背景と目的

厚生労働省の看護職員需給分科会中間とりまとめでは,急速な高齢化が進む日本は,第1次ベビーブームに生まれた世代,いわゆる団塊の世代が2025年に75歳以上となります.その結果,医療・介護の需要がピークを迎え,看護師が不足する病院が大半を占めることになると言われています.

したがって,看護師の人手不足が深刻になると予想され,今以上に多忙となり,看護師業務手順でのヒヤリハットは増加すると考えられ,その対策が必要であります.看護師業務における注意事項の確認方法として,指さし・呼称・チェックリスト・ダブルチェックなどが多く利用されています.しかし,看護師1人で対応する業務における医療事故を未然に防ぐ手法は確立されておらず,ミスを減らすための対策が必要であと考えます.

そこで我々は,ハンズフリーで利用でき,軽量なスマートグラスを用いることで,看護業務の安全の向上を図る.スマートグラスで撮影した画像から,医療機器を認識し,その認識結果から医療者が作成した注意事項や手順を表示することで医療ミスの防止と経験の浅い看護師に向けた支援を行う,看護師向けの医療安全向上のための注意喚起システムを提案します.

システム構成

本システムでは,スマートグラスで撮影した画像を,サーバ内で認識し,医療行為を特定,その注意喚起情報を表示するシステムです.図1にシステム構成を示します.

システムの構成図
図1.システム構成図

(1) スマートグラス内のアプリを起動

看護師はスマートグラスを装着し,内部のアプリを起動します.あらかじめ,情報の重要度から3段階に分けた注意喚起情報を何段階目まで表示するかをアラートレベルとして設定します.これは,看護師業務の熟練度によって変わります.その後,端末に接続されているカメラが起動します.

(2) 医療機器の認識

端末で撮影した映像がサーバに送信され,サーバが受信した映像を用いて,医療機器を学習させた物体検出モデルを実行し,医療機器を認識します.そして,認識結果から特定した看護業務名を返します.

(3) 注意喚起情報の表示と確認

看護業務名とアラートレベルから,看護業務における注意喚起情報をスマートグラスのディスプレイに表示します.看護師が最初に表示された注意喚起情報を確認した後,KinemicBand を用いたジェスチャー操作を行うことで,次の情報が表示されます.

システム画面のイメージ

本システムの画面のイメージを図2に示します.

認識された医療機器から特定した医療行為名,それに関する注意喚起情報とアラートレベルが表示されます

注意喚起情報表示例
図3.注意喚起情報表示例

ジェスチャー操作

清潔状態を維持するためにジェスチャー操作を行います.

操作方法として,リストバンド型のKinemicBandを採用しています.

この動画では,チェックマークが「次の画面へ」 反時計回りが「一つ前の画面へ」 エックスマークが「アプリの終了」になっています.

医療機器認識モデルの学習

医療機器を認識する物体検出アルゴリズムはYOLOv8を用いています.

学習データには,和歌山県立医科大学医師の協力のもと撮影させていただいた動画データから抽出した画像データを使用しています.テストデータを,気管カニューレのみの学習をしたモデルと yoloが提供するcoco事前学習済モデルを使用したモデルで比較して精度評価を行いました.

図2に医療機器の精度結果を示します.適合率は,どれほど誤認識がなかったのか.再現率は,どれほど見逃しがなかったのかを示しています.

認識結果例
図2.認識結果例:気管カニューレ

参考文献・発表

  1. 弓場陽月,吉野孝,西川彰則: スマートグラスを用いた看護師向けの 医療安全向上システムの提案, 情報処理学会,第86回全国大会講演論文集,2ZF-04 (2024).

連絡先

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