1背景と目的

2014 年時点で中国には約 25,000 箇所の病院があり, 約 17,000 人の皮膚科医が勤務している.皮膚科医は 1 日当たり約 100 人の患者を診断している .日本厚生 労働省の調査によると,2019 年における皮膚科医の週 平均労働時間は 53 時間 51 分であった.週 5 日の勤務 日であれば,一日当たり 10 時間以上働く必要があり, 皮膚科医の負担が大きいことが分かる.医師が長時間 にわたり多くの患者を診断することで,誤診をする可 能性がある.

皮膚病は一般的によく見られる病気であり,疾患部 位は皮膚である.また,皮膚病は視診だけで判断でき る場合が多く,特徴は直観的で比較的分かりやすい.そ のため,皮膚科医の仕事の負担を軽減するために,医 師の診断を支援する AI が役立つと考えられる.

本研究では深層学習モデルを通じて高精度の皮膚病分類システムの構築,患者は診察前に自分の病状を把握,医者はAIの結果に基づいて診断,医者の負担を軽減,誤診を避ける

2提案手法

(1) システム概要

本システムでは,深層学習モデル EfficientNet V2 をメ インモデルとして用い,ISIC 2019 皮膚病データセット の分類を行った.モデルを修正することで,データ セットに対してより適切な分類モデルを得ることができ る.本システムの処理の流れを述べる.まず,ImageNet データセットを用いて事前学習を行い,学習済みのモデ ルを取得する.その後,転移学習の手法を用いて,ISIC 2019 皮膚病データセットで再学習を行う.EfficientNet V2 モデルに新しいアテンション・モジュールを追加す ることで,モデルの精度向上を目指す.

(2) 転移学習

転移学習とは,新しいタスクのパフォーマンスを向上 させるために,学習済みのモデルを新しいタスクに適 用することである. 多くのタスクでは,高い精度を達 成するために複雑なモデルを使用する必要がある. し かし,複雑なモデルは多くのデータと計算量を必要と し,学習に多くの時間がかかる. このとき,転移学習 を利用することで,学習済みのモデルを新しいタスク に適用し,新しいタスクのパフォーマンスを向上させる ことができる.転移学習の際に使用する ImageNet デー タセットは,現在世界最大の画像認識データベースで あり,転移学習でモデルの精度を向上させるために広 く使用されている.

(3) 使用するモデル

使用する深層学習のモデル,EfficientNet V2は,Google チームによる EfficientNet のアップグレード版であ り,EfficientNet の上に Fused-MBConv を探索空間に導 入し,漸近学習のための適応的な正則強度調整機構を備 えている.また,複数のベンチマークデータセットで 高い性能を達成し,学習が高速化されている.

Efficient Net V2 深層学習モデルは MBConv と Fused-MBconv の ブロック構造が含まれている.その中で,MBConv モ ジュールは SE アテンションモジュールを使用してい るが,モデル精度をさらに向上させるために,本研究 では,MBConv モジュールに Non-local アテンションモ ジュールを追加した.図 1 は MBConv の本来の構造, 図 1は本研究で MBConv を改善した構造である.

 MBConv 構造と本研究で改善した MBConv 構造
図1. MBConv 構造と本研究で改善した MBConv 構造

(4) データ前処理

本研究で使用するデータ前処理について説明する. データセットをランダム水平反転,ランダム垂直反転, 20 度 [-10,10] の範囲でランダム回転,ランダムカラー ジッタを行う.次にデータセットをするために,入力 データの平均値μ,標準偏差σを得る.入力データは 線形変換により平均値が 0,標準偏差 1 の標準正規分 布に変換される.これにより,収束が加速され,演算 速度が向上する.

3実験と結果

(1) 使用するデータセット

本研究で使用する ISIC 2019 皮膚病データセットは, 合計 25,331 枚の皮膚科学的画像で構成され,そのうち 80% はモデルのトレーニングに使用し,20% はテスト セットとして使用した.また,学習データには 8 つの カテゴリの皮膚病が含まれており,テストデータには 8 つのカテゴリの皮膚病及び皮膚病ではない画像が含ま れている.データセットには,メラノーマ,母斑,脂腺 角化症,基底細胞癌,光線性角化症/ボーエン病,皮 膚線維腫,血管病変,基底細胞癌などの皮膚疾患が含 まれている. 本研究では ImageNet データセットを用いた転移学習 を行い,モデル精度の向上を目指す.

(2) モデル評価

本研究で学習したモデルはAccuracyを用いて評価を行った.non−localモジュールを加えたモデル分類精度は,図2のように、Efficientnet V 2本来のモデルよりも精度が高い. 図 2は2つのモデルによるISIC 2019データセット分類の精度.

テストセット上での精度(acc)
図2. テストセット上での精度(acc)

4システム出力の画像

画像の分類結果

学習したモデルによる画像の分類結果として基底細 胞癌と分類されたものを図3に示す.図3では,分類 の結果に加えて,入力画像と分類された皮膚病画像と の類似度を示した.

出力の画像
図3. 出力の画像

発表

    趙 菁悦, 吉野 孝: 深層学習モデル EfficientNet V2 に基づく皮膚病分類システム, 情報処理学会全国大会(2024) 6T-08.

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