1背景と目的
近年,PC やタブレット端末を用いたデスクワークや学習が日常化しており,長時間にわたり同一の姿勢で作業を続ける機会が増加しています.長時間作業を続けていると,集中力の低下や眼精疲労が生じ,作業効率が低下する可能性があります.そこで作業効率を高めるための方法として,短時間の作業と休憩を繰り返すポモドーロテクニックという時間管理手法が知られています.しかし,作業に没頭している状態では,時間の経過を意識して自発的に作業を中断し,休憩を取ることが困難です.そのため,作業・休憩の切り替えを外部から適切に支援する必要があります.
現在,作業・休憩の切り替えを支援する既存の手法として,タイマーによるアラート通知や,画面上のポップアップ表示による注意喚起が広く用いられています.しかし,これらの手法は視覚的・聴覚的な刺激を直接的に提示するものであり,利用者に心理的負担や煩わしさを与える可能性があります.
そこで本研究では,通知や指示といった直接的な介入を行わず,非侵襲的に利用者の行動を誘発する手法として,影を用いたシステムの開発と評価を行います.本システムでは作業・休憩の切り替えを促したいタイミングで,影をあえて非同期に動かし,「伸び」などの行動を誘発することで,自然な形で休憩への移行を促すことができると考えています.
2システム概要
(1) システム構成
システム構成を図1に示します。本システムは,Webカメラ,姿勢推定モジュール,影生成モジュール,およびプロジェクタから構成されています.
(1)姿勢情報の取得:Webカメラで取得した映像を入力として,姿勢情報を算出します.
(2)影映像の生成:取得した姿勢情報をもとに「同期影」「非同期影」という二種類の影を生成します.
(3)影の投影:生成した影映像をプロジェクタで壁面に投影します。
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| 図1. システム構成 |
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(2) 「同期影」と「非同期影」
生成する影には「同期影」と「非同期影」の二種類があります.
(1)同期影:姿勢情報に従って生成される影で利用者と同じ動きをします.通常の作業時や休憩時に提示します.
(2)非同期影:指定されたタイミングで生成される影で利用者とは異なる動きをします.休憩への移行や作業への復帰時に提示し,自然な形で行動誘発を行います.
4実験
今回,「影の動きは,作業・休憩の切り替えを誘発できる」と「影による誘導は,タイマー通知と比べて心理的負担を抑えられる」という二つの仮説を立てて実験を行いました.
実験参加者には,PCを用いた自由作業を行ってもらい,タイマー通知による合図,影システムによる合図の両方を体験してもらいました.
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| 図2-1. 作業から休憩への切り替え時間 |
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| 図2-2. 休憩から作業への切り替え時間 |
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図2-1と図2-2は,タイマー通知と影システムそれぞれの合図に対して,行動切り替えまでにかかった時間(反応時間)を集計したものです.両方のデータに対してt検定を行ったところ,作業から休憩への反応時間のp値は0.01,休憩から作業への反応時間のp値は0.003となり,影システムのほうが有意に長い反応時間を示しました.このことから影の投影による行動誘発は,従来のタイマー通知よりも緩やかな行動誘発につながることが示唆されました.
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| 図3. 心理的負担の評価 |
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図3はタイマー通知と影システムそれぞれの合図に対して心理的負担を感じたかを評価したものです.t検定を行った結果,p値は0.01となり影システムの方が有意に心理的負担が低いことが示されました.このことから影の投影による行動誘発は,従来のタイマー通知よりも心理的負担を軽減する可能性があることが示唆されました.
6おわりに
本研究では,影を用いた非侵襲的な作業・休憩切り替え支援システムを開発し,その有用性を定性的・定量的に示しました.影による合図は,従来のタイマー通知よりも緩やかな行動誘発を促し,心理的負担が軽減される可能性があることを示しました.
今後の課題として,同期影の精度向上および気づきやすい影の動作パターンの検討が考えられます.
発表
- 青山侑暉, 吉野孝: 影の投影による行動誘発を用いた非侵襲的な作業・休憩切り替え支援システムの提案,情報処理学会全国大会(2026),4ZN-05.
連絡先
- 青山 侑暉:s2310001 [at] wakayama-u.ac.jp
- 吉野 孝:yoshino [at] wakayama-u.ac.jp



