まえがき  私は子育て中のおやじです。2年半くらい前、3ヵ月だけですが子どもが生 まれた時に育児休業を取得しました。6回の連載で、これまでの私の経験から いろいろ書いてみたいと思います。なんだ、たいしたことないじゃないか、と 思われる点が多いと思います。一方、これは大変だ、と思われる点もあると思 います。前者は「何だったら育児休業でも取ってみるか」と思うお仲間を増や すために書いています。後者は「育児休業制度はもっと改善の余地があるな」 ということを訴えるために書いています。ですので、これからの文章は子育て 中の方々や将来の子育てを考えている方々へのお手紙という意図と同時に、管 理職の立場にある方々、行政のお仕事をされている方々へのお願いという意図 も兼ねています。 (1)育休は勢いで取ってしまった  子どもができたようだ、は突然やってきました。そういうものだとはいえ、 これは大変だ、どうしよう。まず通勤はどうしよう。私は和歌山、妻は岡山に 勤務していました。職場では遠距離通勤自体は問題ないのですが、そんな高額 の通勤費は出してもらえません。計算すると月ウン万円の赤字。これは厳しい。 そもそも別居は厳しい。転職活動だ。妻も私も活動再開。私は機会を得ること ができず、優秀な妻の方が新しい職を京都で獲得。しかも8ヵ月の大きなお腹 を見せながらの面接で合格。大阪での同居が実現しましたが、ともに通勤に2 時間以上かかる状況は残りました。それ以前に、私たちは子育てについてまっ たく何も知りませんでした。夫婦共働き核家族で子育て情報ゼロで何ができる か?頭がいっぱいだ。考える時間が欲しい。子育てに体が慣れるまでの時間が 欲しい。育児休業を取得しよう。これが育休を考えたきっかけです。これから の時代だとか、そんな頭でっかちのことが先にあったのではなく、駆け込み的 に育休を取り始めたのです。申請のための書類は山積みでしたよ、もちろん。 しかしそんなものはどんな仕事でもついて回るものです。周囲の目は?という 質問が飛んできそうですね。子どもができた〜、で頭がいっぱいですから、周 囲の目など分かりません。そんなことより、お前らやっていけんのか、という 視線に対する反発の方が大。雑草食ってでも生きていくぞ。思えば、親ならで はのずぶとさが自然と発生していたのでしょう。どうです、簡単でしょう(笑)。 (2)管理職の方々へ:子育て中の部下から感謝される方法  育休は育児休業で育児休暇ではありません。一般に休暇は有給で休業は無給 です。有給休暇という語があっても、有給休業という語はありません。つまり、 育休中は無給です。もっとも就業規則で改善している職場もあると聞きます。 私の職場では無給のみならず、休業した分の昇級、昇進の遅れ(これは生涯年 収のかなりの減額を意味する)、将来の年金受取額減額を告げられました。もっ と辛かったことは、休業期間中、研究や教育のための予算執行を止められたこ とでした。学生とはメールで連絡を取り合っていましたが、書物を用意してあ げることも、機械を修理してあげることもできませんでした。給料がもらえな いことよりも、仕事を止めておけと言われた方が、社会人として辛い。育児を している人は、何も頭が働かなくなったわけではない。私は、世の女性の多く がこの怒りを持ちつつ討ち死に(?)した苦労を感じ取りました(女性の皆さん、 偏見に負けるな、私も真剣に応援する)。育児で大変な時期、時間の制約のき つい仕事や体力や集中力の持続が必要な仕事は大変です。しかし子育て騒ぎが 収まればまた復活します。私は実は仕事人間です。やる時はやる、できない時 はできない。やる時は全力を出し、いい仕事をしたい。男女に関係なく、また 結婚しているか子を持っているかに関係なく、この考えは多くのみなさんと共 有できるはずです。管理職の方々、育児中で勤務時間が十分取れない若手にも 適宜仕事を与え、仲間意識を共有して下さい。管理職の力の発揮しどころです。 給料も昇進も欲しいが、まずこれが一番欲しい。 (3)男性同志へ:年金を満額受け取る方法  育休を考え始めた時、育休を取りたいのだが、と事務の女性に相談に行きま した。その方は育休から復職された方でした。いいことを教えてあげましょう。 妻が産休の間、夫が育休を取ることができます。この方法を使えば出産直後の 大混乱(?)の時に夫婦共同で子育てを始めることができますよ。な〜るほど。 ということで妻の産後休暇8週間及びもう少しの期間として3ヵ月を考え、育 休を申請しました。さてここで私から男性同志に助言。例えば妻出産直後の 1ヵ月の育休はいかがですか。妻と一緒に子育てができます。昼夜関係なく2 時間おきの授乳も交代でできます。給料の面で不利な立場は、現時点では致し 方がありません。しかし、妻の感謝は大きいですよ。将来熟年離婚され、年金 の半分を持っていかれることはないでしょう。それを考えるとかなり「お得」 ですよ。妻産後直後の夫の育休は、妻の就業形態に関係なく取得できるように 就業規則に定められていることが多いと思います。妻が無職なので育休は無理、 というのはないのです。子どもがある程度の年齢に達していれば夫婦どちらか が育児で休業となるのですが、出産直後はそんな悠長なことを言っている場合 ではありません。子どもの世話もさることながら、妻の世話が必要な大事な時 期です。この時こそ、結婚した時の妻との約束を果たすことができる時です。 もしお勤め先でそのような規則になっていないのなら、改正を申し出てもまっ たくおかしくありません。 (4)あわてて育児の勉強でも大丈夫  私たちは子どもは初めてでした。1人目ということを言っているのではあり ません。親戚や友人の子育てをよく見て、子どものことをある程度知っている、 ということはまったくなかったのです。これだから新人類は困るんだ、とベテ ランの方々のいやみが聞こえてきそうです。もちろん私たちの世代もそれなり にしぶといですよ。情報交換の方法としてはこのようなメールマガジンがある でしょう。出産前後、あわててですが産科で勉強したこともあります。保育園 は私たちにとって、色々な勉強ができる素晴らしい場所になりました。保護者 は朝、砂ぼこりをあげて保育園に突進、保育士も戦士の顔つき、夕方のお迎え も砂ぼこり。親どうし会話の時間はあるのか?あります。子のわがままのつき あい方、ご飯の食べさせ方、病気での注意、プレゼントの交換、いろいろあり ます。核家族化が進んでも、都市化が進んでも、人のつながりはなくなりませ ん。私がこの2年半であわてて勉強したことの一覧を示しましょう。出産前は 産科が開く親子学校に参加しました。妊娠中の食事、リラックスの体操(実際 にやる)、分娩室の案内、子どものお風呂の入れ方(これも練習する)などが メニュー。出産後の病院食は、おせじにも... いや、食事を用意して頂けるの は感謝です、はい。それはそうと退院後、妻は私の作るヘタな食事に文句を言 わなくなりました。そうなんです、私の料理は病院食よりうまいのです。病院 食が... なのは、のちの夫婦円満につながります。病院食おそるべし(笑)。 続きは次回。 (5)行政の方々へのお願い  出産後は私も病院に寝泊まり。これがものすごくしんどいのです。昼夜構わ ず子どもは泣きますし、それが何を意味しているのか分かりません。とにかく ミルクをあげたり、おむつをかえたり、着替えさせたり、お風呂に入れたりで 体力勝負です。これで朝から晩まで、やらないといけないことは一通り勉強で きます。保育園ではたくさんのことが勉強できました。設備や内容が充実して いない、と一般に思われるであろう保育園でも、保育担当者は楽しく一生懸命 ですし、子どもはすでにしぶとい生命体(笑)で、いろいろ楽しんでいます。 園では、大規模兄弟姉妹あるいは、昔の近所の子ども付き合いのようなものが 再現されています。それぞれの年齢の保育とともに、異年齢合同の保育の時間 もありますから、田園地帯での複式学級のような和やかさもあります。これら は保育園でも幼稚園でも同じですね。小さな子どもへの配慮は私が見ていても 素晴らしい。また心細くなっている友だち、けがをした友だちへの配慮もすば らしい。男女間の仲もよく、これは将来の日本人として非常に楽しみ(異性に 優しい大人になるだろう、という期待ですよ)。夫婦共働き化、核家族化、都 市化が進んでも、それが社会の主流でなかったころによく機能していた子育て 環境がこういうところで再現されています。行政のお仕事をしている方々、新 しい社会環境と、昔も今も保持したい環境を両立させるため、保育園や幼稚園 への注目を忘れないで下さい。 (6)朝から晩までの実際の風景  今私の子は2歳半です。朝から晩までどんな感じか、あらましを説明しましょ う。まず子どもは朝寝こけています。親は飛び起き、急いで簡単な朝食を用意 します。夫婦共出勤で時間の余裕がないので、子どもには、なだめすかしなが らぱっぱと食べさせます。着替えが戦闘状態。なんとか着替えさせ、保育園へ ダッシュ。保育園では朝のお手洗い、おむつの交換、服や道具の準備、保育士 との打ち合わせを迅速かつ確実に済ませ、勤務先へ全力疾走。お互い似た状況 の保護者が顔を会わし、笑顔の会釈というテレパシーで今日の健闘祈願を互い に伝えあう。夕方のお迎えも有事態勢。1分でも遅れると延長料金発生なので、 家計防衛のためにまた全力疾走。保育園では同じく砂ぼこりをあげて駆け込ん できた保護者どうしが再開。保育士から今日の状況の報告を受けた後、明日の 連絡事項を確認し、帰宅。帰宅後、大急ぎで夕食の準備。保育園であったこと をしゃべっているようだが、けったいな独自言語で話しているので、内容がわ からない。一服後、お風呂。これは子どもは大好きなのだが、時々何かが気に 入らないようで大泣き。掃除、ごみ集め、洗濯など、適宜分担と共同で嵐のよ うに済ませる。このあたりは最大限の効率を考える昼間の社会人生活で鍛えた 能力を最大限利用。一服後、子どもはすやすや。といけばいいのだが、時々ど ういうわけだかおおはしゃぎ。早く寝ないと明日の保育園が大変だから、とあ の手この手で寝させる。ふ〜。親もぺたっと寝て明日の勤務に備える。それで はみなさん、おやすみなさい。 あとがき  連載の中で書ききれなかったことをひとつ。妻は妊娠、出産、授乳と、恐る べき体の変化を私に見せつけました。私は、もちろんそれには及びませんが、 育児を通して大きな体の変化がありました。何だと思いますか?それはお腹の 贅肉が10kg近く落ちたことです。毎年の健康診断で、中性脂肪だの、コレステ ロールだの、問診での担当医からのいやみも全滅。子どもそのものが新しい命 ですが、私も生活習慣病発症の10年先送り(?)という、新しい余命をいただき ました。メタボリック症候群とか何とかでお悩みの男性同志、内容捏造なしで 申し上げます。育児で走ると確実かつ効果的なダイエットになります。お腹の 贅肉を落とし、今日も家庭のために全力で奮闘しようではないか。 メール歓迎:atomita@center.wakayama-u.ac.jp 本職は天文屋:http://www.wakayama-u.ac.jp/~atomita/