背景と目的

貴重な地質や地形を,ガイドの解説を聞きながらめぐる「ジオツアー」が,近年注目を浴びています. 2014年には,和歌山県の「南紀熊野ジオパーク構想地域」が「日本ジオパーク」として認定されました. ジオツアーは,自然の魅力を肌で感じられるだけでなく,ガイドの解説を聞くことで,その地域の地史や文化を知ることができるという魅力があります.

しかし,自然の景観は,天気に左右されることはもちろん,災害などで地形そのものが変化してしまうことがあります. それゆえ,自然の中で行われるジオツアーでは,必ずしもガイドの見せたい風景を,参加者が見られるは限りません. ガイドはそのような状況でも解説を行いますが,口頭説明や紙などの資料だけでは,参加者に伝わりづらいという問題があります.

そこで本研究では,ガイド説明の補助を行う,ジオツアー支援システム「どこジオ」を開発しました. どこジオは,スマートフォンなどのモバイル端末から利用するWebアプリケーションです. 本研究の目的は,このシステムをジオツアーに取り入れて,ガイド説明を理解しやすくすること. そして,より体験的なツアーを行うことで,ジオツアーの魅力を向上させることです.

どこジオのシステム構成

どこジオは,ブラウザ上で動作するWebアプリケーションです.ガイドと参加者は,各自のモバイル端末からシステムを利用します. 本システムは,図1のように構成されます. ガイドがあらかじめ登録した説明や画像は,サーバに保存されています. ツアー中は,サーバを介してガイドが説明や画像を配信します. また,Google Maps APIとYahoo! YOLP APIを用いて,地図データや標高データを取得しています.

システム構成
図1. システム構成

システムの機能

どこジオは3つの主要な機能を備えています.

(1) 説明・画像の配信機能

ガイドがあらかじめ登録した説明文や画像を,参加者に配信することができます. 図2(a)のガイドの画面には,登録されている説明と画像が表示されています. 図2(a)の配信ボタンを押すことで,対応する説明文が図2(b)の参加者の画面に配信されます.

また,画像を配信する際には指で線や文字を書き込むことが可能です. この機能は,画像の中で特に強調したい場所などを示すのに利用します. 図2(a)に表示されている画像をタップすると,図2(c)の画像の編集画面に遷移します. この画面で,ピンク色の線や文字を指で書き込むことができます. 書き込みが終了したら,図2(c)のOKボタンを押すことで,図2(b)の参加者画面に配信されます.

システム構成
図2. 説明・画像の配信機能

(2) 画像の透過機能

この機能は,拡張現実の手法を用いて,風景に情報を付加する機能です. ガイドが用意した画像を,参加者のスマートフォンのカメラ映像に重ねて透過表示します. 図3(a)のガイド画面では,画像を透過したカメラ映像が,参加者にどのように見えているかを確認できます.

ガイドは,図3(a)の画像選択ボタンを押して,遷移先の図3(b)の画像選択の画面から,透過する画像を選びます. 図3(b)の画像選択の画面には,図2(a)で選択しているジオサイトに紐づいた画像が表示されています. 画像を選択すると,図3(c)の画像の編集画面に遷移し,書き込みや透明度の調整を行うことができます. 書き込みせずに配信することも可能で,OKボタンを押すと,図3(d)の参加者の画面に選択した画像が反映されます. 透明度はガイドが設定した初期値になっていますが,透明度調整スライダーで参加者が自由に調整できます.

システム構成
図3. 画像の透過機能

(3) 地図・海抜の表示機能

この機能は,ツアー中歩いている場所を確認する地図,および海抜を表示する機能です. 図4(a)の青いアイコンが現在地を表しています. 赤いピンのアイコンは指でドラッグして動かすことができ,ピンの示す場所の海抜を表示することができます. また,図2(b)に歩いた場所の海抜変化をグラフで表示する機能を示します. 海抜の変化は,1分毎に現在地の海抜を取得し,画面に反映します.

システム構成
図4. 地図・海抜の表示機能

デモムービー

システムの「画像の透過機能」を利用するデモムービーです. 見えている風景に透過した画像を重ね合わせる様子が見られます.

発表

  1. 西村 涼太, 吉野 孝:写真とリアルタイム映像との重畳を用いたジオツアー支援システムの提案, 情報処理学会,全国大会,2020-6ZC-07.

連絡先

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