1背景と目的
現在の在宅医療では,多職種の医療スタッフが,それぞれ患者とその家族に介入することで,様々な医療サービスが提供されています. しかし,スタッフ間の情報交換には問題があり,スムーズに行われているとは言えません.
そこで,詳細な医療情報の共有,コミュニケーション支援を行うシステムを開発し,医療スタッフ間でのスムーズな連絡・情報交換 を可能にすることを目的としています.
2旧システムから新システムへ
当研究室では過去に,PDAを用いた在宅医療支援システム「在宅支援ネット」を開発し,医療現場に導入しました.しかし,無線通信の不安定さ などが問題になり,診療現場での継続的な利用が難しいことが分かりました.
そこで,同期・非同期対応型の「在宅支援ネット2」を新たに開発しました.在宅支援ネット2では非同期での利用を可能にしており, 非同期での利用を考慮したセキュリティ対策やデザインの改良を行っています.
3在宅支援ネット2の特徴
(1) 同期・非同期利用
在宅支援ネット2では,同期・非同期双方での利用を可能にしています.図1に構成を示します.患者宅でのネットワークへの接続が容易な場合はサーバにアクセスし,直接情報の入力・参照を行います(図1 白矢印).また,接続の困難が予想できる場合は,PC 上で動作する専用の情報中継ソフトによって事前に患者情報,医療関係者情報等の取得・暗号化を行い,これらの情報を含むファイルをPDA 内に作成します.患者宅ではこのファイルを利用することによって,非同期でのシステムの利用が可能になります(図1 黒矢印).
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図1. 在宅支援ネット2の構成 |
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(2) セキュリティ対策
在宅支援ネット2は医療情報を扱うシステムであるため,セキュリティの問題は十分考慮する必要があります.そこで本システムでは主に以下のセキュリティ対策を行っています.
- 利用認証
- システム起動時にユーザ名とパスワードの確認を行うようにしています.
- ファイル内容の暗号化
- システムを介さない利用を防ぐため,PDA内に保存するファイルをすべて暗号化しています.
- システムの自動終了
- システムが利用認証に成功した状態で放置されることがないよう,一定時間入力がなかった場合にシステムを自動的に終了します.
- 利用が終了した時点でファイルを削除
- ファイルが長期間PDA内に残らないよう,データをサーバ上にアップロードした時点でファイルを削除します.
- SSL通信の利用
- サーバへのアクセスは全てSSL通信を利用しています.SSLは情報を暗号化して送受信するためのプロトコルです.
- システム起動時にユーザ名とパスワードの確認を行うようにしています.
(3) 画面遷移・入力補助機能
PDAでは小画面内に大量の情報を表示することになるため,画面遷移用コンボボックス,画面内検索機能,スクロールボタンなどの画面遷移補助機能を用意しています.また,PDAはテキスト入力に手間がかかるのも欠点の一つであるため,登録済みの情報を利用し,入力を補助する機能も用意しています.図2に補助機能の例を示します.
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図2.補助機能を用いたカルテ記入画面 |
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口頭発表
- 榎本 紗耶香,幸村 陽子,吉野 孝,紀平 為子,入江 真行:PDAを用いた同期・非同期対応型在宅医療従事者間情報共有システムの開発, 情報処理学会第69回全国大会講演論文集,pp.657-658,March.2007
- 榎本 紗耶香,吉野 孝,紀平 為子,入江 真行:在宅診療現場における同期・非同期対応型情報共有システムとそのセキュリティ対策, 第27回医療情報学連合大会,3-H-2-2,Nov.2007
- 榎本 紗耶香,吉野 孝,紀平 為子,入江 真行:在宅診療現場における同期・非同期対応型 情報共有システムの開発とその評価, 情報処理学会第70回全国大会講演論文集,3ZH-8,March.2008
共同研究
本研究は関西医療大学保健医療学部紀平為子先生,和歌山県立医科大学医学医療情報部入江真行准教授と共同で行っています.連絡先
- 榎本 紗耶香:s095005 at sys.wakayama-u.ac.jp
- 吉野 孝:yoshino at sys.wakayama-u.ac.jp