和歌山大学独創的研究支援プロジェクト 紀伊半島における災害対応力の強化

-想定を越える災害への備え-

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鉄道における津波避難に関する研究

担当教員

災害情報利活用

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地域連携・生涯学習センター

西川 一弘

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1、研究の目的

東日本大震災において鉄道は津波による駅舎・線路流出、地震による損壊など大きな被害を受けました。しかしながら.鉄道乗車中の犠牲者はゼロでした。本研究では.東日本大震災の経験を踏まえ、より厳しい想定が出されている「JRきのくに線」において、迅速かつ、効果的な列車からの避難方策を検討し、乗客(県民.高校生.観光客など)の命を守ることを目的としています。その際、乗客の避難力に着目しています。

2、東日本大震災ではなぜ犠牲者が居なかったのか

東日本大震災発生時、津波被害のおそれのため避難誘導した路線は26路線・60列車にのぼります。また、JR東日本管内で津波により流出した旅客列車は5列車ありました。このような状況の中でも津波による直接の犠牲者はいませんでした.理由としては、第一に、もともと三陸地方が地震多発地帯であり、巨大地震の発生=津波の認知が基盤として形成されていたこと、また、地震対策としての事前の避難誘導訓練、マニュアルの整備がなされていたことが挙げられます。第二に、「現場知」を生かした避難誘導です。避難の現場では、現場判断や乗客の助言や情報に基づき、列車の指令や事前に指定されていた避難場所に避難して難を逃れたケースもありました。第三は、地震の揺れから津波の到達まで時間的余裕があったことです。各列車では津波警報発令から避難を開始し始めた時間は平均20分(最小1分、最大は41分後)でした。

3、JRきのくに線ではどうか

紀伊半島の沿岸部を走るきのくに線(和歌山~新宮間)では、総延長200.7キロのうち、津波浸水想定区間は全線のおよそ35%強である69区間・73.5kmです。また、同線の沿線である串本町では、2012年度中央防災会議より公表された南海トラフ巨大地震の被害想定では最大津波高は18m、平均津波高は10mであり、1mの津波が到達する時間は2分と、非常に厳しい地域です。東日本大震災の経験や知見は踏まえつつも、異なる方策や取り組みを考える必要があります。

そのような中で、和歌山県教育委員会東牟婁教区支援事務所、JR西日本和歌山支社、和歌山大学南紀熊野サテライトが連携して、まずは普通列車の主要乗客である「高校生」にターゲットを絞った「JRきのくに線津波から命を守るためのプロジェクト」を立ち上げました。プロジェクトでは、2013年3月の実践的津波対処訓練をはじめてとして、地域連携型の津波避難訓練を実施しています。

4、実際の訓練風景

2014年11月5日、和歌山県立串本古座高校古座校舎高校生防災スクールの一環として、実際の列車をつかった実践的津波対処訓練が実施されました。参加者(乗客役)は串本古座高校古座校舎の高校生、古座小学校の小学生、地元の中湊町内会・姫町内会の住民の皆さん約280名+関係者約五〇名の合計約330名が参加しました。参加者は小学校1年生から80歳を越える高齢者まで多世代に渡り、2両編成の普通列車は満員状態で訓練地点まで移動します(写真―①)。串本町津波ハザードマップによりますと、訓練地点の津波による浸水深は3~5m、津波高1mの津波到達時間は8分と想定されています。訓練地点は地形と線路の状態から2両編成のすべての扉を開けて避難することは困難で、1両目にある6つの扉をすべて使って避難することになりました(写真―②)。

上記の条件のもと訓練では.①多世代(小学生~高校生まで)が満員で乗車している場合の避難の課題を明らかにすること、②避難する車両と扉が限られ、かつ避難しづらい地点に停車している場合の避難の課題を明らかにすることを中心に検証しました。緊急地震速報を受信し、当日の乗客約280名全員が列車から退避するまでにかかった所要時間は7分41秒、安全とされる地点に避難するまでかかった所要時間は9分30秒でした。昨年の訓練では車両の扉をすべて開放し.飛び降りて避難する方法が迅速な避難に有効であることが示されましたが.今回は飛び降りて避難する方法が世代によって危険を伴うことが判りました。また、実際に扉が開いてからも避難に躊躇する姿が見受けられ、乗客が避難を促進するためには大きな掛け声が重要なことや避難を促すために最も大切なツールが車内放送であること.その車内放送の文言や避難を促進する伝え方が課題になっていることが明らかになりました。

5、今後の展開

今後は今回の訓練の詳細な分析を進めると共に、鉄道だけではなくスクールバス乗車中の津波避難についても訓練・研究を進めていく予定です。

図―1 きのくに線
図―2 JRきのくに線津波から命を守るためのプロジェクト
写真―1 多世代で満員の車内、写真―2 訓練風景

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