撮像観測では、 観測波長域をフィルター (実際にはフィルター透過域+光学系の透過域+検出器の感度域+大気の透過域の合計) で制限します。 改めて図示すると このようになります。 この観測帯域が標準測光システムと同じであれば問題ないのですが、 実際にはわずかに (下手をするとかなり) ずれています。 このように観測波長域が違ってしまうと、 天体のスペクトルが「青い」場合と「赤い」場合で、 写りが変わってきてしまいます。 図示するとこのようになります。 この図では、 標準測光システムに比べて観測波長域が長波長側 (「赤い」方) に寄ったものになっています。 「青い」スペクトルを持った天体を見た時、 標準測光システムで測光した場合に比べてより「暗い」結果を返すことになり、 「赤い」スペクトルを持った天体の場合は「明るい」結果を返すことになります。 これでは測光が正確にはできません。
測光観測では標準測光システムでの等級値に合わせて、 実際の観測等級を補正することにします。 この観測波長域の違いを補正するために、 以下のように「色補正項」を加えることにします。
色補正項を決めるためには、 標準測光システムで等級値が与えられている星 (例えば Landolt の標準星) を観測します。 多数の星を対象にし、 上記式の const を決めつつ色補正項係数 (c) を決めます。
大気はほぼ透明ですが、 天体の光を吸収しています。 まずは平行平板モデルで考えてみましょう。 図示するとこのようになります。 大気の層を通過する長さは、 天頂角 (z) を用いて、 1 / cos z と表せます (sec z と表記する場合もあります)。
実際には平行平板ではなく球面になっていますし、 大気層も単純一層ではありません。 airmass (エアマス) 関数と呼ばれる もので大気透過の際の吸収量を評価しています。 説明の図は これ。 天頂角 z が小さい範囲では sec z にほぼ一致します。 理科年表にも airmass 関数の数値がいくつかの天頂角に対して記されていますし、 IRAF タスク noao.astutil.airmass で簡単に計算できます (ただしタスク airmass では天頂角ではなく地平高度を 入力するようになっています; 地平高度 = 90度 - 天頂角)。
airmass 関数を使った大気吸収補正項を入れた測光変換式は、 B と V バンドを具体例として使うと、
このうち、c1 は望遠鏡 (望遠鏡光学系+カメラ周り) の効率 (やってきた光子をどのくらい検出するか) に対応、 c2 は大気吸収補正に対応、 c3 は観測波長域の「ずれ」の補正に対応していることになります。 主鏡のくもりやフィルターの汚れなどは c1 に影響しますが、 ある程度望遠鏡+カメラに固有の値になるでしょう。 c3 は特にカメラ周りの性質に依るもので、 この値も装置固有に近いものでしょう。 c2 はその時の天候条件に大きく左右されます。 一晩の条件が安定している快晴夜でない限り、 一晩の中でも変化していくと考えられています。
3 つのパラメーターを図で説明したものが、 これです。 横軸に airmass、 縦軸に機器等級-本来の等級を取ったもので、 photometry のチェックで多用するグラフです。
ごちゃごちゃいわずに、3 つの変数一発決定の IRAF タスクがあります。 noao.digiphot.photcal.fitparams です。 しかも、同時に複数 band 対応です。 例えば、
ここでは木曽観測所 (東京大学天文学教育研究センター) 105 cm シュミット望遠鏡に 2K-CCD を取り付けた 2001 年 4 月 30 日 取得のデータを例にとります。
標準星は Landolt のものを使っています。 SS.cfg に、SS.cat や SS.obs の読み方の指定があります。 SS.cfg での指定を変えれば、SS.cat や SS.obs の列の置き方が変わります。 SS.par にはごちゃごちゃ結果が書かれていますが、ここではパラメーターが多いと、 一気に決定する際に苦労します。 精度高い多くのデータ点が必要になります。 パラメーターを一気に決めずに徐々に決めていき、 確度を高める方法もあります。 c3 の値は同一視野に写っている、 色の違う標準星を対象として得ることができます。 同一視野ですから、airmass (F(z)) の値が同じですし、 望遠鏡効率に対応する c1 も同じ条件です。
c1 や c2 を多数回測定し、 素性を調べておく手もあります。 c1 は望遠鏡効率に関係していますから、 観測ごとにあまり変わらないはずです。 そうすると c2 の決定に集中することができます。 c2 の値は短い波長帯の方で絶対値が大きくなるはずです。 うまくやれば、one-parameter fitting で決められるかもしれません。
木曽観測所 105 cm シュミット望遠鏡 + 2K CCD では (R band filter 更新後)、 予備的結果ですが、 以下のような見積りができます。 [別ページ]
CCD チップの測光特性はしっかりと調べておかないといけません。 ここでは横着して、 2 つの資料を提示しておきます。
この方面での仕事で大変よい参考文献は、 宮坂さんの論文でしょう。 東京都の職員の方で、国立天文台に内地留学した時の成果です。 対象としたカメラは SBIG 社製 ST-6 です。