1 背景と目的

「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録されている高野山は,日本仏教の聖地であり,観光施設や飲食店,多数の歴史的遺産が存在しています.金剛峯寺や壇上伽藍,奥之院など,総坪数 48,295 坪の広大さを誇る境内の中には多くの観光スポットが点在し,様々なルートで高野山を巡ることができます.しかし,境内が広大であるが故に発見されていない観光資源や,密かに話題を集めているが把握しきれていない観光スポットが存在する可能性があると考えられます.

そこで,本研究では観光客のスマートフォンの位置情報から取得した人流データと観光施設情報に着目した分析を行います.時系列に沿った分析を行うことで,観光客の動向を把握し,実際の観光客の詳細な行動特性を明らかにすることを目的としています.

2 分析内容

分析には,実際に高野山で収集された2か月分の人流データ,及び高野山内の観光施設情報を使用しています.また,本研究で使用したメッシュは全て500m四方のメッシュです.

(1) 観光客の観光時間特性の分析

メッシュ別に,1時間ごとの人数の推移をグラフ化しました.休日・祝日・行事日と平日を区別し,月ごとに分析を行いました.2か月間を通して傾向に大きな違いが見られなかったため,ここでは1か月分のみのグラフを掲載しています.

人数の推移
図1.1時間毎の人数の推移

図1の結果から,メッシュによって混み合う時間帯にはほとんど差がない事が明らかになりました.また,以下のような可能性が考えられます.

  • 平日の午前8時に,バスで帰宅する宿泊客が増加する可能性.
  • 休日・祝日・行事日の午前12時に,飲食店が多く集まる場所へ観光客が流れる可能性.
  • (2) メッシュ間の人流の分析

    メッシュ間の人の動きを可視化する事を目的として,隣接するメッシュ間の人数の変化を分析しました.今回は,平日・休日それぞれ特に人数の多かった1時間に着目しました.図2中の割合は,6つのメッシュ内での合計人数の内何%の人がメッシュ間を移動したのかを表しています.

    モデル
    図2.人流データを利用した人の動き
     
     

    図2の結果から,平日の方が人の動きが大きい傾向があると考えられます.

    (3) 人数と観光施設の関係性の分析

    観光客数の合計が多かったメッシュ内に含まれる観光施設を調査しました.今回は人数が多かった上位10メッシュを掲載しています.

    表1.人数が多かった上位10メッシュ
    メッシュコード
    10月
    (位)
    11月
    (位)
    含まれる主な施設
    513524564
    1
    1
    金剛峯寺,複数のバス停
    513524574
    2
    4
    奥之院(一の橋付近)
    513524563
    3
    2
    壇上伽藍,高野山高校
    513524583
    4
    3
    中の橋駐車場,複数の飲食店
    513524681
    5
    5
    奥之院(中心部)
    513524683
    6
    8
    奥之院(最奥付近,休憩所)
    513524562
    7
    7
    高野山大学・小学校
    513524573
    8
    6
    宿坊,複数のバス停
    513524561
    9
    9
    宿坊,高野山霊宝館
    513524761
    10
    10
    高野駅(ケーブルカー)
     

    表1から以下のような結果が得られました.

  • 駐車場・駅・バス停が多く含まれていました.
  • 11位以下のメッシュにはドライブウェイやドライブインが多く含まれていました.
  • 町石道や高野街道京大阪道(高野七口)が含まれていたメッシュに関しては,世界遺産に登録されているにも関わらず観光客は比較的少なかったため,更なる集客を見込める可能性があると考えられます.
  • 発表

    1. 森川 大翔,吉野 孝,木川 剛志,尾久土 正己,吉田 純也:観光支援のための観光施設情報と人流データの関係性の分析,情報処理学会,第84回全国大会,2ZL-01

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