----- 観測準備 -----
Last revised on 22 October 2006
日没 1 時間前: ドームスリットを開ける、
60 cm 望遠鏡の対物キャップを外す、
CCD カメラの冷却を始める
ドームスリットを開ける: その理由
観測をする日、日の入の 1 時間くらい前には、ドームを開けます。
ドームは観測者だけでなく望遠鏡や機器類にとっても重要です。
風よけ (望遠鏡の振動防止)、夜露よけ、
天候急変への対応 (ドームスリットの開閉だけでよい)、
地平方向からの人工光の遮光といったことに威力を発揮します。
一方、ドームは内外の空気の温度差、風の不規則な流れを作ることがあります。
これは観測条件を悪くします (seeing を悪くする)。
これを抑えるために、ドーム内外で風通しを良くし、
これによってドーム内外の空気の温度差を小くする努力をします。
屋上天文台では、積極的な風通しができる構造になっていません。
待機室から入ってくる扉を開け、待機室からも風を通すようにすることも
考えらますが、待機室の暖かな空気を流し込まない方がいいでしょう。
やはり、下の扉は閉めておいた方がいいでしょう。
屋上天文台ではドームスリットを開けることで、風通し対策とします。
観測時にはすっかりドーム内外の空気が入れ替わって欲しいので、
日の入の 1 時間前にはドームスリットを開けます。
日の入直後にフラット (薄明の晴れた空の撮影による、twilight flat)
を撮影するため、その 1 時間前には空気の入れ替えを始めておきたいのです。
日の入の時刻は日によって (及び観測地点によって) かなり変わります。
理科年表などの資料を参照して下さい。
日没 1 時間前、雨天、あるいはいつ雨が降るか不安な状態なら、
もちろんドームスリットは開けることができません。
60 cm 望遠鏡の対物キャップを外す: その理由
望遠鏡では、対物部分にレンズがはまっていて鏡筒
(望遠鏡の対物部分から接眼部分までの筒をこのように呼ぶ)
が気密的になっているものと、対物部分が開放になっていて
鏡筒部分が外気につながっているものがあります。
屋上天文台の 15 cm 屈折望遠鏡は、屈折望遠鏡のために密閉型ですが、
60 cm 反射望遠鏡は開放型です。
観測では 60 cm 反射望遠鏡を使いますから、
この望遠鏡の対物キャップも外して、鏡筒内にも風を通しておく必要があります。
CCD カメラの冷却を始める: その理由
天体観測用 CCD カメラは、淡い光を捉えるための工夫をこらした CCD カメラです。
その工夫のひとつが、CCD チップの冷却です。
冷却することで CCD チップからの暗電流 (dark current; 以下、ダーク) を抑え、
それによって雑音 (noise) を抑えることができます。
淡い光の信号 (signal) でも、noise に負けずにいることができます
(signal-to-noise ratio; S/N が高くなる)。
屋上天文台で揃えているカメラは、SBIG 社製の ST-7E と ST-9E です。
いずれもカメラ本体内に電気動作する冷凍機が備えてあり、
外気温から 30 度程度まで冷却することができます。
観測中、CCD チップの温度が一定になっていることが重要です。
これはダークのカウント値が時間変動しないようにしたいためです
(ダークのカウント値は CCD チップの温度に依存しています)。
天体を撮影した全ての画像にダークが乗っています。
別にダークだけの画像 (dark frame) を取得し、
これを天体を撮影した画像から差し引くことでダークを除去します。
そのために、ダークのカウント値が時間変動してほしくないのです。
CCD チップ冷却後 15 分すれば温度は安定するという実験結果もありますが、
大事をとって最低 30 分は欲しいことから、
フラット撮影 1 時間前のこのタイミングで冷却を開始しておきます。
日没 1 時間前の作業手順
- ドームスリットのフック棒が外れている (引き切っている) こと確認する。
- ドームスリットのフック棒 (前後に動く) は曲ってしまっていて、
フック棒がスリットに押し入っていることはない、と思われます。
- しかし、もしも万が一フック棒が入っていれば、そのままスリットを開けると、
フック棒をさらに曲げるばかりか、
スリットにも損傷を与える可能性があります。
- 外れているとわかっていても、いちいち必ず確認します
(こういう癖が大切)。
- 脚立 (普通は望遠鏡架台南側に接して立ててあります)
をフック棒があるところの下まで動かし、脚立に上り、フック棒を手で引き、
引き切っているか確認します。
- 確認が終れば、脚立を元の位置に戻します。
脚立にぶつかると危険です。
ドーム内が狭いこともあり、このような器具は普通はどこに置いてあるか、
決めておくことは安全上重要です。
- ドーム回転固定のフックを外す。
- ドーム回転固定のフックは、普通南側の 1 ヶ所のみ、かけています。
1 ヶ所だけの固定は、普通に考えると不安定ですが、
慣習上このようにしています。
- ドームの開閉や回転は危険を伴う作業です。
いつもこのようにしている、ということをお互い約束しておくことは
安全上重要です。
- 暴風雨の時など、ドームに無理な力 (強風) がかかると予想される時は、
全周を囲むように 3 ヶ所あるいは 4 ヶ所で固定します
(1 年に 1 回くらいの暴風雨時)。
その時は、ホワイトボードなどに注意書きを残しておきます。
- 南側 1 ヶ所のフックを外します
(真中部分を回転させて締めたり緩めたりする)。
外したフックはすぐ横にところに置きます。
- 他の箇所でフックがかかっていないか、毎回必ずしっかり目視で確認します。
特に暴風雨後の観測時には注意します。
フックがかかっていれば、すべて外します。
外しにくい場所もあるので、外す作業の際は足場に注意します。
- ドームの電源を入れる。
- ドームスリットのフック棒が外れていることを確認中、
ドーム回転固定のフックを外す作業中、
まだドームの電源を入れてはいけません。
- ドームの電源を入れただけでドームやスリットが動くことはありません。
しかし、ここでも万が一に備えておく必要があります。
また、別の人が不用意にドームスリットの開、
ドーム回転の右、左のボタンに触ってしまうかもしれません。
- ドームの電源を入れるのは、
ドームスリットのフック棒が外れていることを確認後、
ドーム回転固定のフックを外す作業後にします。
- ドームスリットを開ける。
- ドームスリットの開のボタンを押します。
押し続ける必要はありません。
1 回押せば全開します。
- ドームスリットが開いている途中、
緊急停止ボタン (赤いボタン) を押せば、開く動作が止ります。
ドームスリットを開け始めたが、雨だったなど、
開けることを中止したい場合に使うことができます。
- 中止後、もう一度、開のボタンを押せば、また開く動作が始まります。
閉のボタンを押せば、閉ります。
- 望遠鏡の電源を入れる。
- 電源ラック (机と階下からの階段の間に置いてある、青色の背の高い直方体)
の左下に鍵を差し、鍵を横に倒し、電源スイッチを入れます。
鍵は差したままです。
- 60 cm 反射望遠鏡の副鏡の焦点位置が「0」
(目盛は接眼部横の赤色数値表示器のところに表示; 電源投入後は真っ黒)
のところまで戻るモーター音がします。
- 追尾のスイッチ (電源ラックの、ハンドボックスひっかけ部分左側にある)
を、追尾 OFF にしておく。
スイッチを下に倒せば OFF、上に上げれば ON。
- 60 cm 反射望遠鏡の対物キャップを外す。
- 望遠鏡は筒先 (対物) を水平または水平より下に向けないようにします。
主鏡 (鏡筒の底の部分に置いてある) が、
「背中」からはがれるような力が働かないように、です。
- [RA] のクランプは解除せず、[DEC] のクランプだけ解除し、
南の方 (ドームスリットの開いている方向) へ望遠鏡を倒します。
地平高度 15 度くらいまで倒します。
- 脚立 (望遠鏡架台南側に接して置いてあるまま) に昇って
対物キャップを手で外し取ります。
軽くなら、対物のフード部分に手をかけても大丈夫。
- [RA] [DEC] のクランプ両方を解除し、
望遠鏡を東側に大きく倒し、脚立を使わずに対物キャップに手をかける
方法もありますが、これでは望遠鏡が水平より下を向くので
避けた方が無難でしょう。
- ドームを少し回転、望遠鏡を少し倒し、
望遠鏡対物部分真上にスリット開口部が来ないようにする。
- ドームを例えば西側 (右側) に 90 度ほど回転させる。
- 望遠鏡を南側に斜めに (例えば赤緯 0 度; 天の赤道方向) 倒しておく。
- CCD カメラ一式の入った箱をロッカーから、
CCD カメラ制御のノートパソコンかばんをゼミ生部屋から
ドーム内の机の上に持ち込む。
- ドームスリットが開いて、ドーム内が明るくなった後の作業とします。
夕方の天候がまだ悪く、ドームスリットを開けられない時、
ドーム内の照明をすべて点灯させます
(ドーム内壁の 4 ヶ所と机の上のスタンド)。
- ロッカーを開け、CCD カメラ (ST-7E か ST-9E、どちらか) 一式の入っている
半透明箱 (タッパ) を取り出し、ドーム内に持ち込みます。
- ゼミ生部屋に置いてある、hp のノートパソコン
(OS: Windows XP; ホスト名: neptune) を入れている
かばんをドーム内に持ち込みます。
- CCD カメラ一式の入っているタッパには、
CCD カメラ本体 (ST-7E あるいは ST-9E) と
フィルターターレット (CFW-8A) をつなげた黒い円柱状の鉄製筐体を
包んでいるビニール袋と、
CCD カメラとパソコンをつなげる灰色のパラレルケーブルを
包んでいるビニール袋が入っています。
底にはシリカゲル (乾燥剤) を敷いています
CCD カメラがシリカゲルまみれにならないように
シリカゲルの上に網を乗せています。
シリカゲルの細かい粉が CCD カメラの機械の隙間に入り込まないように、
機械を袋に入れているのです。
天体観測用 CCD カメラは湿気を極度に嫌います。
特に CCD チップを収めている小室が湿っているのは致命的です。
冷却で結露し、CCD チップの保護窓が曇ってしまいます。
- CCD カメラ周りの結線をする。
- パソコンは、机横 (椅子に座って右側下) にあるタップから電源を取ります。
- この段階では、CCD カメラは望遠鏡に取り付けずに机の上に置いて作業しても
OK です。
- CCD カメラのキャップは、まだ外しません。
- CCD カメラの電源は、机の前 (机の、望遠鏡側) の床の上に置いてあります。
普通の 100 V AC 電源から、100 V → 12 V の変圧噐
(SKY LARK というメーカー名が書かれている; 以下、SKY LARK)、
そこから CCD カメラ用の変圧噐 (これが 12 V 入力になっている) と
つながっています。
ケーブルの色は黒。この先を、CCD カメラ本体に差し込みます。
- パラレルケーブル (灰色) で、
CCD カメラとパソコンをつなぎます。
- ケーブルがぐしゃぐしゃにならないように整理するとともに、
足に引っ掛からないように整理します。
観測時、望遠鏡接眼部に取り付け、色々な方向に向けていくと、
ケーブルを引っ張っていくことになります。
その時に安全にケーブルが流れるよう、整理をしておくのです。
- 結線を終えてから電源を入れます。
この段階前までに電源を入れないようにします。
- CCD カメラの電源を入れる。
- SKY LARK (机の前、床の上に置いてあります; 黒い直方体) の電源を入れます。
- SKY LARK の緑色表示灯が点灯します。
- CCD カメラの空冷ファン (CCD カメラ裏側に付いている) が回り始めます。
空冷ファンの横にある、赤色表示器も点灯します。
- ノートパソコンの電源を入れる。
- CCD カメラの電源を入れたあと、パソコンの電源を入れます。
一般に、制御のための計算機本体を「頭」と考え、
それにつなげているものを「手足」と考えると、
「手足」の方から順に電源を入れ、最後に「頭」の電源を入れます。
- CCD カメラ制御ソフト CCDOPS を立ち上げる。
- パソコンのデスクトップ上に
「CCDOPS」というアイコンがあります。
これをダブルクリックすることで、CCDOPS というソフトウエアを立ち上げます。
- CCDOPS のウィンドウが、画面いっぱいに広がって立ち上がります。
- CCD カメラとの通信を確立させ、カメラの諸元を確認する。
- CCDOPS 画面の右下、「リンク: 未接続」となっているはずです。
CCDOPS 画面のメニューバー (画面中央近くにある横長の、ボタンの並び)
の「Setup」(左端のボタン) をクリックします。
- チップ温度制御 → ON を選択、
温度 → -5 [度 C]
(外気温から 25 度、あるいは 30 度下げた温度;
温度計はドーム電源架の上にあります) に設定、
その上で、
アクティブ CCD は、イメージ/トラッキング のうち、
「イメージ」になっていること、
ブルーミング軽減は、行う/行わない のうち、「行わない」になっていることを
確認しておきます。
そして OK を押します。
- CCDOPS 画面の右下に、「接続 [ST-9]」(ST-7E を使用しているなら [ST-7]) と
出るはずです。
- CCD チップの冷却を始める。
- CCDOPS 画面の右下端に、CCD チップの温度表示があります。
ここの数値がどんどん下っていくはずです。
- 設定した温度まで、
冷凍機の能力を最大限使いながら (100 % という表示)、
温度は急激に下っていきます。
- 設定した温度に近づくと、
上下に温度が振動しながら、一定温度に近づきます。
冷凍機は、もう能力いっぱいを使わなくなっているので、
100 % という表示ではなく、70 % といった余力を残した表示になっています。
- もし設定温度近くで一定温度になった時でさえ、100 % 表示になっていたら、
それは無理に低過ぎる温度を設定したことになります。
冷却温度は低い方がダークのカウント値が低くて好ましいのですが、
冷却温度が時間安定していないことは、後で行うダーク差し引き処理に
致命的な問題を引き起こします。
ここでは冷却温度の時間安定を優先し、冷凍機の能力に余力がある範囲で
低い温度設定とします。
- フィルターターレット (CFW-8A) の回転を確認する。
- CCD カメラのキャップを取り、上からフィルターをのぞきこみます。
- CCDOPS で、フィルターをどれか選びます。
フィルターターレットが回転し、
その通りのフィルターが選択されることを確認します。
何種類かのフィルターで試します。
- 時々フィルターターレットの回転が不良の時があります。
CCD カメラ本体とフィルターターレットをつなぐケーブルの結線が
しっかり行われているか、確認します。
たいていこれで直ります。
- フィルターターレットの回転が確認できたら、
CCD カメラのキャップを再び付けておきます。
- 日没まで待つ。
- ドーム内の照明は付けたままにします。
日没時、ドームに戻ってきてすぐに作業できるようにするため、
そして「観測準備中です」という意思表示をするためです。
ホワイトボードなどに、「観測準備中」と書いておくと、
なお良いでしょう。
この後の作業
Tomita Akihiko; atomita @ center.wakayama-u.ac.jp