和歌山大学独創的研究支援プロジェクト 紀伊半島における災害対応力の強化
-想定を越える災害への備え-
和歌山県伊都郡九度山町北又は,高野七口のひとつである「東郷と北又の両大字界付近を通る黒河道」1)の沿道集落である久保に隣接し,丹生川の支流である北又川に沿ってつくられた棚田と伝統的民家による集落景観を有する(図―1、写真-1~4).九度山町には高野山町石道をはじめとする2004年7月7日に世界遺産(文化遺産)に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」があり,2014年度現在,黒河道においても追加指定に向けて調査が行われている.追加指定が実現すれば,黒河道の付近に位置し,良好な集落景観が維持されている北又においても,来訪者が増加することが予想される.
伝統的民家については,現在は瓦やトタンの屋根が用いられているが,かつては茅葺であった民家も見られ,外観においては高野山周辺集落に共通する通し丸太を用いたエンゲタ,玄関の上にあるお札箱,弓形柱が見られる.また,蔵や倉庫においては軒下に雨がかからないように置き屋根やスバルが用いられ,雨や霧を除けるための工夫が伺える.
間取りについては,かつては玄関からその奥のダイドコロ部分までをつないでいた広いドマを有する田の字型とよばれる四つ間取りが一般的に用いられている(図-2).また、民家の配置を見ると、主屋の他に倉やハナレなどの別棟の建物は、敷地が広いため通りに対して奥に設けられていることが多い。
「文政3年(1820年)に建てられたことを示す棟札がある主屋」2)をはじめ,蔵や長屋門が配置された民家は,かつて北又川に近いところにあったが,後に現在ある石垣が高く積まれたところに移築されたとのことである.このことから,過去にも水害があったことが考えられ,民家が移築されたことが伺える.
棚田は,周辺の山々に囲まれた北又川に沿って位置しており,畔にはツツジが植えられ,稲穂を天日干しするための「棚田に林立する」2)ハゼバが常設されており,美しい里山の風景が見られる(写真―1、写真―5).高野山周辺集落では,ハゼバを持つ集落がいくつか見られるが,1か所または数か所までと,場所を限定して設けられていることが多い.一方,北又では12か所と多く,棚田の畔,道路や石垣の前に丸太を組み,日当たりと風通しの良い高い場所に設けられている.ハゼバにおける天日干しは,稲刈りの後,数週間にわたって行われ,秋の訪れを知らせるとともに集落景観を特徴づける存在となっている.
- 和歌山県教育委員会,高野山結界道,不動坂,黒河道,三谷坂及び関連文化財学術調査報告書,2012.
- 広報くどやま,No.461,3月号,pp.〔5〕,2014.