以下では、卒業論文の書き方についての
一般的なガイドラインを示します。
なお、卒論の作成・提出方法は各研究室で異なるので、
各研究室の指導教官の指示に従って下さい。
★ 卒論作成のスケジュール
卒論の提出時期は、大体、2月中旬から下旬です。従って、
そこから逆算すると、
遅くとも1月中に研究を完成させ、2月に入ったら
卒論を書きはじめることを目標にすればよいでしょう。
論文をはじめて書く人がほとんどだと思うので、
草稿が書けた段階で指導教官に見てもらう
ことが必要になります。指導教官からアドバイスを受けて修正する
ことを何回か繰り返すことになるので、修正の期間として
最低1週間は見ておいた方がよいでしょう。
なお、この頃になると時間的にも余裕がなくなってきます。
マシントラブルが起こって、
折角書いた論文のファイルが消えて
しまったり開けなくなると取り返しがつかないことになります。
重要なファイルは必ずバックアップを取っておきましょう。
(先生の内輪話)
卒業論文は通常、卒論発表会で先生の間で回覧されます。
発表会では一人当りの発表時間は限られているので、
先生は論文全部を詳しく読む時間はありません。
この限られた時間で先生が目を通すのは
論文の概要です。
したがって、ここだけはきっちり書いておきましょう(^o^)。
それから参考文献が少なすぎると、
勉強不足、調査不足が露呈します。少なくとも5つ。教科書的なものだけでなく、
関連研究の論文を引用した方がよい。Webページの引用ばかりもよくない。
研究会などで自分の研究を外部発表した場合も、
その論文を参考文献のところに含めておきましょう。
ページ数は 12ポイントで 20ページ程度が平均的。あまりにもページ数が少ないと
目立つので、図を入れたり章と章の間の余白をうまく活用しましょう(^_^;)。
以下では、具体的な書き方について説明します。
★ 卒業論文の書き方
卒業論文は LaTeX や Word などのワープロで書きます。
なお、卒論を LaTeX で作成する場合のテンプレート(sotsuron.tex)は
ここに、見本の PDF ファイル(sotsuron.pdf)は
ここにある。(行数、文字数、テキスト幅などは特に決っていないので、このテンプレートはあくまでも標準的なものです。)
論文の構成は大体、以下のようになります。
- 表紙
- 概要(1ぺージ)
- 目次(1ぺージ)
- 本論(10ページ以上)
- 結論(1ページ)
- 付録(5ページ以下)
- 参考文献(1ぺージ以上)
以下、それぞれの書き方について述べましょう。
■ 表紙
標準的な形式は以下のようなものである。
┌ ┐
XXXX年度 卒 業 論 文
(研究テーマ)
XXXX年YY月ZZ日 ← 提出日
△△△△学科
(学生番号:********)
□□ □□ ← 氏名
◯◯大学◯◯学部
└ ┘
■ 概要
研究論文の内容について、500 - 600 字程度でまとめる。
この概要を読めば、何を研究したのかがわかるように書く。
具体的には、どういう問題について、
どのような研究を行って、その結果どのような
結論が得られたか、というポイントについて簡潔にまとめる。
■ 目次
章立てと対応ページを書く。
(書き方の例)
目次 頁
第1章 はじめに 3
1.1 研究の背景 3
1.2 研究の目的 4
1.3 本論文の構成 5
第2章 準備 6
第3章 本論 11
3.1 問題提起 11
3.2 研究の説明 13
第4章 考察 18
第5章 結論 20
参考文献 21
付録 22
章は必要に応じて増やしてもよい。
■ 内容
研究論文の本体で、以下のような構成で書く。
(なお、以下の章のタイトルは各自で適当に変えてよい)
- 第1章 はじめに
研究の背景・動機・目的などを述べる。
研究の背景については、自分が行った研究分野において、
これまでどのような研究が行われてきたかを、
文献などを参考にして記述する。なお、文献の引用は
以下のように書く(参考文献の書き方参照)。
.... 問題解決にはさまざまな探索法が用いられている [1]。
このうち、ゲームにおける探索戦略としては α-β 法 [2] がある。...
研究の背景を書くのは実は難しい。これは、それなりの文章を書くためには、
その分野の十分な知識が必要とされるからです。卒業研究をする学生は、当然、
キャリアが浅いため、教科書や参考文献に書いてある文章を参考に書くことが多くなります。
しかし、文献に書いてある文章をそのまま丸写しをしてはいけない。
これは著作権の問題とも絡みます。では、どうすればよいか?
文献に書いてある文章を自分の言葉で言い替えること、
それから少なくとも2つ以上の文献を調べて、複数の文献に書いてある
文章から必要な文章を取り出して、自分流にアレンジすればよいのです。
文献に書いてある文章をそのまま引用する必要がある場合はかぎ括弧や引用符などでくくって、
.... 人工知能の未来について、アメリカの計算機科学者カーツワイルは
1998年の著書[3]の中で以下のように予言している。
``2029年までにダウンロード可能な思考が登場し、2099年までには肉体を持たない
知性体が出現することは間違いない"....
のように書きます。
研究の動機・目的については、上述した背景において現状でどのような問題が
あり、その問題を解決するためにどのような手段で研究を行い、その結果
どのような効果が期待されるか、といったことを記述する。
また、章の最後に論文の構成について手短かに書く。
(書き方の例)
.............
.... 研究の背景・動機・目的など .....
.............
本論文では .... について研究を行う。
本論文の以下の構成は次のようになっている。
第2章では、本論文で使用する諸概念について述べる。
第3章では、.... の問題に対して、.... のアルゴリズムを提案し、
第4章では、提案されたアルゴリズムの評価を行う。
最後に、第5章で本論文の結論を述べる。
なお、付録として ...... を加えた。
- 第2章 準備
この論文で使う概念や用語の定義を説明する。
文献にある定義を使う場合は引用先を明示する。
- 第3章 本論
研究の内容について述べる中心部分。構成としては、
本研究で対象とする問題は何かを説明し、
その問題に対して、本研究ではどのような手法により、
どう問題を解いたのかを具体的に詳しく書く。
各章は内容を分けて、3.1, 3.2 ... のように細分化してもよい。
また、論文の読みやすさを向上させるために、
文章だけでなく、図や表などを使って、内容を視覚的に表現する工夫も必要。
図は他文献から参照した場合は必ず文献を引用する。
また、pdf の図を貼りつけると文字がぼやけることがあるので注意。
- 第4章 考察
本研究の結果について、客観的な評価・考察を行う。
本研究によって、どのような有効性が確かめられたか、
関連研究と比較してどのようなメリットがあるか、などを書く。
またプラス面だけでなく、本研究の限界、問題点などについて言及することも必要である。
また、こうした問題点がなぜ生じたのか、その問題を解決するためにはどうすればよいか、
などを考察する。
- 第5章 結論
本研究で何を明らかにしたのか、また、
今後の課題としてどのような問題が残されているのか、
といったことをまとめる。
- 謝辞
本研究でお世話になった人へのお礼を簡潔に書く。
例:本研究を行うに当たり、ご指導を頂いた□□教授に感謝します。
また、日常、有益な議論をして頂いた研究室の皆様に感謝します。
- 参考文献
論文を書く上で参考にした文献を、番号を振って列挙する。
書籍の場合は、(著者、本の名前、出版社、発行年)、
論文や雑誌の解説記事の場合は、(著者、論文名、出典、ページ、発行年)を書く。
Webページの場合は、ページのタイトル(もしあれば)と URL を書く。但し、
URL はリンクが切れることがあるので、参照した年月を書いておく。
(例)
[1] 長尾真:知識と推論,岩波講座ソフトウェア科学14 (1988)
[2] 実近憲昭: ゲームと AI,人工知能学会誌 vol.5, pp.527-537, 1990.
[3] 人工知能の歴史 http://www.jinkochino-no-rekishi.com (2010年2月参照)
LaTeX の bibliography 環境を利用すると、参考文献に番号が振られ、
本文中で \cite{長尾} のように引用すれば、自動的に文献番号が引用される。
なお、URL でたまに意味不明の長い文字列のアドレスが引用されている場合がある
(例: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E)。
このようなURLはあまり意味がないので省略してもよい。
- 付録
プログラムや実行結果など、
本論を補足する上で必要と思われるものがあれば付録としてつける
(なければつけなくてよい)。
※ 卒論を書く上での一般的注意
文章の文尾は、"~です", "~ます" ではなく、"~である", "~する" を使う。
また、"~だろう", "~と思われる", "~のようだ" などのあいまいな表現は避け、
"~である", "~と考えられる", "~と予想される"といった断言的な言い回しを使う。
■ 論文の提出
提出用の卒論はプリントアウトしたものを市販のファイルに綴じる。
ファイルが指定される場合もある。
pdf ファイルなどの電子形式を提出することもある。
■ 論文の発表
PowerPoint などのプレゼンテーションソフトを使う。
■ 合否判定
卒論の内容・発表会の結果に基づき、学科の審査会で決定される。
(先生の内輪話)
大学や学部によって異なりますが、発表会では以下のような基準で採点されます(100点満点の場合)。
- 研究内容の充実度(40点満点)
- 研究内容に問題はなく、完成度も高い・・・40点
- 内容はいま一つだが、本人の能力の範囲で最善を尽くした後が見られる・・・30点
- 内容はいま一つで、もう少し努力の余地がある・・・20点
- 内容は乏しく、努力も足りない・・・10点
- プレゼン能力(30点満点)
スライド構成や発表態度について、
- 特に問題はない ・・・30点
- 少々、問題がある・・・20点
- かなり問題がある・・・10点
- 質疑応答能力(30点満点)
- 概ね的確な回答を行った ・・・30点
- 答えられない質問もあるが許容範囲・・・20点
- ほとんど回答できていない・・・10点
学生の能力は個人によって異なります。評価する側は、個々の学生が
自分の能力内で最大限の努力をしたかどうかを見ています。
日頃、研究をサボりがちで、直前になって体裁だけ整えた研究は内容が薄いのですぐにわかります。
なお、発表時の服装は平常のものでよいが、華美な服装は控えた方がよいでしょう。
※ 発表スライドの構成について
発表時間が10分の場合、枚数は表紙を除いて 15 枚前後を目安にする。
構成としては、
- 表紙
- 研究の背景・動機(1~2ページ)
- 研究の目的(1ページ)
- 準備(2~3ページ)
- 本論(4~5ページ)
- 考察(1~2ページ)
- 結論(1ページ)
といった感じ。書き方としては、論文のように長い文章をそのまま書くのではなく、
ポイントを箇条書きに書く。また、図・表・グラフ・デモなどを用いて、
視覚的に訴えることを考える。
※ スライドの準備に当たっての注意事項
これまで見てきた発表で悪いスライドの例をいくつか挙げます。
- 文章がぎっしり書かれている。字が小さくて読めない
スライドは論文ではありません。
必要最小限の文章を箇条書きに。小さくて読めない字は情報量ゼロ。
聴く人にストレスを与えるだけ。
- 論文の図をそのまま張り付け
論文の図やグラフをそのまま張り付けると、必然的に字が小さくなります。
面倒でもスライド用に編集しなおしましょう。
- グラフに単位が書かれていない
縦軸、横軸の単位が書かれていないグラフには意味がないと考えて下さい。
- 書いてあることが説明できない
専門用語など、質問されても答えられるように。
知らないこと、説明できないことをスライドに書いてはいけない!
- スライドのデザインやスライドショーが懲りすぎ
見かけよりも内容を充実させてください。背景はシンプルに。文字はゴシック体が基本。
- 前置きが長くて本論がなかなか始まらない
発表時間は限られています。前置きはそこそこに。
肝心の研究内容を発表する時間がなくなります。
- 文章が変なところで切れて改行されている
例えば、
以下の表は、本アルゴリズムによるシミュレー
ションの結果である。
何も考えずに文章を書いていると、このように単語の途中で
改行が入り、読みにくいスライドになります。
また、例えば、
.............. シミュレーションの結果、以下の表のようにな
った。
は、
.............. シミュレーションの結果を以下の表に示す。
と書けば行数も1行減って見やすくなります。
- 最後に、「ご清聴ありがとうございました」といったスライドは不要!!
審査会で先生が静かに発表を聞くのは当たり前。このようなスライドは聴く側にとって情報量ゼロ。
こうしたスライドを出されるより、最後の結論のスライドを出したままにしてもらった方が聴く方も質問を考えやすい。
また、発表時間が足りなくなった場合、「結論をまとめるとこのようになります」とだけ言って、
最後の結論のスライドを映写すれば発表に時間的余裕も出ます。
10~15分程度の発表では必要最小限のスライドを準備するよう心掛けてください。
※ 発表に当たっての注意事項
悪い発表の例をいくつか挙げましょう。
- スライドの棒読み
聴衆はスライドを見ているので、書いてあることはいちいち読んでもらわなくてもわかります。
発表者は**スライドに書いていないこと**をしゃべるよう心掛けてください。
- 聴衆の方を見ない
パソコンやスクリーンの方を見て発表する人がいます。聴衆はどこにいるのか考えてください。
- 声が小さい
発表は自信を持って堂々と話しましょう。
- 発表終了時間になっても終わらない
卒論発表会のスケジュールはタイトです。終了時間になっても終わらない発表は強制的に
ストップがかけられることがあります。
皆さんは、日頃、テキストの棒読み、学生の方を見ない、声が小さい、講義終了時間になっても終わらない、
ような講義は受講していて苦痛ですよね。同じことは発表会にもあてはまります。
上に挙げたような学生の発表は、聴く方も苦痛なのです(-_-)。
★ 最後に一言
卒業研究で大事なことは,内容はともかく、自分の力で最後まで努力をすることです。
プロ(研究でお金をもらっている人)の研究は、結果が全てでプロセスは評価されません。
卒業研究はプロの研究ではなくプロセスが重要です。これはスポーツや他の世界でも同じことがいえると思います。
1年間かけて一つのテーマで研究を行うのは、殆どの人にとって初めての経験のはずです。
試行錯誤を繰り返して自らの力で卒業研究を完遂する経験が、今後の人生において大きな財産になるはずです。頑張ってください。
※ 卒論を書く上での参考文献
卒論を書く上でのノウハウ本には以下のようなものがある。
- 『理科系の作文技術』,木下是雄 著,中公新書 624 (1981).
- 『これからレポート・卒論を書く若者のために』,酒井聡樹 著,共立出版(2007).
- 『よくわかる卒論の書き方』,白井・高橋 著,ミネルヴァ書房 (2008).
- 『新版 大学生のためのレポート・論文術』,小笠原喜康 著,講談社現代新書(2009).
- 『理系のための 即効! 卒業論文術』,中田亨 著,講談社ブルーバックス(2010).
卒論に関してわからない点があれば、担当教官に質問すること。
Last Updated, February, 2019 / Produced by
Chiaki Sakama