2023.04.26偶然の出会いを大切に

山本 美弥さん

カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
公共サービス企画company
企画営業本部
企画・事業推進部
サービス企画/施設企画

卒業学科
和歌山大学経済学部経済学科64期卒業生
取材者

取材者

田中 結菜

和歌山大学経済学部経済学科74期生

━ 和歌山大学に入学しようと思った理由を教えてください。

私はもともと人間科学に興味があり、本当はそれについて学ぶことができる大学に進学したいと思っていました。人間科学に興味を持った理由は、様々な環境や動機で人間の行動がどう変化するのかということを学びたいと思っていたからです。しかし、センター試験で結果が出ず、志望校は厳しい状態となりました。その時に高校の先生が、「経済学部でもお前のやりたい事ができるのではないか」と言ってくださりました。私自身、他に行く当てがなく、地元の島根を出て関西に行きたい気持ちがあったので、和歌山大学を受験することを決めました。センター試験を受験する段階では和歌山大学について知らずにいましたが、高校時代の先生の言葉がきっかけとなりました。

━ 和歌山大学で学んだことを教えてください。

当時、和歌山大学経済学部には、経済学科、ビジネスマネジメント学科、市場環境学科という3つの学科がありました。私は経済学科に所属していて、マクロやミクロといったまさに「経済学」といったものを学んでおり、マーケティングに関する授業も受けていました。ゼミ選択では、柳先生が開講しているマーケティングのゼミに入り、統合型マーケティングに興味を持ち取り組んでいました。統合型マーケティングとは、マーケティングの要素である4P(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション)を複合し、ブランディングしてマーケティングするというものです。マーケティングを学ぼうと思った理由は、広告やパッケージ、プロモーションなどで人の購買意欲がどのように変わるのかを知りたかったのが理由のひとつです。

マーケティングとは、ざっくり言うと市場と企業がコミュニケーションをとる行動のことを言いますが、まず、マーケティングはなぜ生まれたのかということについて調べました。マーケティングという概念はどこからうまれ、一般的になったのだろうと興味を持ち始め、教科書では理由が一文でまとめられているけれど、なぜそうなるのかが気になりました。そこで、引用元をたどって調べ、資本主義までさかのぼって調べました。最終的には、市場と企業の間だけでのコミュニケーションがマーケティング行為だけでなく、BtoBのように企業と企業が互いにコミュニケーションをとりながら市場とコミュニケーションをするというマーケティングの姿もあるのではないかと論じました。

━ 大学で学んだことで現在のお仕事に生かされていることはありますか。

マーケティングは実践的な学問だと思っているので3C分析やSWOT分析といったものは実際に使っています。しかし正直なところ、マーケティングについてはビジネスパーソンなっても学べることなので、そこが役に立っているといった感覚はないです。人よりも先に学ぶことが出来てよかったな、という感じです。どちらかというと、論理的に思考したり、本質を見抜く力を学んでいた方が身についているという感覚があります。

━ もともと柳先生のゼミに所属しようと思っていたのですか。

あまり真剣に考えてなかったです。柳先生の授業でグループワークする機会があった時に、たまたま柳ゼミの先輩と一緒になったんです。そこで、私がした発言に対して、「センスがあるから柳ゼミに来なよ」と言われ、ゼミについて調べました。すると、私がやりたいことができそうだったので、そこから所属したいと思うようになり、面接を受けに行きました。その先輩も柳先生に話してくださっていて、ゼミ選考の面接の際に「あの時の君か」という感じでしたね。これも偶然ですね。

━ 学生時代に何か力を入れていたことはありますか。

私は学生時代、主に3つの活動をして、ゼミと野球部のマネージャーと学生広報チームのプロジェクトをやっていました。とくに、ゼミと学生広報には力を入れていました。野球部のマネージャーとしては、決まった曜日に活動していましたが、ゼミと学生広報はほぼ毎日通って活動していました。

ゼミに関して、当時の柳ゼミはとても厳しく、とにかくゼミが優先という感じで忙しくはあったのですが、楽しかったです。また、商品企画の全国大会にも出場しました。私たちが出場した部門では、防水性などの機能がある生地を使って商品を企画する、というお題が出され、チームでエコバックを企画しました。

学生広報での活動は、自身の興味があったことなのですごく力をいれて頑張りました。活動としては、ブログでの発信を行ったり、大学の広報の取材に同行させてもらう活動をしていました。また、私は、和歌山大学には、他大学を第一志望としていた不本意入学の学生が多いと思っていました。そして、そのことを学生自身が言ってしまうことによって後輩が大学生活にネガティブなイメージを持ってしまい、学校のアピールにならないということに対して問題意識を持っていました。そこで私は、学生が大学に行きたくなる、大学生活が楽しめるようにしようと考えウィークリーでフリーペーパーを作っていました。

当時はとても楽しく活動していたと思います。

━ 和歌山大学で勉強してよかったなと思ったことはありますか。

余白があったことです。授業が自由に選択できたり、都会のような騒がしさがなくて、一人で過ごしてもみんなで過ごしても良い、自由なところですかね。周りに流されることなく自分の軸を持てた4年間だったと思います。

━ 就職活動について教えてください。

私たちの時代は、就職活動の解禁が遅かったと記憶しています。しかし私自身は、就活の時期に関係なく3回生の1月ぐらいから就活を始めました。マーケティングを学んでいたのと、統合型マーケティングに興味があったので、商品開発から流通販売までを一貫してかかわることができるような職に就きたいなと思っていました。また、学生広報の経験からも何かを伝えることがしたいと思っていました。業界は、メーカーを志望していました。一方で、同じ商品をずっと売り続けるということが私の性格に合わないと思っていました。また、広告代理店だと、クライアントの要請に応えなければいけないし、自分たちが良いと思うことばかりはできないなぁと思い、どうすべきか悩んでいました。そんな時に、Twitterで自社(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(注1、以下CCC)の広告を見つけました。自分たちが持っているプラットフォームで好きなものを提案できる、新しい事業をおこしやすいというのを見て「この仕事良いな」と思い、すぐに説明会に参加しました。本当に偶然出会ったという感じです。

(注1 CCCは「カルチュア・インフラを、つくっていくカンパニー。」 をミッションとして掲げ、プラットフォーム事業、データベースマーケ ティング事業、公共サービスや地域共生に関わる事業のほか、数々のネットサービスや新たなプラットフォームサービスを企画し、プラットフォームを通じて新しいライフスタイルの提案を行っています。)

取材の様子

━ 入社されてすぐの状況を教えてください。

入社してすぐに宮城県多賀城市での図書館のプロジェクトに配属されました。入社してからは、TSUTAYAの現場に配属されることが多いと思っていたので、私もそうなるのだろうと勝手に考えていました。私は作品の知識が全くなかったので、TSUTAYAで映画などをたくさん借りて見ていました。しかし、私自身が教育や地方創生に興味があると伝えていたこともあり、図書館の運営といった公共サービスの企画を行う部署への配属となりました。私は多賀城市の図書館がオープンしてすぐの入社だったのですが、大盛況だったということもあり、入社式の2日後に私を含めた新入社員が現場に動員されました。社会人初日の午前中に研修が行われ、午後には現場に立っていました。多賀城の図書館では、返却しに来た本が大量にあったため、本の返却作業などに追われていました。

━ 山本さんの入社されてからのキャリアを教えてください。

多賀城では3ヶ月の間働いていました。多賀城から帰ってきたのちに本社で新入社員研修を受けました。入社半年後には、岡山県高梁市の図書館プロジェクトに参加しました。高梁でのプロジェクトも約半年をかけて行い、その後2年間は運営にも携わっていました。その後、和歌山市民図書館のプロジェクトに配属になりました。和歌山市民図書館の開館後、本社に異動になり、現在は新たな公共施設の企画を行うなどの仕事を行っています。

━ 図書館の立ち上げについて詳しく教えてください。

私は、総人口3万人といわれている岡山県高梁市と、和歌山県和歌山市の図書館の立ち上げにかかわりました。図書館の立ち上げはまず、自治体が新たな図書館の運営を委託する事業者を募集し、そこに手を挙げて応募するところから始まります。応募では、自治体が提示した予算や期間に合わせてどのような図書館にするかのコンセプトの作成を行い、プレゼンをします。その後、自社の案が採用されれば、現在運用されている図書館からどのようにサービスを向上させていくのかなどのすり合わせを行います。私たちは、「100の価値」というサービスや施設を新しく立ち上げることで生み出される価値を100個出すということをしたりします。その他には、蔵書の管理のための作業やイベントの仕込みや広報の準備、建築の調整やインテリアの配置など細かいところまで手掛けます。公募に対して提案する段階では、プロジェクトのコンセプトやサービスの概要などはすでに決まっている状態です。しかし、具体的に誰がどのようにそのサービスを実現していくかなどはその後のプロジェクトで決まっていきます。

一般的に図書館の立ち上げには1年から1年半ぐらいかかります。和歌山県の図書館の場合は蔵書数が多く、新型コロナウイルスの影響もあり2年ぐらいかかりました。また、指定管理委託の契約は大体の場合、5年で契約が終了するため、それ以降は再び公募が行われ、新たなサービス等の提案を行うという形になっています。

━ 和歌山市民図書館について教えてください。

まず、和歌山市民図書館は「知性と感性を醸成する場」をコンセプトとして立ち上げました。2019年12月に一次開館、6月に本格開館が行われました。立ち上げに関して、私は和歌山大学出身だったということもあり、このプロジェクトに選んでいただき、前々年6月に現場に赴任しました。その後、前年4月からプロジェクトが始まり、私自身は2年間かかわっていました。はじめに赴任した時には、単身で和歌山に来て「とりあえず友達を100人作れ」と言われたので、とにかく飲みに行ったり、イベントなどに参加したりしていました。

和歌山市民図書館のサービスについて、コンセプトをもとに広報担当が「和the(ワーザ)」というフリーペーパーを発行するなど、和歌山のイイものを和歌山市の人たちに伝えるということを大切にしています。ただ図書を提供する場所というだけでなく情報を提供する場所として考えており、情報をそのまま伝えるだけでなく、より魅力的に編集したり、イベントなどを通じて発信することでコンセプトを実現しています。

取材の様子

━ 現在されているお仕事の内容を教えてください。

私の所属している部署が公共サービス企画companyというところで、市民活動センターの運営やスタートアップ事業の運営をしています。私は施設企画とサービス企画というチームに参加しています。これらは、新しい施設を企画するチームと既存のサービスの向上のための提案をするチームです。自治体に新しい事業の提案をするための資料を作成したり、自治体の調査をしたり、公募の際の提案資料の作成、実証実験、組織内でのビジョン作成、アワードの企画などを行っています。アワードの企画では、人材の育成、や社員のモチベーションを上げる、各拠点・チームで行っていることの周知、ほめる褒められるという場を作る、ノウハウの共有、個人個人の自信をつけるといったことを目的として企画しています。

公共施設の立ち上げ・運営に関しては、岡山県や和歌山県で働いていたときは、現場に住み、実際にサービスや建設、内装などに直接かかわっていました。現在は、プロジェクトの前の段階である、自治体の公募に対して提案する内容の作成にかかわっています。

━ 実際に社会に出てお仕事をされて、学生時代のイメージと何かギャップはありましたか。

私はマーケティングをやりたくて入社したのですが、実際そのようなマーケティングコンサルを行うのは、違う事業部でした。現在私が所属している部署では、マーケティングの理論というよりも、実際に現場の経験などを大切にし、現実的な案を練る必要があるなと思いました。教科書に載っていることだけでなく、それを現場で実際に使う方法を知る必要があるなと感じました。

━ 現在のお仕事のやりがいを教えてください。

図書館の立ち上げに直接かかわっていたときは、市民の人の顔やイベントにかかわった人の顔がやりがいでした。そのような人たちの顔を見ると、今回このイベントを企画して本当に良かったなと思ったり、図書館を開館させて良かったなと思うことがたくさんありました。

現在は、5年後の事業などの企画をしていたり、実際に実現するかがわからない案件などを手掛けており、やりがいが分からなくなることもあります。しかし、社会での悲しいニュースなどを見て、私たちがこの問題に対する解決策を打ち出せているかもしれないと思うと希望を持って頑張ろうと思えます。

━ 部署の異動をしたいと思うことはありますか。

今はまったくないですね。私たちは今、5年後のプロジェクトの企画をしていたりして、それの最後までやり遂げたいと思うからです。また、まちづくりは特に効果が出るのはさらに数年後ということがほとんどなので、それを最後まで見届けたいと思っています。

━ 企画を行う際のアイデアはどのようにして出していますか。

市民の人が喜ぶか、社会の人に貢献できるかというようなことを考えて企画しています。公共施設のサービスを考える際には、公共サービスなので一般的なサービスを受けられることも大事だと思います。それに加えて、高齢化が進んでいる地域や、若者が多く住んでいる地域など地域の特徴に合わせて座席の配置や、サービスの方法などは考えています。それぞれの地域に合った異なるコンセプトで企画しています。

取材の様子

━ 私がイメージしていた企画職というのは、食品や日用品、雑貨などいわゆる「モノ」のデザインを行う職業という印象が強いものでした。今回話をお聞きして、山本さんがついておられる企画職は、図書館自体をデザインし、それを商品とするわけではなく、図書館をデザインしサービスを提供する。そして、まちづくりにも貢献するという、私の持っていたイメージとは全く違うものでとても勉強になりました。

私たちが、企画している公共施設は、いわゆる手段みたいなものですね。公共施設を通じて市民の生活をより豊かにする、公共施設を通じてその地域にサービスを届けて地域をよりよくするという感じです。

━ 山本さんの今後の目標はありますか。

私が大学時代からずっとやりたいと思っていることは変わっていなくて、地域や貧富の格差は関係なく知ることは面白いと感じる人を増やすということをやりたいと思っています。私は大学に行くことができましたが、もし行くことができなければ卒論を書いた時の喜びを感じることはできなかったのだと思うと悲しいと思います。また、地方に大学や図書館がなくなり、都会に行かなければ知識を学ぶ機会がないという状況になるのが悲しいと思っており、そのような状況をなくしたいと思っています。私は、どこの地域でもどんな属性の人でも、何かを体験して面白いと思うことは、生きることが楽しいと思うことと同じだと思っています。そういう風に思える人や、生活に忙殺されている人たちの中で、今日は楽しかったなと思うことができる人が一人でも増えたらいいなと思います。そこで、わたしは、いつか大人と子供がシームレスに遊んで学べる場所が作れたらなと思います。

━ 学生に向けてアドバイスをお願いします。

私は社会に出て、答えがないなと思うことが多くありました。上司も答えを持っていなくて私自身も上司の考えは答えじゃないなと思うことがあって、そのようなことをいかに自身で考えることができるかが大事だと思っています。しかし、社会に出て会社に入ると、ゆっくり考える時間がなかったり、最終的にスピードを持って判断をしなければいけない場面が多くあるので、問題に対してじっくり考えるというのは学生時代に思う存分やっておいてほしいなと思います。また、現在は社会に出て役に立つ学びとか言われますが、そういうことは社会に出てからでも学ぶことができるし、社会は変わっていきます。なので、そのようなノウハウ的な学びだけでなく、自分らしい学び、自分にしかできない考え方・感性を育てるというような学びをしてほしいなと思います。

取材の感想

取材の感想

もともと商品企画に興味があり、新しい商品をデザインして生み出す仕事というイメージを持っていました。しかし、今回お話を伺って、企画を行うだけでなくそれによって地域創生につなげることができることを知りました。

山本さんのお話を聞いて、自身のやりたいことや理想に対して、まっすぐに取り組む姿勢がとても印象に残りました。取材前は、自身のやりたい仕事を探すべきか、向いている仕事を探すべきか悩んでいました。しかし、山本さんの「やりたいことは誰にも変えられない」という言葉を聞き、自身のやりたい仕事を探していこうと思いました。また、山本さんのキャリアのなかで、「偶然」が大きな転機の一つになっていると感じました。私も、様々な「偶然」に出会う機会を増やすためにも積極的に今後の学生生活を過ごしたいと思います。

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