背景と目的

住宅を設計する前に間取図を作成しますが,住戸の形状,生活動線,部屋の位置関係など様々なことを考慮しなければならず,多くの労力を要し,時間がかかるという問題があります. そのため,設計士は試行錯誤して作成したり,これまでに作成された過去の間取図を参考に作成することがあります.

現在,過去の間取図を,住戸の横幅や奥行きの寸法を用いて検索していますが,住戸の形状を考慮しておらず,人が直感で似ていると感じる間取図を検索することは難しという問題があります. そこで,本研究では間取図作成にかかkる負担を軽減し,業務の効率化を目指しています. 住戸の形状に着目し,人が直感で似ていると感じる住戸を検索する手法を提案し,さらに部屋の位置関係からより似ている間取図を検索する手法を提案します. また,提案手法を用いたシステムの開発を行います.

提案手法

(1)住戸の形状に基づく類似性

住戸の形状を比較する手法として,人が似ていると感じる曖昧さを許容するため,図形を文字列によって抽象化し,標準化レーベンシュタイン距離を用いて類似性を求めます. そのため,類似度は(1 - 標準化レーベンシュタイン距離)として求めます. 図形をそのまま数値へ置き換え類似性を求める計算を行うのではなく,図形を構成する辺の情報を大まかな特徴として変換することで図形同士の類似性の比較を行っています. 回転や反転を考慮し,比較を行います.

図1に図形の検索結果を示します.四角形に出っ張りがある形状の図形について類似性の高い図形を検索しています. 検索結果の図形は全て,四角形に出っ張りがあるという特徴で共通しており,人が直感で似ていると感じる図形を検索できています.

図1. 類似性の高い図形の検索結果

(2)部屋の位置関係に基づく類似性

次に,住戸の形状によって絞り込んだ後,部屋の位置関係を考慮してより似ている間取図が上位になるよう並び替えを行います. 部屋の隣接関係によって類似性を求める既存手法では,1Kや1LDKといった住戸のパターンが同じ場合,住戸内の部屋の位置関係が異なる場合に類似性を求めることができないということがわかりました. そこで,間取図作成の初期段階で玄関の位置は決定され重要となるため,検索対象の間取図と玄関の位置が似ている間取図が上位になるよう並び替えを行います. そして,玄関の位置が似ている間取図同市では,玄関の位置を基準として,部屋の位置関係をベクトル表現に変換し,コサイン類似度を求めることで,部屋の位置関係による類似性を求めます.

部屋の隣接関係ではなく,コサイン類似度を用いることで部屋の方向の違いを求めることができ,住戸内の部屋の配置のより細かい類似性を評価をすることができます.

プロトタイプシステム

Webアプリケーションとして提案手法を用いたプロトタイプシステムを開発しました.システム構成を図2に示します. これまでに作成された間取図のファイルと住戸の外形の頂点座標や部屋の位置の座標をデータベースに保存し,ユーザが入力した住戸の形状や部屋の位置関係をもとに検索を行います.

図2. マドナビのシステム構成

図3にプロトタイプシステムの画面を示します.画面左側に選択ボタンがあり,画面右側に入力エリアがあります. 1K,1DK,1LDKといった住戸パターンの選択による絞り込み,「形状」ラベルを選択した状態で入力エリアをクリックすることによって住戸形状の入力を行い,図形の類似性による絞り込み, そして,「部屋要素」ラベルを選択した状態でクリックすることによって部屋の位置の入力を行い,部屋の位置関係による並び替えを検索ボタンを押すことによって行います. 形状のみの入力によって検索を行うことも可能です.

検索結果は画面を下へスクロールすることによって確認することが可能で,結果の間取図と,その間取図が含まれるdxfファイルのダウンロードリンクが表示されます. また,別の間取図の検索を行いたい場合は,同様に入力エリアをクリックすることで入力を行い,検索ボタンを押すことによって再検索を行うことが可能です.

図3. マドナビのシステム画面例

デモムービー

参考文献・発表

  1. 土井颯真,吉野孝,本庄麻衣子:形状と配置の類似性に基づく間取り図検索システムの提案,2024年度情報処理学会関西支部 支部大会 講演論文集,G--13,pp.1--4(2024)
  2. 土井颯真,吉野孝,本庄麻衣子:視覚空間の抽象化による図形類似性と部屋の位置関係による間取図検索手法の提案,第124回CN・第42回CDS・第39回DCC合同研究発表会,Vol.2025--CDS--42,No.19,pp.1--7(2024)

連絡先

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