----- 精度高い測光 -----

Last revised on 22 October 2006


色補正項

撮像観測では、 観測波長域をフィルター (実際にはフィルター透過域+光学系の透過域+検出器の感度域+大気の透過域の合計) で制限します。 改めて図示すると このようになります。 この観測帯域が標準測光システムと同じであれば問題ないのですが、 実際にはわずかに (下手をするとかなり) ずれています。 このように観測波長域が違ってしまうと、 天体のスペクトルが「青い」場合と「赤い」場合で、 写りが変わってきてしまいます。 図示するとこのようになります。 この図では、 標準測光システムに比べて観測波長域が長波長側 (「赤い」方) に寄ったものになっています。 「青い」スペクトルを持った天体を見た時、 標準測光システムで測光した場合に比べてより「暗い」結果を返すことになり、 「赤い」スペクトルを持った天体の場合は「明るい」結果を返すことになります。 これでは測光が正確にはできません。

測光観測では標準測光システムでの等級値に合わせて、 実際の観測等級を補正することにします。 この観測波長域の違いを補正するために、 以下のように「色補正項」を加えることにします。

より具体的な式を示しましょう。 B band と V band の 2 色で観測しているとします。 標準測光システムでの等級値を B,V、 機器等級での等級値を b,v と記すことにします。 constはバンドごとに違う値になります。 ここでは b-v という色 (機器等級での色) の関数として 色補正項を入れています。 係数が c(b) あるいは c(v) です (もちろんバンドごとに違います)。 この係数の絶対値が小さいほど、 上で説明した標準測光システムとのずれが小さいことになります。 この色補正項はある程度は機器固有の値と考えられます。

色補正項を決めるためには、 標準測光システムで等級値が与えられている星 (例えば Landolt の標準星) を観測します。 多数の星を対象にし、 上記式の const を決めつつ色補正項係数 (c) を決めます。

大気吸収補正

大気はほぼ透明ですが、 天体の光を吸収しています。 まずは平行平板モデルで考えてみましょう。 図示するとこのようになります。 大気の層を通過する長さは、 天頂角 (z) を用いて、 1 / cos z と表せます (sec z と表記する場合もあります)。

実際には平行平板ではなく球面になっていますし、 大気層も単純一層ではありません。 airmass (エアマス) 関数と呼ばれる もので大気透過の際の吸収量を評価しています。 説明の図は これ。 天頂角 z が小さい範囲では sec z にほぼ一致します。 理科年表にも airmass 関数の数値がいくつかの天頂角に対して記されていますし、 IRAF タスク noao.astutil.airmass で簡単に計算できます (ただしタスク airmass では天頂角ではなく地平高度を 入力するようになっています; 地平高度 = 90度 - 天頂角)。

airmass 関数を使った大気吸収補正項を入れた測光変換式は、 B と V バンドを具体例として使うと、

となります。 機器等級を標準測光システムでの等級に直すために、 3 つの項を付加しないといけません。

このうち、c1 は望遠鏡 (望遠鏡光学系+カメラ周り) の効率 (やってきた光子をどのくらい検出するか) に対応、 c2 は大気吸収補正に対応、 c3 は観測波長域の「ずれ」の補正に対応していることになります。 主鏡のくもりやフィルターの汚れなどは c1 に影響しますが、 ある程度望遠鏡+カメラに固有の値になるでしょう。 c3 は特にカメラ周りの性質に依るもので、 この値も装置固有に近いものでしょう。 c2 はその時の天候条件に大きく左右されます。 一晩の条件が安定している快晴夜でない限り、 一晩の中でも変化していくと考えられています。

3 つのパラメーターを図で説明したものが、 これです。 横軸に airmass、 縦軸に機器等級-本来の等級を取ったもので、 photometry のチェックで多用するグラフです。

補正項の決定 - 一発決定方式 -

ごちゃごちゃいわずに、3 つの変数一発決定の IRAF タスクがあります。 noao.digiphot.photcal.fitparams です。 しかも、同時に複数 band 対応です。 例えば、

という状況を考えましょう (係数の前の符合は正でも負でもいいのですが、 ここでは後の例に合わせるために負にした)。 fitparams を動かすために、 3 つのファイルを事前に用意します。 B,V,R のデータ (標準測光システムでの等級値、つまり目指すべきカタログ記載値)、 b,v,r 及び F(z) のデータ (機器等級と airmass、つまり観測データ)、 そして上記の式、それぞれを記載したテキスト・ファイルです。 ファイル名は何でもいいのですが、 ここではそれぞれ SS.cat, SS.obs, SS.cfg としてみましょう。 fit した parameters を入れるファイルを SS.par としてみましょう。 で走ります。 もちろん epar で指定して :wq で保存し、fitparams を走らせてもいいですし、 epar 指定後 :go で直接走らせても構いません。

ここでは木曽観測所 (東京大学天文学教育研究センター) 105 cm シュミット望遠鏡に 2K-CCD を取り付けた 2001 年 4 月 30 日 取得のデータを例にとります。

標準星は Landolt のものを使っています。 SS.cfg に、SS.cat や SS.obs の読み方の指定があります。 SS.cfg での指定を変えれば、SS.cat や SS.obs の列の置き方が変わります。 SS.par にはごちゃごちゃ結果が書かれていますが、ここでは 一般に測光での精度は 0.01 mag より高いものは困難なので、 係数の精度として、ここでは小数点第 2 位までの表記としています。 c2 の絶対値について、R での値の方が V での値より 少しですが大きくなっています。 これは予想と反します。 測定誤差が大きく、たまたまこのような値を返してきたのでしょう。 c3 の値は、実際の観測での波長感度特性と 標準測光システムでの波長透過特性との差に対応しています。 絶対値で見ると V での値が一番小さく、 実際の観測のシステムが標準測光システムに一番近いことを示しています。 B での値は大きく、 「ずれ」が大きいことを示しています (木曽観測所では 2001 年 12 月に R band filter を更新し、 このずれが大変小さくなりました)。

補正項の決定 - 外堀埋め立て方式 -

パラメーターが多いと、 一気に決定する際に苦労します。 精度高い多くのデータ点が必要になります。 パラメーターを一気に決めずに徐々に決めていき、 確度を高める方法もあります。 c3 の値は同一視野に写っている、 色の違う標準星を対象として得ることができます。 同一視野ですから、airmass (F(z)) の値が同じですし、 望遠鏡効率に対応する c1 も同じ条件です。

と表現することができます。 これで c3 を調べておき、 他の条件でも適用する手があります。

c1c2 を多数回測定し、 素性を調べておく手もあります。 c1 は望遠鏡効率に関係していますから、 観測ごとにあまり変わらないはずです。 そうすると c2 の決定に集中することができます。 c2 の値は短い波長帯の方で絶対値が大きくなるはずです。 うまくやれば、one-parameter fitting で決められるかもしれません。

木曽観測所 105 cm シュミット望遠鏡 + 2K CCD では (R band filter 更新後)、 予備的結果ですが、 以下のような見積りができます。 [別ページ]

CCD チップの測光特性調査

CCD チップの測光特性はしっかりと調べておかないといけません。 ここでは横着して、 2 つの資料を提示しておきます。

この方面での仕事で大変よい参考文献は、 宮坂さんの論文でしょう。 東京都の職員の方で、国立天文台に内地留学した時の成果です。 対象としたカメラは SBIG 社製 ST-6 です。

天文学ゼミ所有の ST-7E、ST-9E を対象としたものでは、 2002 年度の西端君の卒業論文があります。


Tomita Akihiko; atomita @ center.wakayama-u.ac.jp