研究室紹介

光アライアンス20123月号(2012)に執筆したものを一部変更したのものです.

1. はじめに
和歌山大学システム工学部 光メカトロニクス学科 情報フォトニクス研究室は20094月に発足した新しい研究室で,私と学生10名余り(少数精鋭!)のこじんまりとした学科内で最も小規模な研究室である.しかしながら私はもちろん,学生も議論好き(話し好き?)で,日々,白熱した議論が交わされている学科内で最も賑やかな研究室でもある.真面目に研究のことを議論していることもあれば,たわいのない雑談に熱が入っていることもある.もっともそのような雑談からも新しいアイデアが生まれて来ることもあるので度が過ぎない限り,気にしないようにしている.
2.
概要
さて,私自身は和歌山大学システム工学部創設時(19954月に創設準備室が発足,19964月から学生受け入れ開始)から在籍し,光波を利用した計測や記録などの情報処理技術に関する研究をおこなっていて,これまでに40名近い卒業/修了生を社会に送り出している.「情報フォトニクス研究室」として研究室を構えたのが20094月ということであり,私自身の研究の軸足はぶれずに一貫して情報フォトニクスである.研究の遂行には光学実験と情報処理,コンピュータによる実験系の制御などの技術が必要であり,研究室の学生はそのような技術を身に付けて巣立っている.教員が1名ということもあり,いつの間にか,上の学生が下の学生の面倒を見る習慣が身に付いていて,発表資料のチェックや発表練習なども学生間で自主的におこなっている.その結果,私の出番は少なく,最後の仕上げをチェックするのみである. 
3.
メインテーマはディジタルオプティクス
主な研究対象は多次元データの取得,再構成,記録で,以下に最近の研究成果を中心にいくつかの研究概要を記す.詳細を示すことは紙面の都合上,不可能なので,それぞれの研究ごとに文献を示すことにし,興味のある方はそちらを参考にしていただきたい.私の学生時代の研究テーマが光/電子ハイブリッド画像認識システムに関する研究(1)だったこともあり,自然な成り行きで光学処理とコンピュータ処理を組み合わせたディジタルオプティクスの研究に取り組んでいる.
3-1.
シングルショット位相シフトディジタルホログラフィ
ディジタルオプティクスの一つであるディジタルホログラフィの研究は当然のことながらおこなっている.アメリカ合衆国コネティカット大学のJavidi教授との共同研究で,光暗号化にディジタルホログラフィを取り入れたこと(2)がきっかけである.
数年前までは,偏光を利用した波面分割位相シフト法ディジタルホログラフィの研究(3, 4)や逆にディジタルホログラフィにより偏光情報を取得する研究(5)などをおこなってきた.当初は撮像素子の画素毎に異なった偏光素子が貼付されたものを使用していたが,最近ではそのような特殊な位相シフト素子を用いない波面分割位相シフト法の研究(6)をおこなっている.これは参照光の複素振幅分布データが既知であれば,数値演算により位相シフト法が実現できることを用いた手法である.従来手法のように位相シフト量が090°180°270°のように制限された値を取る必要がないという特徴がある.例えば,拡散板のようなものを用いて光波の振幅と位相を変調した参照光を用いれば波面分割位相シフト法が実現できるというものである.現在では再生像の品質の向上のための位相シフトアルゴリズムの改良や動体の記録などに取り組んでいる.
3-2.
ディジタルホログラフィックディスプレイ
ディジタルホログラフィの再生応用として,疲労の少ない3次元ディスプレイの研究に取り組んでいる(7).現在,主流となっている3次元ディスプレイは映像表示位置と立体像の位置にずれがあるため長時間見ると目が疲れる,気分が悪くなるなどの欠点がある.本研究ではディジタルホログラムの光学再生像を用いた3 次元映像の作製を目的としている.ホログラムの再生像そのものが両眼視差像となるため前述の欠点がない3次元映像となる可能性を秘めている.先に述べた波面分割位相シフトディジタルホログラフィによって取得した動体のディジタルホログラムを本ディスプレイで動画表示できるようにすることが当面の目標である.
3-3.
低コヒーレンスディジタルホログラフィ
ディジタルホログラフィを応用した計測も数多くおこなっているが,未発表のものが多く,ここでは低コヒーレンス干渉計測とディジタルホログラフィを組み合わせた形状と反射特性の同時計測(8)を紹介する.SLDのような低コヒーレンス光源を用いてディジタルホログラムを記録すると,参照光と物体光の光路差が光源のコヒーレンス長内に収まる場合に限りディジタルホログラムが記録される.このことを利用すると反射特性と形状を同時に計測することができる.
 3-4.
ホログラフィックメモリ
ディジタルホログラフィで得られるデータは膨大であり,保存には大容量の記録容量のデバイスが必要である.そのような背景から,大容量記録が可能なホログラフィックメモリの研究をおこなっている.材料系の学科でないことから記録材料の研究はおこなわず,ホログラフィックメモリシステムとしての研究をおこなっている.光暗号化をホログラックメモリに応用した研究(9)を発端にとなってこの分野に参入している.最近では同軸型ホログラフィックメモリの記録密度向上のために,空間変調光波を用いることを提案している.参照光パターンやページデータに付加する位相マスクを記録の効率を向上させることを目的として設計し,良好な結果(10)を得ている.
4.
おわりに
研究室でおこなっているいくつかの研究内容の概要を紹介した.この他にもさまざまな研究をおこなっているので,興味をもたれた方はぜひ研究室を訪ねていただきたい. 
文献
(1) T. Nomura, K. Itoh, and Y. Ichioka:  “Hybrid high speed pattern matching using a binary incoherent hologram generated by a rotational shearing interferometer,” Appl. Opt., Vol. 28, pp. 4987-4991 (1989).
(2) B. Javidi and T. Nomura: “Securing information by use of digital holography,” Opt. Lett., Vol. 25, pp. 28-30 (2000).
(3) T. Nomura, S. Murata, E. Nitanai, and T. Numata: “Phase shifting digital holography using phase difference of orthogonal polarizations,” Appl. Opt., Vol. 45, pp. 4873-4877 (2006).
(4) H. Suzuki, T. Nomura, E. Nitanai, and T. Numata: “Dynamic recording of a digital hologram with single exposure by a wave-splitting phase-shifting method,” Opt. Rev., Vol. 17, pp. 176-180 (2010).
(5) T. Nomura, B, Javidi, S. Murata, E. Nitanai, and T. Numata: “Polarization imaging of a three-dimensional object by use of on-axis phase-shifting digital holography,” Opt. Lett. Vol., 32, pp. 481-483 (2007).
(6) T. Nomura and M. Imbe: “Single-exposure phase-shifting digital holography using a random-phase reference wave,” Opt. Lett. Vol. 35, pp. 2281-2283 (2010) .
(7) Y. Mori and T. Nomura: “Optical reconstruction of digital hologram using spatial light modulator for binocular stereopsis,” in Digital Holography and Three-Dimensional Imaging, OSA Technical Digest (CD) (Optical Society of America, 2011), paper DTuC7.
(8) T. Nomura, K. Yoshino, T. Numata, and E. Nitanai: “Profilometry and reflectmetry using low-coherent digital holography,” in Digital Holography and Three-Dimensional Imaging, OSA Technical Digest (CD) (Optical Society of America, 2010), paper JMA25.
(9) T. Nomura, S. Mikan, Y. Morimoto, and B. Javidi: “Secure optical data storage with random phase key codes by use of a configuration of a joint transform correlator,” Appl. Opt. Vol. 42, pp. 1508-1514 (2003).
(10) Y. Saita, T. Nomura, E. Nitanai, and T. Numata: “Design of reference pattern and input phase mask for coaxial holographic memory,” Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 50, 09ME03 (5 pages) (2011).

(追記)現在はスタッフが2名で学生数も20名超になりました.(2022/4/5