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LAST UPDATE 2005.03.14 |
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本研究室で得られた新規錯体 |
[タングステン化合物] |
☆ W3ユニットをビルディングブロックとするペルオキソタングステン酸 | |
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W3ユニット、[W3O11+x(O2)3-x] Keggin型やWells-Dawson型のポリ酸に含まれる[W3O13]ユニットとは異なります。 | |
本項の化合物は、全てW3ユニットをビルディングブロックとしています。 W3ユニットに含まれるペルオキソ基の数や位置、オキソ基の代わりに水が配位することなど、 ポリ酸により多少の違いはありますが、基本骨格は変わらず、共通のユニットと考えることができます。 |
○ ねじれ型ペルオキソタングステン酸 |
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By K. Kihara, Y. Hamamatsu* |
(a) | (b) | ||
[{(HPO4)W3O7(O2)2}2O]6- | [H3.5{(PO4)W3O6(O2)3}2(PO4)]5.5- ([CN3H6]+-Cs salt) | ||
[H3{(PO4)W3O6(O2)3}2(PO4)]6- (Cs-Na salt)* |
リン酸グループが三座で配位したW3ユニットが、(a)では直接、
(b)ではリン酸基を介して、80°程度の二面角 をもって結合しています。この類似構造は、次のように二座の配位子でも生成します。 なお、この2つの間をつなぎ、それぞれの生成機構にも関係すると思われる[(HPO4)2(WO2(O2)2)3]4-も 得られています。 |
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By H. Suzuki | By K. Matsuda |
(c) | (d) |
[H2(CH3COO)(SO4)W6O15(O2)4(OH2)]3- | [{(C2H5COO)W3O7(O2)2(OH2)}2O]4- |
(c)では二座の酢酸基と三座の硫酸基が、(d)では二座の プロピオン酸基が、それぞれW3ユニットに配位しています。 (c)は、比較的珍しいC1対称性のポリ酸です。 |
○ 平面型ペルオキソタングステン酸 |
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By K. Matsuda | By K. Matsuda |
(e) | (e') |
[(CH3COO)2W6O12(O2)8]6- | [(C2H5COO)2W6O12(O2)8]6- |
タングステン骨格は、W3ユニットがちょうど平面をなすように形成された六核型になっています。 上記の(a)・(c)・(d)とはビルディングブロックが同じながらその連結様式が異なっており、 異性体とも言い得る関係にあります。W3ユニットが2つ連結する場合に、平面・ねじれ型 どちらの連結様式を選択するかの決定要因に興味がもたれます。 特にプロピオン酸イオンを配位子とする場合には、ねじれ型六核ユニットを持つ(d)(Cs塩)と 平面型六核ユニットを持つ(e')(Rb-K塩)の両方が得られており、生成過程の解明が必要と考えています。 このプロピオン酸錯体系の平衡を pH++qWO42-+rH2O2+sC2H5COO- ⇔ [(H+)p(WO42-)q(H2O2)r(C2H5COO-)s](-p+2q+s)- と定義し、錯体の量論を(p,q,r,s)で表わすと、(d)は(10,6,4,2)及び(e')は(8,6,8,2)となることから、 合成条件的には(d)の方がより酸濃度が高い条件で、(e')の方がより過酸化水素濃度の高いところで 生成することが予想されます。現在、この系の溶液内での錯形成をNMRで追跡する試みを行っています。 (d)は脱プロトン化の可能性もあることから、(d)と(e')の溶存状態やプロトン化挙動に興味がもたれます。 なお、この そのままお蔵入りになっていたものです(1992年第42回錯体化学討論会)。 今回は、当時と異なる陽イオンを用いることで、上手く構造解析することができました。 今回は水/有機混合溶媒系でCs-Rb-K-Na塩として得られていますが、当時は水溶液系からK塩として 得られていた上、同様の調製条件でモリブデン錯体[(CH3COO)2Mo6O12(O2)8]6- も得られていました。 |
○ カチオン取り込み環状ペルオキソタングストリン酸 (クラウンエーテル類似) |
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By K. Kihara | |
(f) | |
[K2{PW3O9(O2)3(OH)(OH2)}4]6- | |
リン酸基が二座で配位したW3ユニット4つが、S4対称を持つ環状の構造を形成しています。 中央部には、2つのK+が取り込まれています。このK+は、ポリ酸生成において テンプレート的に振舞っていると考えられます。 |
○ 環状ペルオキソタングストピロリン酸 |
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By K. Kihara |
(g) | (h) |
[{(P2O7)(WO(OH2))(W3O9(O2)2)2}2]16- | |
ピロリン酸により架橋されたW3ユニット2つが、2つのタングステンにより架橋されています。 また、(h)のように、ポリ酸の両脇に陽イオン(K+またはRb+)をくわえ込むことにより、 構造の安定化を図っているものと考えられます。 (g)は、ほぼ平面のコンフォメーションですが、「ちょうつがい」の様に曲がったコンフォメーションも取ります。 |
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By K. Kihara |
(j) | (k) |
(j)、(k)とも、ちょうつがいのように折れ曲がったコンフォメーションを、内側から見た図です。 この図には示されていませんが、折れ曲がりの内側には陽イオン(Na+、K+)があり、 折れ曲がり構造を支えています。また、(j)と(k)とでは、折れ曲がりの方向が 異なっています。 赤で示されたペルオキソ基が、(j)では外側に、(k)では内側に来ています。 さらに、これらはいずれも、(g)とはペルオキソ基の配位する位置が異なっており、ただコンフォメーションが 異なるのみならず、(g)とは異性体の関係にあることになります。 |
○ ペルオキソ-3-タングスト-2-リン酸 |
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By T. Terada | |
(m) | |
[(HPO4)2(WO2(O2)2)3]4- | |
ここまでに示してきたペルオキソタングストリン酸のプロトタイプと考えることもできる錯体です。 配位したプロトンの数は異なりますが、基本骨格は同じである[H(SO4)2(MO2(O2)2)3]3-(M=Mo, W)は すでに知られていますが、この構造がリン酸で確認されたのは初めてです。 構造的に上記の(a)と(b)をつなぐものであり、かつ、結晶が得られるpHも(a)と(b)の中間ぐらいであることから、 溶液内におけるペルオキソタングストリン酸の生成機構解明のヒントになることが期待されます。 |
○ ペルオキソヘキサタングステン酸 |
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By H. Suzuki and H. Adachi | |
(collaboration of both students) | |
(n) | |
[W6O18(O2)3]6- | |
ペルオキソヘキサタングステン酸ユニットは、これまで平面構造とねじれ構造(上記)のものが知られていましたが、 このタイプのものは初めてです。Wの多面体が面共有している部分がありますが(図では見づらいですが、 右の方の多面体2つ)、基本的にはW3ユニットを2つ組み合わせたような構造になっています。 これも、C1対称性を持っています。現在、溶液内に生成している化学種との関連性を調べています。 |
これまでのW6骨格とW3ユニットとの関係は、次のようになります。 |
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(i) [W6O16(O2)8]12- | (ii) [W6O21(O2)4]14- | (iii) [W6O18(O2)3]6- |
(i)は上記の(e)に、(ii)は(a)・(c)・(d)に、そして(iii)は(n)に、それぞれ含まれています。 なお、(a)・(c)・(d)で骨格がやや異なって見えるのは、このユニットが理想的にはC2対称を持っているため、 エナンチオマー(対掌体、鏡映しの関係)が存在するからです。 ちなみに、(c)と(d)の骨格がエナンチオマーの関係になっています。 これら(i)~(iii)は、ペルオキソ基の付き方が異なったり、面共有部分があったり((iii))という細かな違いはありますが、 いずれも二つのW3ユニットが異なる方式で連結したものです。その意味で、近い親戚関係にある骨格と言うことができます。 なお、(i)と(ii)は、それぞれ12-・14- と、かなり大きな電荷を持っていることがわかります。 このため、これら二つは、加水分解を受けやすく、水溶液の中で単独で存在することは困難であることが予想されます。 そのため、リン酸や硫酸、カルボン酸などの助けを借り、全体の電荷を下げて安定化を計っていると思われます。 一方、(iii)は電荷がさほど大きくないため、周囲に陽イオンを従えてはいますが、そのままの形で得られたものと考えられます。 ちなみに、タングステン酸系H+-WO42--H2O2の平衡を pH++qWO42-+rH2O2 ⇔ [(H+)p(WO42-)q(H2O2)r](-p+2q)- と考え、錯体生成の量論を(p, q, r)で表すと、(i)は(0, 6, 8)、(ii)は(-2, 6, 4)、 (iii)は(6, 6, 3)となります。このことから考えて、(i)と(ii)は、それぞれの錯体が得られる水溶液の中で 安定に存在するためには、かなりの数のプロトン(H+)または他の陽イオンが付加していることが必要であるといえます。 (iii)は生成時のpHが7に近いため、この量論で妥当であると思われます。 実は、W3ユニットも10- という、アニオンのサイズに対してきわめて大きな電荷を持っています。 このため、他のイオンの助けを得ないと溶液中に存在できないことが予想され((m)を参照)、 これが現在までのところW3ユニットが溶液中で発見されていない理由であると考えられます。 ユニット生成の量論は、x=3としたとき、(-4, 3, 3)となります。このことも、W3ユニットが水溶液中で安定に存在するためには、 かなりの数のプロトン(H+)または他の陽イオンが付加していることが必要であることを示唆しています。 |
○ ペルオキソトリデカ(13)タングステン酸 |
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By H. Adachi |
(o) |
[HnW13O46-x(O2)x](14-n)- |
アップ時(2005/03/15)まだ出たてほやほやの構造です。実は結晶性が余りに悪く、ペルオキソ基の数や 結晶溶媒、距離角度、プロトン化の位置など不確定要素がかなり多い状態なのですが、 余りに面白い構造なので少々先走って掲載してしまいました。 わかりにくい構造ですので、二方向からの図を掲載しています。 W3ユニット3つ、Keggin型構造に見られるW3ユニット(稜共有3つで環状となる)1つ、及び単核のW1つから出来ています。 また、左の図にあるように、五方両錐型のタングステンの周りを5つのタングステンが取り囲む部分構造があり、 これはMüllerらにより報告されている巨大アニオンのビルディングユニットの一つと関連してます。 ただ、(o)では五方両錐のWと左図でその下にあるWとが面共有しています。 また、左図で言えば右側、右図で言えば左側の(W3ユニット2つ)+(単核W)から成る部分は、上記(g)~(k)に示した ピロリン酸錯体のタングステンヘプタマー部分と共通するものです。 異なる二つのW3ユニットが両方含まれる初の錯体でもあり、多様なビルディングユニットの見方が出来ることから、 アニオン構成のメカニズムについても大きな興味がもたれるものです。 まずはとにかく良い結晶作りと合成法の確立が課題です。 |
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☆ ペルオキソヘプタタングステン酸 |
クラスレート型結晶 |
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By H. Suzuki and H. Adachi | |
(collaboration of both students) | |
[W7O22(O2)2]6- | |
このポリ酸の結晶は、QCs2(CN3H6)3[W7O22(O2)2].nH2O (Q=有機アンモニウム陽イオン) の組成を取り、様々なQに対してほぼ同型の結晶構造を与えます。いわば、Qをゲスト、その他の成分を ホストとした、包接化合物型結晶ということができます。また、Qのサイズが大きくなると、 全体の結晶構造をほぼ保ったままQCs(CN3H6)4[W7O22(O2)2].nH2Oに変化し、次いで 異なる結晶構造を 有するQ(CN3H6)5[W7O22(O2)2]になります。Qの大きさと、結晶構造の関連を明らかにしようと試みています。 合成的には、上述の[W6O18(O2)3]6-がQの種類によりほぼ同条件で得られるため、はっきりしない点がまだ残っています。 得られた結晶構造・アニオン構造とQとの関係は、修論要旨(⇒こちら。PDF形式で、学内専用です)を参照してください。 |
☆ その他のペルオキソタングステン酸 |
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By K. Matsuda | |
[(CH3COO)W2O3(O2)4]3- | |
モリブデン化合物のページで紹介したダイマーユニットと同様のユニットに、酢酸基が二座で配位しています。 酢酸基の代わりに、ギ酸基が配位した錯体[(HCOO)W2O3(O2)4]3-も得られました。 ペルオキソタングステン酸の溶液内における挙動を解明するために有用な錯体の1つであると考えられます。 |
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