和歌山大学独創的研究支援プロジェクト 紀伊半島における災害対応力の強化

-想定を越える災害への備え-

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アジアにおける防災・減災現地研究 フィリピン台風30号被災地域タクロバン市における土地利用変化と高潮被害の関係解明

担当教員

災害地理情報

災害地理情報

システム工学部 環境科学メジャー

原 祐二

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はじめに

2013年11月4日に発生した台風30号「ヨランダ」がフィリピンのレイテ島の中心都市タクロバンに甚大な被害をもたらした。タクロバン地域は元来,都市化による非計画的な開発や所得格差・貧困問題の拡大が進んでいる。また温暖化の進行に伴い今後,台風や洪水,豪雨等の異常気象によりさらなる深刻な被害を受けると想定される。 本研究ではタクロバン市域を事例に貧困住宅地域(Slum area)や面開発住宅団地(Subdivision)などの宅地タイプ毎の詳細な被災の状況の確認や立地微地形との相互関係分析を行う。まずは災害前数時期および災害後の土地利用の変化を空中写真判読と現地インタビューにより把握する。そしてどのような微地形環境にSubdivisionやSlumが形成され,それが災害強度とどのように関係しているのか明らかにする。これらをふまえて今後の減災・防災計画をどのように検討すればよいか,地理情報および現場の住民意識・土地所有状況も含めて考察し将来の災害への備えの一助とする。

研究方法

2014年8月に現地調査を実施し,被災状況の確認,地理情報(紙媒体地図,CAD,ifSarデータ等)の収集,現地の方へのインタビューおよび被災時の被災者撮影携帯電話写真の収集を行った。その後入手した地理情報の幾何補正を行い,災害前後の土地利用の分析及び地盤高、災害強度との関係検証を進めている。

結果と考察

図-1.タクロバン中心市街地の土地環境と建物被害

今回はタクロバン内のSlum areaとSubdivisionの分析と建造物の被災レベルの分析を行った。

Slum areaの分析結果

タクロバン市域でおよそ住宅28000棟とその他用途の構造物2000棟がポリゴンデータとして確認された。現地地図局の判読結果によれば,被災調査がなされた6761棟の住宅のうち39%が全壊(Totally Damaged),21%が半壊以上(Highly Damaged & Moderately Damaged),残りが一部損傷であった。建物被害は,図-1に例示したように,海岸沿いに集中しているスラム地区および河川沿いの低湿地スラム地区において大きかった。

図-2. 河川沿いSlum areaのようす

現地でのインタビューによれば,Presidential decree(大統領令)により河川沿いは3m以内,海沿いは40m以内に住居を構えてはならないNo build zoneであるにも関わらず,実際は多くのスコッター(非正規居住者)がスラムを形成している。また家屋が脆弱かつ海岸・河川沿いに居を構えていることにより,甚大な被害を受けている。

Subdivisionの分析結果

人口増加に伴い,年々Subdivisionは増加しており,現在では17団地存在しているのが確認された。

最低限の都市インフラは整備され、建物の頑健性もスラムより遙かに高く、Slum areaに比べ内陸に位置していることがわかった。また全体的に地盤高約2m~10mの地形に存在し,Subdivisionによっては軟弱地盤に開発していると思われるものも見られた。ある程度規模の面的開発が可能な土地が限られていたため、人口増加に伴って都市郊外にSubdivisionが開発・拡大し同時に,都市中心の脆弱地盤地域が不法占拠されスラム化していったと考えられる。

図-3. Subdivisionの拡大過程と土地環境

今後の予定

来月の初旬に現地調査を行う。そこで1970,80年代の地理情報やボーリングデータの収集,Slum area及びSubdivisionでの聞き取り調査を行う。

住宅開発形態と災害に着目したさらなる現地情報収集行い,宅地拡大プロセス・パターンをふまえた「現地性」の高い防災計画のあり方検討する。

<参考文献>

  1. 木場紗綾(2010):スラムの住民の住民運動と外部者-フィリピン・マニラ首都圏の事例から-,神戸大学学術成果リポジトリ
  2. 川原真麻・土肥真人・杉田早苗(2008):メトロ・マニラにおけるゲーテッド・コミュニティの実態に関する研究,(社)日本都市計画学会 都市計画論文集 No,43-3

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