12月20日までの4か月間です.
(2) 分析結果と考察
和歌山県の結果を図3,岐阜県の結果を図4,愛知県の結果を図5に示します.
図3. 和歌山県の結果 |
---|
図4. 岐阜県の結果 |
---|
図5. 愛知県の結果 |
---|
外国産牛肉では,100円台と200円台でほとんどを占めている点で共通しています.
国産牛肉では,200円台と300円台が高い割合を示している点で共通していたが,400円台は和歌山県が比較的高くなっています.また,ピークの価格帯は和歌山県が200円台で,岐阜県と愛知県は300円台でした.
黒毛和牛肉では,岐阜県と愛知県が和歌山県に比べて500円台以上の割合が高い傾向にあります.つまり,和歌山県は牛肉に対する消費金額が非常に高く,岐阜県や愛知県と比較して和牛を好む消費者が多いことが分かります.これは総務省の家計調査を裏付けた結果となっています.
口頭発表
- 磯部貴翔,吉野孝(和歌山大),貴志祥江,南波広哲,田井紗瑛子,坂本明一,宮崎裕之(オークワ):ID-POSデータを用いた家庭での食肉消費の特性抽出,情報処理学会第86回全国大会,7M-07(2024-03).
連絡先
- 磯部 貴翔:s256019 at sys.wakayama-u.ac.jp
- 吉野 孝:yoshino at sys.wakayama-u.ac.jp