和歌山大学独創的研究支援プロジェクト 紀伊半島における災害対応力の強化
-想定を越える災害への備え-
硫化物半導体は、光センサや太陽電池などの受光素子、発光ダイオードやEL素子などの発光素子、さらには超高感度ガスセンサ用材料として従来から重要な材料である。特に近年では、安心・安全、安価な太陽電池を目指したCZTS系の硫化物半導体材料や、発火などの危険の少ない全固体電池のために硫化物材料が用いられるようになっており、注目が高まってきている。しかし、硫化物半導体は作製のための原料として毒性の強い硫化水素(H2S)ガスを用いることに問題がある。
我々は、チオ尿素の金属を硫化する力に着目し、水溶液を用いていながら酸化物ではなく硫化物薄膜を作製することに成功した。成膜手法はミストCVD (mist CVD) 法と呼ばれる手法を用いた[1]。この手法は、水溶液をドライミスト化することで、ガスのような振る舞いをもつようにして製造する手法である。新しい結晶成長手法であるため、独自に装置を開発した。その概略図を図1に示す。昨年度はその成長メカニズムを明らかにする研究を行ったが[2]、本年度はその発光特性を評価した。
評価に用いたのは、硫化亜鉛(ZnS)薄膜である。これを発振波長325nmのHeCdレーザーを用いて励起し、発光を観察した。図2の写真は室温における発光の様子である。非常に強い青色の発光が生じていることが分かる。試料は500-700℃の温度で結晶成長したが、共に400-450nmで発光しており、視認性の高い発光素子材料や紫外域用発光素子として有効であることが分かる。この強い発光の起源は、硫黄空孔の存在によるものであると考えている。図3では温度上昇による発光強度の低減を比較した。特に高い温度で結晶成長した試料は、温度が高くなっても発光強度が20%程度しか減少しておらず、室温でも高い効率で発光することが分かった。このことは小さな電流でも明るく発光することを意味している。ミストCVD法は大面積製膜への展開も可能であるため、本手法で作製したZnSは、屋外での高効率な大規模発光素子への展開の可能性がある材料であることが示唆される。
- Toshiyuki Kawaharamura, Hiroyuki Nishinaka, and Shizuo Fujita, “Growth of Crystalline Zinc Oxide Thin Films by Fine-Channel-Mist Chemical Vapor Deposition”, Japanese Journal of Applied Physics Vol. 47, No.6, 2008, pp.4669-4675.
- 「ミストCVD法を用いたZnS薄膜成長の反応機構」山崎佑一郎、宇野和行、顧萍、田中一郎、材料、第64巻、第9号、707-710ページ、2015年