研究
研究テーマ
酸化ガリウム薄膜のミストCVD成長:高品質化と価電子帯構造変調によるp型化の実現
酸化ガリウム薄膜の光物性と、それを応用した深紫外光の高感度光検出
第一原理計算を用いた酸化物材料の結晶成長機構の探求
発表論文と対外発表
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研究成果
酸化ガリウム薄膜による高感度なMSM型深紫外光検出器
"Improvement of Photoconductivity in a-Oriented α-Ga2O3 Thin Films Grown on Sapphire Substrates by Mist Chemical Vapor Deposition", Kazuyuki Uno and Keishi Yamaoka, Physica Status Solidi B 261, 2300463 (2024).
深紫外光はフォトン1つあたりのエネルギーが大きいため、光の強度(ワット数)の割には感度を稼ぐことが原理的に困難です。通常の半導体受光素子が用いる、フォトンを1つ吸収すると、1対の電子正孔対が生成し、それが光電流となるという原理を用いると、受光感度にして0.2 A/W程度が理論限界です。しかし、酸化ガリウム薄膜がもつ正孔をトラップする性質を利用すると、応答速度は犠牲になりますが、高感度な光検出器が実現できます。この報告では、a面サファイア基板上に成長した酸化ガリウム薄膜が、非常に高い受光感度をもつことを報告しました。なお、この論文発表後に行った研究では、m面サファイア基板上に成長した酸化ガリウム薄膜が非常に大きな受光感度をもつことが分かり、特願2024-022399として特許化しました。
ミストCVD成長におけるアルミニウム錯体の確実な錯化による確実なAlGaO混晶薄膜の成長
"Growth of α-(AlGa)2O3 alloy thin films on c-sapphire substrates by mist chemical vapor deposition using acetylacetonated Al and Ga solutions", Marika Ohta, Hiroto Tamura, and Kazuyuki Uno, Applied Physics Express 15, 055502 (2022).
"Control of Al composition of mist chemical vapor deposition grown α-(AlGa)2O3 alloy thin films by acetylacetonation of Al ion", Kazuyuki Uno and Marika Ohta, Japanese Journal of Applied Physics 62, SF1026 (2023).
Al2O3とGa2O3の混晶であるα-AlGaOのミストCVD成長では、原料水溶液による仕込み組成と成膜組成の間に研究報告によるばらつきがありました。この原因として考えたのが、Alイオンの錯化速度が遅いことによる、錯化度のばらつきです。これらの論文では、確実にα-AlGaO混晶を成長するためには、錯体形成速度が遅いAlイオンを、どの程度の温度や時間で錯化しなければならないのかを、ATR (全反射測定法) を用いたFTIR (フーリエ変換赤外分光法) 測定によって詳細に検討し、実証しました。これにより、原料金属イオンを確実に錯化することがミストCVD法にとって重要であることを示しました。
ミストCVD成長においてアセチルアセトナート錯体がもたらす酸化ガリウム成長の強いエピタキシャル成長機構
"Growth mechanism of α-Ga2O3 on a sapphire substrate by mist chemical vapor deposition using acetylacetonated gallium source solutions", Kazuyuki Uno, Marika Ohta, and Ichiro Tanaka, Applied Physics Letters 117, 052106 (2020).
"Prospects for phase engineering of semi-stable Ga2O3 semiconductor thin films using mist chemical vapor deposition", Kentaro Kaneko, Kazuyuki Uno, Riena Jinno, and Shizuo Fujita, Journal of Applied Physics 131, 090902 (2022).
ミストCVD法は、強いエピタキシャル成長性をもちます。これは、ミストCVD法の結晶成長メカニズムが、アセチルアセトナート錯体がもたらす配位子交換メカニズムによるものであることを明らかにしました。一般的なCVD法で言われる熱平衡条件と基板表面での層流形成だけではなく、表面反応によるものであるということです。これにより、基板の原子配列情報を強く参照したエピタキシャル成長が行われているモデルを提唱しました。
2026年1月現在、Web of Scienceのデータで、"Growth mechanisms ..."の論文は被引用数が64本あり、5本のReview論文に図面が引用されています。また、"Prospects for phase engineering..."の論文は被引用数が58本となっています。
水溶液原料を用いた硫化亜鉛薄膜の形成
"Growth mechanisms of zinc oxide and zinc sulfide films by mist chemical vapor deposition", Kazuyuki Uno, Yuichiro Yamasaki, and Ichiro Tanaka, Applied Physics Express 10, 015502 (2017).
塩化亜鉛とチオ尿素の混合水溶液をミストCVDの原料水溶液に用いると、酸化物が生成されずに選択的に硫化物が成膜されます。これは、硫化亜鉛の水溶液からの結晶成長において、クロロ錯体化した亜鉛原子が存在することが必要であることを明らかにしました。
同時に、この現象を用いて、ミストCVD法では原料は気化されたものが供給されて結晶成長に寄与しており、液滴のまま供給されていないことを実証しました。酸化亜鉛に対しても、酸素同位体水H218Oを用いた実験で、原料水溶液が気化されたものが供給されて結晶成長に寄与していることを実証しました。
過去の研究成果
紫外光照射を併用した電気化学反応による酸化亜鉛厚膜成長
"ZnO Thick Film Growth on n-GaN by Photoassisted Electrodeposition", Uno Kazuyuki, Tauchi Yasuhiro, Tanaka Ichiro, Janaese Journal of Applied Physics 52, 08JE16 (2013)
2013年頃まで酸化亜鉛 (ZnO) 基板の製造を行っていたのは、東京電波株式会社のみでした。しかし、同社が村田製作所の完全子会社になったタイミングで、酸化亜鉛基板製造の事業が終了してしまいました。これを受け、東京電波株式会社が行っていた水熱合成法に代わる厚膜結晶成長方法として、電気化学的手法(電着法)に注目し、バルク単結晶の育成に挑戦しました。電気化学的手法は、電流による酸化還元反応を用いるため、基板に導電性があることが求められます。しかし、ZnOはバンドギャップが広く、本来は絶縁体に近い物性をもつため、完全単結晶に近づくほど抵抗率が上がり、電気化学的に結晶成長しなくなります。
そこで、電気化学反応が起きている表面に紫外線を照射し、光導電性を生じさせることで継続的に電気化学反応を起こさせることに成功しました。その際、電極表面の静電容量測定から、ヘルムホルツ面までの距離を制御し、最適な電流条件に保たれるように工夫を行いました。その結果、数100 μmの厚さをもつZnO単結晶の育成に成功しました。
希薄窒化物GaInNAs混晶の熱処理前後における原子配置の変化
"Thermal annealing effects and local atomic configurations in GaInNAs thin films", Kazuyuki Uno, Masako Yamada, Ichiro Tanaka, Osamu Ohtsuki, Toshiyuki Takizawa, Journal of Crystal Growth 278, 214-218 (2005)
[Stanford大学との共同研究] "Nearest-Neighbor Configuration in (GaIn)(NAs) Probed by X-Ray Absorption Spectroscopy", Vincenzo Lordi, Vincent Gambin, Stephan Friedrich, Tobias Funk, Toshiyuki Takizawa, Kazuyuki Uno, and James S. Harris, Physical Review Letters 90, 145505 (2003).
[Stanford大学との共同研究] "Structural changes on annealing of MBE grown (Ga, In)(N, As) as measured by X-ray absorption fine structure", Vincent Gambin, Vincenzo Lordi, Wonill Ha, Mark Wistey, Toshiyuki Takizawa, Kazuyuki Uno, Stephan Friedrich, James Harris, Journal of Crystal Growth 251, 408-411 (2003).
GaInNAs混晶とは、砒化ガリウム (GaAs) に窒素を数パーセント添加し、さらにインジウムを添加して、GaAs基板と格子整合をとるように調整して作製した4元混晶材料です。GaAs基板上に作製できる面発光レーザー用材料として注目されていました。この材料は、結晶性を向上させるために熱処理を行うと、バンドギャップが短波長化するという特徴(工学的には欠点)があります。この原因は、原子半径の小さな窒素原子の隣に、原子半径の大きなインジム原子が配位するように結晶構造が変化するせいであると考えられていました。結晶の構造安定性の観点で考えると妥当な推測ですが、実験的に検証した報告はありませんでした。
この研究では、ECRプラズマソースを備えた分子線エピタキシ (MBE) 装置を用いてGaInNAs混晶薄膜を成長し、その熱処理前後でIn原子周辺の微細構造がどうなっているかを、広域X線吸収微細構造 (EXAFS, Extended X-ray Absorption Fine Structure) 法を用いて評価しました。その結果、最初はランダムに配置されていたインジウム原子と窒素原子が、熱処理によって近接するように位置を変えるよう構造が変化していることを実験的に示しました。EXAFS測定は兵庫県佐用郡にあるSPring-8のBL01B1ビームラインで行いました。格子振動を抑制するために試料を10 Kに冷却し、Ge検出器を用いて蛍光法で測定するという手法を用いました。