背景と目的
高野山は1,000m級の山々に囲まれた標高約800mの平坦地に位置する和歌山県有数の世界遺産です.
高野山を訪れる主な手段として,電車やバスなどの公共交通機関が挙げられますが,自家用車やレンタカーなどの車で訪れる観光客も多いです. 特に10月から11月の秋期にかけて,紅葉スポットとして人気で,車での観光客も増加します. そのため,高野山内の主要道路において渋滞が発生することが問題となっています.
そこで本研究では,高野山に設置されたカメラから収集された車のナンバープレートと観光客のスマートフォンから取得したGPSによる人流データに着目した分析を行いました. この分析により,ナンバープレートと人流データの新たな活用方法として,観光地での渋滞混雑の解消を狙います.
分析対象データ
(1) ナンバープレート
高野山にカメラを3か所に設置し,収集されたデータ.カメラ設置箇所は図1です.
・期間:2021年10月1日~2021年11月30日の2か月間
(2) 人流データ
スマートフォンから収集したGPSから生成.
ある範囲・時刻に,おおよその滞在した人数が分かるデータであり,このデータを高野山内の人数として分析を行いました.
・期間:2021年10月1日~2021年11月30日の2か月間
(3) 南海電鉄切符枚数
高野山駅における1日単位の降車人数のデータ.
・期間:2021年10月1日~2021年11月30日の2か月間
(4) 平均乗車人数の推移
車に何人乗車しているかのデータで,国土交通省が公開するデータ.
・期間:2015年が最新であったため,2015年のデータを使用
図 1. 高野山地図とカメラ設置箇所 |
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人流データとナンバープレートを組み合わせた分析
高野山への主な交通手段が電車と車であることに着目し,仮説を立て分析を行うことで,高野山への訪問者数・交通手段の推定を行いました.結果は表1のようになりました.
仮説:(人流データ)=(電車の降車人数)+(車利用者数)
▶仮説はほぼ正しい
▶若干の誤差が見られるが,高野山はバイクなどのツーリングとしても人気のため,バイクではないかと考えられる.
表1.仮説の図 | |||||||||||||||
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ナンバープレートの分析
渋滞混雑状況の把握や高野山内の道路による違いを分析しました.
(1) ABルートにおける渋滞混雑状況の分析
10月と11月の休日について,15分ごとの平均時速の推移を調査しました.結果は図2のようになりました.
▶10月,11月ともに,11時から12時が特に混雑
▶11月の方が5km/hほど遅くなる
図 2. 10月,11月における休日の平均時速 |
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(2) AB・ACルートにおける通過車両の比較
ABルートの迂回路であるACルートに着目した分析を行いました.
▶距離や所要時間はほとんど同じ
ACルートに比べABルートは,10月が約9倍,11月が約8倍
▶11月のABルートは25,566台,ACルートは3,252台
11月3日の9時と10時に着目すると,ABルートは約5倍となりました.結果は図3のようになりました.
図 3. 11月3日におけるAB・ACルートの通過車両台数 |
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渋滞緩和策の検討
以上の分析結果から,以下の4点の渋滞緩和策の検討を行いました.
(1) 「LED表示機」をA地点に設置
・高野山内の渋滞混雑を知らせる
・C地点付近の駐車場の空き状況を案内
▶ACルートへの迂回を促進
(2) 無料バスと駐車場を拡大新設
・積極的に高野山内の無料バスを利用した移動へと誘導
・C地点付近の竜射場を拡大新設
▶ACルートへ迂回した車が駐車することを目的
(3) ACルートに「道の駅」を建設
・日常的にACルートへの需要を高める
▶ABルートの車両台数減少を目的
・「高野山ならでは」を取り入れた道の駅
▶観光施設としても利用可能
(4) 高野山ブランドの利用
・「高野山はお大師さん以来,環境に配慮した山」
▶混雑期には許可された車以外は進入禁止とすることで,逆に「不便さ」を売りにする
発表
- 井口 拓己,吉野 孝,木川 剛志,尾久土 正己,吉田 純也 : 渋滞緩和策検討のためのナンバープレートと人流データを用いた混雑状況に関する分析,情報処理学会第84回全国大会,4ZG-02,第4分冊,pp.309-310 (2022-03-04).
連絡先
- 井口 拓己 : s246008[at]wakayama-u.ac.jp
- 吉野 孝 : yoshino[at]sys.wakayama-u.ac.jp