背景と目的
近年,SNSの普及によりインターネット上での個人の情報発信が盛んに行われています.特にTwitter(参考:ホーム|Twitter)などのマイクロブログでは,誰でも気軽に情報を共有,発信し,必要な情報を簡単に取得することができます.しかし,それらの情報の中に紛れている流言を信じてしまったり,拡散してしまったりする可能性があります.
Twitter Japanは2020年3月23日,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を受け,「漂白剤を飲めばCOVID-19は治る」「食料品の入荷がなくなるので急いで買いに行こう」など間違った情報などが含まれるツイートについて削除を要請すると発表しました(参考:Twitter、日本でも新型コロナ関連のデマや誤情報に削除要請 冗談でも|ITmedia).このように,流言には社会的混乱を引き起こすような内容のものもあり,Twitterのような気軽に情報を発信・拡散できるメディアでは,ユーザの情報に対する注意力を高める仕組みが必要です.
そこで本研究では,流言訂正者に着目します.流言訂正者とは,ある内容が流言である事を指摘し,他のフォロワーに注意喚起する情報発信者を指します.本分析では,1か月分の流言訂正情報を用いて,流言訂正者の特徴を分析します.
分析の概要
(1) 本研究における「流言」の定義
十分な根拠がなく,その真偽が不明,または真偽が人々に疑われている情報
(2) 流言訂正者の「訂正の仕方」に着目
・発信ツイート:発信者自身が作成したと考えられる訂正ツイート
・拡散ツイート:他者の発言内容を拡散しているだけの訂正ツイート
(3) 流言訂正者の「訂正回数」に着目
・単発訂正者(訂正回数:1回):偶発的に訂正を行っている可能性
・複数訂正者(訂正回数:2回以上):流言に対して敏感で,意欲的に訂正を行っている可能性
(4) 分析対象データ
・流言情報クラウド(図1)において収集されたデータ
‣ 期間:2020年9月1日~9月30日
‣ ツイート数:16,663件
(5) 流言情報クラウド
流言訂正情報をもとに流言情報を取得
図 1. 流言情報クラウド |
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訂正回数に着目した分析
ユーザの訂正回数による分類を行った結果は,以下の通りです.
・訂正回数が1回のユーザ:90.8%
・訂正回数が2回のユーザ:7.4%
・訂正回数が3回以上のユーザ:1.8%
分類の結果,訂正回数が1回のユーザは,全体の90.8%であり,全訂正回数別ユーザ数の大半を占めていました.このことから,訂正情報の「発信・拡散」は単発的に行われることが多く,複数回にわたり意欲的に訂正を行うユーザは少ないという知見を得ることができました.
訂正の仕方に着目した分析
ユーザの訂正の仕方による分類を行った結果は,以下の通りです.
・発信ツイートのみを行ったユーザ:5.1%
・拡散ツイートのみを行ったユーザ:94.2%
・発信と拡散ツイートの両方を行ったユーザ:0.6%
分類結果,拡散ツイートのみを行ったユーザは全体の94.2%であり,全訂正の仕方別のユーザ数の大半を占めていました.このことから,流言訂正者は自分の意図を含まない,訂正情報の「拡散」という形で投稿するという知見を得ることができました.
複数訂正者の発信ツイートを分析
・分析対象データ
‣複数回(2回以上)訂正を行ったユーザの発信ツイート:606件
・複数回発信ツイートを行ったユーザを分類
(A)投稿内容(文字列)が全て異なるユーザ
(B)投稿内容(文字列)が全て同じユーザ
(C)投稿内容(文字列)が一部同じユーザ
(A)投稿内容が全て異なるユーザ
分類(A)のユーザは,流言の訂正回数の最頻値が2回であり,訂正頻度は低い傾向に見られました.特に訂正回数の多い上位5ユーザに関して,訂正内容の確認をしました.結果,訂正回数が14回,16回,17回のユーザは,新型コロナウイルスに関連する流言について,訂正回数が7回,9回のユーザは,外国人に対して悪意のある流言について,リプライによる訂正情報の発信を行っていました.これらのことから,(A)に分類されるユーザは,重要性の高い流言に対して,リプライによる訂正を行うという知見を得ることができました.
(B)投稿内容が全て同じユーザ
分類(B)のユーザは,流言の訂正回数にばらつきがあり,同一内容のツイートを20回以上投稿しているユーザも見られました.訂正回数が25回,27回のユーザの訂正内容を確認しました.結果,特に注意が必要な流言に対する訂正内容はありませんでした.これらのユーザは30日間にそれぞれ25回,27回の同一内容を発信していることから,自動的にツイートを投稿するボットである可能性があります.
(C)投稿内容が一部同じユーザ
分類 (C) のユーザは,訂正回数の範囲が分類 (A),(B)と比べて大きく,訂正回数が極端に多い(149 回)ユーザも存在しました.訂正回数が多いユーザのツイート内容を確認した結果,複数種類の訂正ツイートを繰り返して投稿する傾向があるユーザや,全く同じ内容であるが,投稿に含まれる URL のみが異なるために別のツイートであるとみなされたツイートを投稿しているユーザでした.これらのことから,ある期間内において訂正回数が多いユーザは,ボットである可能性があるという知見を得ることができました.
また,分類 (B) のユーザと同様に,訂正されている情報の重要性は低い傾向にありました.このことから,ユーザの訂正回数の多さを幅広い訂正情報の収集や情報の重要性といった指標として扱うことは難しいという知見を得ることができました.
今後の予定
今後,意欲的な訂正情報発信者および偶発の発信者のいずれについてもより詳細な分析を進め,それぞれに関して,注意喚起の仕組みの構築において活かせる特性の有無を検証を目指します.
口頭発表
- 草竹 大暉,平林(宮部)真衣,吉野 孝 : Twitterにおいて流言訂正情報を発信・拡散するユーザの特徴分析,情報処理学会第83回全国大会,5ZA-05,第4分冊,pp.161-162 (2021-03-19).
連絡先
- 草竹 大暉 : s236097[at]wakayama-u.ac.jp
- 吉野 孝 : yoshino[at]sys.wakayama-u.ac.jp