背景と目的
近年,ソーシャルメディアが普及し,情報の発信や検索をする上で重要なツールになっています. ソーシャルメディアでは,誰でも気軽に情報を投稿したり共有したりできるため,正しい情報だけでなく「流言」が広がってしまうという問題があります.
流言とは,十分な根拠がなく正しいかどうかわからない,または人々がその正しさを疑っているような情報のことです. 似たような言葉としては「うわさ」や「デマ」などがあります. 誤った医療知識や災害情報など,流言には人命に関わるものも存在するため,私たちは日ごろから受け取る情報に注意をする必要があります. そこで私たちは,流言の注意喚起を行うボット「ちるも」を開発しています.ちるもは,LINE上で利用できるチャットボットです.
図1. ちるもの動作例 |
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しかし,日々発生する流言をのすべてを確認してもらうのは,システムを利用する上でユーザにとって大きな負担となります. そこで本研究では,流言を見たときに人々が抱く「感情」と,流言の内容に対する「関心度合い」に着目して, 特に優先して注意喚起を行うべき流言について分析します.
分析について
(1)分析手順
はじめに,流言情報クラウドおよび FactCheck Naviから流言を収集しました. これらに対してGoogle Language APIを用いて感情極性の判定を行い, ポジティブ(極性値が0.1 ~ 1.0),ネガティブ(極性値が-1.0 ~ -0.1),ニュートラル(極性値が0と判定された流言をそれぞれ同じ割合になるよう無作為に抽出し, 合計90件(流言情報クラウドから75件,FactCheck Naviから15件)の流言を分析対象としました.
次に,分析対象の流言に対する評価を行いました. 10名の評価者が流言それぞれに対して,「この内容に興味がある」,「この内容に対して『怒』の感情を抱いた」といった項目を評価しました. 評価する感情は,Plutchikの基本感情モデルの各感情を中村が日本語における感情に置き換えたものに基づいています(表1).
表1.感情と感情極性 | ||||||||
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分析対象の流言を「この内容に興味がある」という質問に「強く同意する」または「同意する」と回答した人数で降順に並べ, 上位10%(13件)を「関心度合い上位グループ」,下位10%(14 件)を「関心度合い下位グループ」として比較を行います.
(2)分析結果
表2は「この内容に対して〇〇の感情を抱いた」という質問に関して,「強く同意する」または「同意する」と回答した人数の平均です.
ネガティブな感情はいずれも関心度合い上位グループと下位グループでWilcoxonの順位和検定によりは有意差が見られました. したがって,ユーザにネガティブな感情を抱かせる流言はユーザの関心度合いが高いといえます.
一方で,ポジティブな感情はいずれも関心度合い上位グループと下位グループでWilcoxonの順位和検定により有意差が見られませんでした. 評価者がネガティブな感情を抱いた流言は90件のうち70件以上(表2)あるのに対して,ポジティブな感情を抱いた流言はいずれも43件以下(表2)と少なく, 「ユーザにポジティブな感情を抱かせる流言はユーザの関心度合いが高い」とは言えないことがわかりました.
これらの結果から,人々がネガティブな感情を抱く内容の流言は関心を集めやすく,拡散される可能性が高いため,優先して注意喚起すべきであるといえます. ただし,ポジティブな感情を抱く内容の流言はその数自体が少なく,今回分析に用いた流言の中に含まれていた数が少なかった可能性があるため, 今後は再検討の必要性があります.
表2:「この内容に対して〇の感情を抱いた」に対して同意した人数の平均 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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参考文献・発表
- 西村 涼太, 平林(宮部) 真衣, 吉野 孝:感情極性と関心度合に着目した流言の分析, 2021年度情報処理学会関西支部 支部大会講演論文集, G-31, pp.1-6 (2021).
連絡先
- 西村 涼太:s226188 at center.wakayama-u.ac.jp
- 平林(宮部) 真衣: hirabayasi at m.u-tokyo.ac.jp
- 吉野 孝:yoshino at wakayama-u.ac.jp