背景と目的

飲食に関する口コミ(感想)は,その食品や飲食店で食事を行ったことがない人にとって,そのおいしさを想起する上で重要な情報です. しかし,時間が経つにつれて実食時に知覚したおいしさ情報は忘れられたり,他の情報により変化したりすることがあります. そのため,同じ食品に対して用いられるおいしさ表現にバラつきがあり,おいしさが想起しづらくなる問題があります.

そこで予備調査を行った結果,感想作成タイミングにより,匂いに関する言及に違いが見られました. このことから,本研究では食事の感想作成タイミングにより用いられるおいしさ表現の違いを分析しました. 3回の調査を行い,感想作成タイミングによる匂い表現の出現割合が最大で19.7ポイントの差があることから,忘れられやすい表現であることや,おいしさ想起において,匂い表現は食品の特徴によらず重要とされる傾向があること,感想作成者自身の情報は重要とされない傾向があることなどを明らかにしました.

分析内容

本研究で得られた知見は以下です.また,本研究ではシズルワードをおいしさ表現として定義しています.

(1) 感想作成タイミングによる比較調査

食事の感想作成タイミングを(1) 食前,(2) 食後,(3) 食後時間経過 の3段階に分け,それぞれのタイミングで出現するおいしさ表現を比較しました. (1),(2)は大学生10名を対象にアンケートし,(3)は食品の口コミサイト「もぐナビ」から収集しました. また,今回は「ルマンド」と「ハッピーターン」に対する感想を対象に分析を行いました.

表1.ルマンドのシズルワードの出現頻度
分析データ 味覚系合計 食感系合計 情報系合計
食前データ
13回
(61.9%)
8回
(38.1%)
0回
(0.0%)
実食直後データ
12回
(50.0%)
11回
(45.8%)
1回
(4.2%)
食後時間経過データ
359回
(53.4%)
238回
(35.4%)
75回
(11.2%)
表2.ハッピーターンのシズルワードの出現頻度
分析データ 味覚系合計 食感系合計 情報系合計
食前データ
8回
(61.5%)
5回
(38.5%)
0回
(0.0%)
実食直後データ
21回
(72.4%)
8回
(27.6%)
0回
(0.0%)
食後時間経過データ
237回
(69.9%)
75回
(22.1%)
27回
(8.0%)

このように,ルマンド,ハッピーたんのいずれも、各タイミングでの出現頻度合計は,味覚系 > 食感系 > 情報型となっており、 出現した割合は,半数以上が味覚系となっていることが分かります.また,食前と食後には情報系のおいしさ表現がほとんど出現していないことから, 食事から感じるおいしさ表現は味覚系が最も多いことが分かります。

また,個々のおいしさ表現の頻度に注目すると,味覚系は1つあたりの表現の出現頻度は高くなく,多様な表現が出現しているのに対し, 食感系は特定の表現が集中して出現する傾向にありました.このことから,味覚系は感想の作成者によって大きく異なる表現がされるが,食感系は多くの人が共通した食感覚を持っていることが分かります.

(2) 匂い表現を考慮した感想作成タイミングによる比較調査

本調査でも同様に感想の作成タイミングを3段階に分け,それぞれのタイミングで匂いに関する言及を含む感想の件数を比較しました. (1)は10名,(2)は13名の大学生にアンケートを実施し,(3)はもぐナビから収集しました. また,今回は「チョコパイ」「ココナッツサブレ」「チョコモナカジャンボ」「ビスケットサンド」「ジャージー牛乳プリン ミルク」の5食品に対する感想を対象にしました.

表3.匂いに関する言及を含むデータの件数
分析データ 言及された件数 言及された件数の割合
食前データ (50件)
4件
8.0%
実食直後データ (65件)
18件
27.7%
食後時間経過データ (1,956件)
302件
15.4%

このように実食直後が最も多くの割合で言及され,次いで食後時間経過,食前という順になっている. このことから,実食直後が食品の匂いを強く知覚するのはもちろんのこと,忘れられやすい情報であることが考えられる.

(3) 感想中の使用表現の有用性調査

本調査では,感想中に使用される表現で,おいしさ想起においてどのような表現が重要とされるのかを検証しました. 口コミサイト「もぐナビ」からレビューを収集し,「食べたい」「おいしそう」と感じる部分に下線を引いてもらい, 下線が引かれた部分を対象に分析を行いました.

表4.おいしさ想起に重要な上位10表現の出現頻度
対象食品 味覚系 食感系 情報系 匂い その他
ソルティ バター
5
4
0
1
0
ふんわり名人 きなこ餅
0
9
0
1
0
ラミー
0
4
2
0
4
じゃがりこ サラダ
7
1
0
1
1
甘栗むいちゃいました
8
2
0
2
2
プリッツ 旨サラダ
8
2
2
1
0

表では,合計値が10でない食品もあるが,これは1つの表現で複数の分野に該当するものを重複してカウントしているためです. この様から,食品によって特徴的なおいしさが異なっていることは明らかであるが,匂い表現はほぼ全ての食品で共通して出現しており, 下線を引いた人数の割合も高いことが分かり,匂い表現は食品によらず共通して重要とされる傾向にあると考えられます.

発表

  1. 林央也, 吉野孝, 平林(宮部)真衣 :食事の感想作成タイミングによるおいしさ表現出現の比較,情報処理学会関西支部支部大会公園論文集,C-17,pp.1―4(2020).
  2. 林央也, 吉野孝, 平林(宮部)真衣 :おいしさ情報と「匂い」:食事の感想作成タイミングによる文中使用表現の特徴分析,ワークショップ2020(GN Workshop 2020)論文集,pp.1―9(2020).

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