----- フラット取得 -----
Last revised on 24 October 2006
夕方薄明 (日没直後) あるいは明け方薄明 (日出直前) を使った
トワイライト・フラット
- CCD カメラの望遠鏡接眼部への取り付け。
- 夕方での場合、これが実際の観測の最初になります。
明け方での場合、一晩の観測の終了時ということになります。
以下のこの項の説明は、夕方での観測開始のためのものになります。
- 60 mm アイピースが 60 cm 望遠鏡の接眼部に付いていれば、
60 mm アイピースを接眼部から外します。
- CCD カメラ (フィルターホイールと一体) に接眼アダプターを
先に取り付けておきます。
接眼アダプターはしっかりと取り付けます。
- 接眼アダプターを望遠鏡接眼部に取り付けます。
- 一旦取り付けた後、CCD カメラからのケーブル
(電源ケーブルとパラレルケーブル) が、カメラから下側に垂れるようにします。
接眼アダプターの締めつけねじを少しだけ緩め、
CCD カメラ本体を回転させます。
位置が決ったら、接眼アダプターをしっかりと締めなおします。
この回転位置では、
パソコン画面に出る CCD 画像の上が北になり、
位置確認が容易になります。
- 望遠鏡を晴れている空の領域に向ける。
全天良く晴れているなら、子午線上、天の赤道に向ける。
- フラットとは、後の画像整約 (リダクション; reduction) の際に
必要となる画像データです。
フラットは、空間的に一様な明るさの物体を撮影したものです。
- フラットの撮影は、実は大変難しいものです。
一様光というものを用意することが非常に難しいからです。
フラットの撮影方法はいくつか考えられています。
ここでは、そのうち「トワイライト」と呼ばれる、
薄明 (twilight) の晴れた空の領域を撮影する方法を採用します。
夕方の薄明でも、明け方の薄明でも構いません。
- 全天にわたって良く晴れているなら
(こういう時はフラットを取得するのに適している)、
子午線上 (時角 0 時、接眼部から見える時角目盛なら 12 時になっている)、
天の赤道 (赤緯 0 度) 方向に向けることにしましょう。
天頂に向けてもいいのですが、天頂に向ければ CCD カメラが真下に来て、
作業がやりにくくなります。
一方、子午線上の天の赤道の方向だと、
CCD カメラが手元の高さに来て、作業が容易になります。
- フィルターを選ぶ。フィルターごとにフラットを取得する。
- 観測で使う予定のフィルターそれぞれすべてで、別々にフラットを取得します。
- フィルターはどの順番で選んでいってもいいのですが、実際は作戦が必要です。
夕方の場合、明るく写るフィルターを後にしましょう。
空はどんどん暗くなっていきます。
暗くなりすぎると長い露出時間が必要になり、
時間がかかりすぎるばかりか、星も写ってきてしまいます。
R → V → B → I → U の順に薄明の空は明るく写ると思われます。
空が明るいうちに、暗く写るフィルターの方を優先しましょう。
逆に明け方の場合、明るく写るフィルターを先にしましょう。
- その夜の観測が 1 種類のフィルターだけのものなら、
そのフィルターだけのフラットでいいわけです。
- 望遠鏡の焦点を出しておく。
- 夕方での撮影の場合、これから使う望遠鏡焦点位置の数値は
まだ分りません。
前日、あるいは近い日の観測で使っていた、
CCD 撮像での望遠鏡焦点の数値を調べます。
眼視での焦点の数値は別ですので、気を付けてください。
焦点の数値は日によってそんなに変わりません。
前日の観測での値で十分です。
- 望遠鏡電源を入れ直した後、いつも焦点位置は 0 になっています。
これは実際に撮像で使う焦点位置とかなり違い、
像の「ケラレ」が違っていると思われます。
- 明け方の薄明を使ったフラット取得の場合、
その夜に使った焦点位置の実際の数値を使えばいいでしょう。
- 適正露出時間を決める。
- 露出時間は、5 秒を越えたいところです。
あまりに短い露出時間では、
シャッターの開閉に伴う、CCD チップ上の露出ムラが出てしまいます。
- CCD のカウント値は 0 カウントから 65535 (2 の 16 乗 - 1) カウントまで
正の整数値として返ってきます。
65535 カウントを越える「振り切れ」はまったくだめですが、
入出力の線型性 (入力の大きさに比例して出力されること)
が保証されているのは、2 万カウント程度までと思われます。
2 万カウントを越えないよう、
1-2 万カウントを目指して露出時間を設定します。
- 暗い空に対して、あまりに長い露出時間では星が写るようになります。
60 秒は越えないようにしておきましょう。
- CCD のカウント値として 3000 は超えておきたいところです。
- 以上から、5 秒の露出時間で 2 万カウントになる時が
(そのフィルターでの) フラット取得として最も空の明い時、
60 秒の露出時間で 3000 カウントになる時が
(そのフィルターでの) フラット取得として最も空の暗い時ということに
なります。
CCD カウントとしては、1 万カウント台を目指せばいいでしょう。
- ライト・フレームとダーク・フレームを別々に取得する。
- CCDOPS では、最初のデータ・ダウンロードの時から
ダーク差し引き済みの画像を取得することができます。
整約の時の都合から、
ダーク・フレーム (dark; シャッターが閉じて光が当たらない) は別に取得し、
対象 (天体) を撮影した
ライト・フレーム (light; シャッターが開いて光が当たっている) は、
ダーク差し引きをしない画像として取得します。
- 薄明の空を写し込んでいるのは、ライト・フレームです。
ダーク・フレームは、ライト・フレーム取得時と時間的に離さずに取得します。
ダークのカウント値が時間変動している可能性があり
(CCD チップの温度が安定している限り、あまり心配はないが念のため)、
それによる影響を受けないようにするためです。
- 薄明の時間帯は短いので、
その間は良いライト・フレームを取得することに専念します。
ダーク・フレームは一通りのライト・フレーム取得後に、
時間に追われず落ち着いて取得すればいいでしょう。
- ダーク・フレームの露出時間は、ライト・フレームの露出時間と同じものが必要です。
ライト・フレームの露出時間がフィルターの種類によらず 1 種類なら、
ダーク・フレームの露出時間は、その露出時間 1 種類のみになります。
- ライト・フレームは各バンド (フィルターが決める帯域のこと) ごとに
5 枚取得する。
- ライト・フレームは、フィルターごとに撮影します。
フラット画像は、フィルターごとに違っています。
- ダーク・フレームは、バンドに依存しません。
- それぞれのフィルターでのライト・フレームが 5 枚ずつ、
ライト・フレームの露出時間それぞれに対応して、
ダーク・フレームが 5 枚ずつ必要です。
5 枚連続の撮影とします。
同じ条件のフレーム 5 枚が必要なのは、整約の時にノイズ軽減の処理を行うためです。
- その日のうちにフラットを取得することができなかったら...
- これは困りました...
- 同じ条件で、昨日取得していたデータを再利用するか、
同じ条件で翌日データを取得するか、になります。
- ドーム内壁に白い布かつやのない板を貼り、
それに白熱電灯を照射したものを撮影する「ドーム・フラット」は、
屋上天文台に準備がありません。
これは天候によらず、また夜間でも撮影が可能なため大変便利ですが、
一様光の保証が難しく、
迷光の対策が必要という問題もあります。
(トワイライト・フラットで太陽が出ている時を外すのは、
空の輝度が高すぎるだけではなく、横からの太陽光という迷光を避けるためでもあります)。
- 夜光を写し出し、それをもとにフラットを作成する「スカイ・フラット」という方法も
あります。
しかし、これは夜光がそれなりの輝度で写っていないといけません。
屋上天文台ではオート・ガイダーがなかなか働きません。
オート・ガイダーなしの普通の追尾のみの撮影では
3 分が最大露出時間です (星像が流れない、つまり追尾誤差が星像直径
(seeing size; 約 3 秒角) より小さいという条件)。
長時間露出をすることが少なく、スカイ・フラットのためのよい画像を集めることは
難しい状況です。
フラット撮影の手順の例
- 夕方に、B で 20 秒、V で 10 秒、R で 5 秒露出の場合:
- filter: B、exposure time: 20 sec、light frame の dark 差し引きなし、
5 枚連続、FITS 形式で保存
- filter: V、exposure time: 10 sec、light frame の dark 差し引きなし、
5 枚連続、FITS 形式で保存
- filter: R、exposure time: 5 sec、light frame の dark 差し引きなし、
5 枚連続、FITS 形式で保存
- filter は関係ないので例えば R のまま、exposure time: 5 sec、dark のみの画像、
5 枚連続、FITS 形式で保存
- filter は関係ないので例えば R のまま、exposure time: 10 sec、dark のみの画像、
5 枚連続、FITS 形式で保存
- filter は関係ないので例えば R のまま、exposure time: 20 sec、dark のみの画像、
5 枚連続、FITS 形式で保存
- ダーク・フレームの露出時間は、どの順番でも問題ありません。
- 明け方に、I で 20 秒露出の場合:
- filter: I、exposure time: 20 sec、light frame の dark 差し引きなし、
5 枚連続、FITS 形式で保存
- filter は関係ないので例えば I のまま、exposure time: 20 sec、dark のみの画像、
5 枚連続、FITS 形式で保存
Tomita Akihiko; atomita @ center.wakayama-u.ac.jp