和歌山大学独創的研究支援プロジェクト 紀伊半島における災害対応力の強化

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災害地理情報や災害前風景のデジタルアーカイブ化 紀伊半島大水害で土砂災害を発生させた降雨特性

担当教員

災害地理情報

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システム工学部 環境科学メジャー

江種 伸之

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平成23年9月の紀伊半島大水害では、和歌山県内の付加体が分布する日高・西牟婁地域で深層崩壊を含む大規模斜面崩壊、火成岩体と堆積岩体が分布する東牟婁地域で表層崩壊・土石流が多発しました(図-1,写真-1,写真-2)。

図-1 土砂災害発生地点(調査地のみ)
写真-1 付加体の大規模斜面崩壊(田辺市伏菟野.2011年9月撮影)
写真-2 火成岩体の土石流(那智勝浦町金山谷川.2011年10月撮影)

本研究では、1km四方毎の局地的な雨量が算定されているレーダーアメダス解析雨量を使用して、地質体毎の土砂災害形態と雨量の関係を分析しました。その一例として、火成岩体が広く分布する東牟婁地域の崩壊地の分布を図-2に示しますが、この地域の崩壊は崩壊直前に強い雨が降ったところで非常に多く発生していることがわかります。その一方、積算雨量(雨の降り始めからの合計雨量)が1000mmを超えていても崩壊直前の雨量(3時間雨量)が多くない範囲では崩壊地はそれほど多くありません。このように、土砂災害と雨量には非常に特徴的な関係が認められるため、土砂災害を発生させた降雨特性を明らかにすることで、より高精度な土砂災害警戒情報システムの構築に役立てていきます。

図-2 東牟婁地域の積算雨量の平面分布(8月30日3時から9月4日3時まで)

それ以外にも、以下のような様々な知見が得られています(図-3)。

  1. 付加体分布域では、積算雨量が700mmを超えると、その後の時間雨量(崩壊時を含む1時間の雨量)が強くなくても(雨が止んでいても)大規模斜面崩壊が発生した。
  2. 火成岩体・堆積岩体分布域では、650mmの先行降雨があった後に70mm/h以上の激しい雨が降ることによって表層崩壊・土石流が発生した。
  3. ただし、堆積岩体分布域の九重、火成岩体分布域の色川3地点では、東牟婁地域の他の崩壊地と比べて土砂災害発生時の時間雨量が少なく、積算雨量が多い傾向を示した。
  4. 熊野層群分布域では崩壊地が少なく、調査できたのは九重のみであるため、現時点では詳細な分析が難しい。そこで、九重を除いた火成岩体分布域の崩壊地を対象に、鉄道沿線の切土(深層崩壊)管理に使われている時間雨量rと積算雨量Rを使った限界雨量曲線式(図-3に記載)を当てはめてみると、火成岩体分布域の土砂災害の降雨特性は積算雨量と時間雨量の関係で良く説明できる。すなわち、崩壊時の時間雨量が強くなくても、積算雨量が非常に多くなること(おおよそ1200mmを超えること)により土砂災害が引き起こされた可能性が高い。
  5. 土砂災害形態と雨量との関係は、深層崩壊を含む大規模斜面崩壊は降雨継続時間が長く合計降水量が多い場合、表層崩壊は短時間の雨量が多い場合、土石流は合計降水量が多くなった後に短時間の雨量も多くなった場合に発生するといわれている。和歌山県内の土砂災害現場では、一部地点を除いて土砂災害形態と降雨の関係が一般的な傾向と一致した。
  6. ただし、積算雨量が非常に多くなると(1200mmを超えてくると)、時間雨量、地質体や崩壊形態に関係なく土砂災害発生の危険性は高まる。
  7. 以上より、和歌山県南部の紀南地方では、積算雨量と時間雨量のどちらにも注意しながら、その地域の地質体で発生しうる土砂災害、付加体分布域なら大規模斜面崩壊、火成岩体・堆積岩体分布域なら表層崩壊・土石流へ対応することが重要となる。
図-3 東牟婁地域の土砂災害発生直前の3時間雨量の平面分布(9月4日0時から3時まで)

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