2019.12.24選択肢は無数にある

仙田 勇人さん

大阪税関 関西空港税関支署
旅具通関部門 監視官

卒業学科
和歌山大学教育学部国際文化課程51期卒業
企業サイト
https://www.customs.go.jp/osaka/ 外部リンク
取材者

取材者

原梶 壽己

和歌山大学経済学部経済学科71期

━ 和歌山大学に入学されたきっかけは何ですか。

きっかけは、自分の学力にあったところで家から通学できる大学を選びました。幸い、小中高と良い学校の先生に出会えたので、私も漠然と教職に興味を持っていました。しかし、まだ漠然とした目標であったため、教職以外の道にも進むことができるゼロ免課程の教育学部国際文化課程を選びました。当時、ゼロ免課程といって教職免許を取らなくても卒業できる課程がありました。

━ 学生時代はどのようなことに取り組んでいましたか。

教育学部ということもあり、子どもと関わりが持てるYMCA野外ボランティアリーダーの活動をしていました。具体的には、月に1回、地元の小学生たちと飯盒炊爨や登山、公園に遊びに行くなどの野外活動に取り組む活動です。長期休みには、夏キャンプや冬スキーキャンプにも行きました。YMCA正規職員の方たちが企画の大枠を作るのですが、我々野外ボランティアリーダーたちがミーティングを重ね、下見として事前に現場に行くことによって、どこでどのようなことができるのかという具体案を決めていました。その中で、時には他の野外ボランティアリーダーと意見がぶつかることもありましたが、この活動を通して自分自身で物事を考え企画する力が養われたと思います。

また、3年生の時に在台湾の日本人学校に通う生徒たちを対象とした夏キャンプや水泳教室を開催するなど、YMCAが主催する海外派遣プロジェクトに参加し、台湾で2ヶ月間生活をしたことも印象に残っています。異国の地で精一杯取り組んだ経験は今でも学生時代一番の思い出となっています。

━ 学生時代の勉強と今の職業について関係はありますか。

大学の講義と今の職業とでは直接的な関係は薄いと思います。しかし、YMCA野外ボランティアリーダーの活動を通して養われた「自分で行動してみよう。」というスタンスは今でも仕事や私生活面における大きな原動力となっています。

━ 学生時代に将来のことをどのように考えていましたか。

まず、教職に進むかどうかについて、とても悩みました。当時、「学級崩壊」や「モンスターペアレント」という言葉と共に、学校の先生が「勉強を教える。」という本来の仕事以外のところで多くの対応を迫られていた状況から、先生という職業がいかに重労働であるかを大学の講義で学びました。そして、このような講義を通して、次第に勉強を教えるということよりも、問題のある子をどのように更生させるかについて興味が湧きました。そこで、警察の生活安全課で働きたいと思うようになり、大学4年生の時に大阪府警察の警察官採用試験を受けました。しかし、当時、警察官の一次試験は一般教養の筆記試験だけだったこともあり、周りの学生と比べると就職ということに関して少し舐めていた部分もあったかと思います。結局、一次試験は合格したものの、二次試験の面接で採用に至らず就職浪人をすることになりました。

取材の様子

━ なぜ税関という職業を選んだのですか。

就職浪人中は公務員試験予備校に通っていました。そこで高校時代の同級生2人と再会し話をしている中で、税関や検察庁等の国家II種や国税専門官という国家公務員職があることを知り、一つの職種にこだわらなくてもいいという心境の変化が生まれました。また、税関は外国から密輸される麻薬類や輸入してはいけないものを取り締まるという点で、あながち警察官の仕事内容から遠くない職種だと感じ、目指すきっかけとなりました。このように、現在の仕事を選ぶに至るまで少し遠回りをすることとなりました。

━ 公務員試験にどれくらい費やしましたか。

4年生の時は警察官採用試験の対策をしていたので、国家II種や国税専門官の試験対策は大学卒業後となり1年半を要しました。今の職種である国家II種として大阪税関に採用されるまでには、筆記試験の他に官庁訪問と複数回の面接がありました。官庁訪問としては、大阪税関、神戸税関、大阪検察庁、経済産業局及び財務局を訪問しました。私は、国の治安維持に関係する官庁と公務員試験の勉強中に興味を持った税金を扱う官庁を主に訪問しました。大阪税関の官庁訪問は、10名程度のグループで質疑応答を行う内容でした。その後、次のステップとなる面接試験の電話を待つも一向に連絡がなかったので、自分から大阪税関の人事課に電話をしてみました。すると、意気込みを買われたのか、意外にもすんなり「では、面接に来てください。」との返答を受け、次の面接試験に進むことができた裏話があります。必ずしもこのような意気込みが良い結果を生むとは限りませんが、時には強い気持ちを持って自分からアプローチしていくことも良いのではないかと思います。

━ 税関ではどのような仕事をしているのですか。

税関は「税」と「関」という2つの漢字で構成されており、「税」金に関する仕事と日本に輸出入される貨物(商品としての貨物や旅客・乗組員が手荷物として輸出入する携帯品等がある。)の中に麻薬類等の輸出入してはいけないものが含まれていないかを水際で監視取締する「関」所としての仕事に大きく分けることができます。税金に関する仕事は、主に日本に輸入される貨物の種類、数量、価格等を基に課される関税等を徴税する仕事になります。関税は、外国から安価な物品が輸入されることで国内の産業が廃れないよう税金面から国内産業を保護する役割(保護関税)と、日本の財政を確保する役割(財政関税)を担っています。日本の水際で輸出入される貨物を監視取締する仕事は、麻薬類、ブランド品の模造品(いわゆる「コピー商品」)、拳銃等の密輸を阻止し、日本の治安を維持する役割を担っています。

取材の様子

━ 仕事にやりがいを感じるのはいつですか。

やはり、輸出入してはいけないものを摘発できた瞬間が最もやりがいの感じる時です。

また、税金に関する仕事では、輸入された貨物に課される税金が適正に修正できた時です。仕事の内容を少し紹介すると、輸入する人・企業等である輸入者が貨物を輸入する際、貨物の情報(貨物の種類、数量、価格のほか、輸入する際に支払う関税等税金の金額等)を税関に申告します。我々税関はその申告内容を審査し、審査終了後に輸入者が税金を国に納付した段階で輸入が完了します。ところが、税関に申告された貨物の情報を審査する際に不審点があると、輸入者に質問をして本当に正しい申告であるかを確認していきます。このような確認を通して、最終的に税金が適正に修正された時はやりがいを感じます。

その他には、賞与の増額等、自身の努力が評価された時はやりがいを感じます。公務員でも賞与の支給額や昇給は一律ではなく、成果により評価される制度となっています。

━ 実際に拳銃や麻薬等は見つかることがあるのですか。

私が現在配属されている関西国際空港では、1日に約3万人が入国してくるのですが、中には日本に持ち込めない物を隠し持って密輸を企てる人も紛れ込んでいます。その人数は、1日で何人もいるということはありませんが、1月でみると相応の人数となります。

━ 薬物をみつける時、どういうところに気を付けていますか。

貨物の輸出入形態(商業貨物や郵便物、旅客・乗組員の手荷物等)にもよるのですが、実際に摘発された事例を紹介すると、土産品のチョコレートやハンガー、石鹸の中に隠匿して密輸を企てたケースがあります。このように様々なものに隠して密輸されるため、過去の摘発事例をなるべくたくさん頭の中に入れて検査に臨むようにしています。また、1つの空港で麻薬類等の輸出入してはいけないものが摘発されると全国の税関に情報が共有されるため、関西国際空港以外の摘発事例にも気を付けて確認するようにしています。

━ 今までどのような部署を経験されたのですか。

税関は配属後2~3年置きに人事異動がある場合が多いので、私も現在まで様々な職場を経験してきました。例えば、大阪港に入出港する船舶に乗船している旅客・乗組員に対して監視取締をする部署、X線や不正薬物探知装置(TDS)等、税関検査で使用する取締検査機器の配備を調整する部署、大阪港に輸出入される貨物に対して大型X線検査装置等を活用した検査を行う部署、関西国際空港で通関が行われる郵便物や航空貨物に対して関税等の徴税に関する手続(例えば、税金の賦課や輸入者からの輸入申告に対して審査・許可を行うもの)や検査を行う部署、大阪税関の予算を取り扱う部署、税関職員の超過勤務手当・旅費等の手続を含めた総務全般を管理する部署を経験しました。そして、現在は関西国際空港から入出港する旅客・乗組員が携帯して輸出入する手荷物の通関・検査を行う部署で働いています。

━ 政府の政策が業務に与える影響は大きいですか。

影響は大きいです。例えば、今年2月に日EU経済連携協定(EPA)が発効されました。経済連携協定は、協定を結んだ締約国からの輸入貨物に課される関税を免除(免税)又は軽減(減税)するなど、締約国間の貿易を円滑にすることを目的の1つとしています。旅具通関部門では、EU圏内からワインやブランド品を携帯品として日本に持ち込む旅客・乗組員の方が多いのですが、これらの関税が免税・減税されるので、経済連携協定を締約していない国・地域から持ち込む場合と比べて税金の面で優遇されます。このように、海外と関係する政策は直に業務を通じて感じることができます。

━ 細心の注意を払う業務はありますか。

現在の仕事では、輸出入してはいけないものを日本に持ち込ませないことに気を付けています。先ほどの質問10. でお答えした点以外には、例えば、手荷物を検査する際、質問に対する相手方の反応を注意深く観察すること等があります。また、手荷物の中を確認したいと思った時には、手荷物をスムーズに開けてもらうため、状況によりどのような声掛けをしたらいいかなどがあります。この部分は、接遇面が大きい要素となります。横柄な態度で接すると、検査の実施が難しくなるだけでなく、日本の印象も悪くなるので注意しています。

取材の様子

━ 勤務時間は不規則ですか。

当直勤務が多いので不規則です。当直勤務とは午前9時から午後5時までの間を勤務時間とする日勤勤務ではなく、例えば、当直勤務日の午前9時から翌朝の午前9時まで24時間働いて、仕事が終わった日(非番)とその翌日は基本的に休みという勤務体系のことを言います。時には、当直、非番の後、さらに当直、非番が続く時もありますが、一定期間のサイクルが繰り返される勤務体系のため予定は立てやすいものと考えています。

このような当直勤務に従事している職員は、関西国際空港の旅具通関部門だけでも第一ターミナルと第二ターミナルで勤務する260名程度がおり、24時間365日途切れることなく交代で働いています。また、航空貨物に関する輸出入申告を審査・検査する特別通関部門でも80名程度が交代で当直勤務をして働いています。

このように、大阪税関で働く職員のおよそ4人に1人が当直勤務をして働いています。

━ 休暇はいかがですか。

休暇は、各職員が仕事と私生活を両立させながら計画的に取得していると思います。職場全体としてこのようなワークライフバランスが奨励されており、育児休暇や出産休暇等も取得しやすい環境にあります。幼児のお子さんが保育園に入園してから、徐々に職場復帰される女性の方も多くおられます。また、男性の育児休暇取得も奨励されており、休暇制度は積極的に活用していこうとする風潮は全体にあると思います。

━ この職業に就く前と就いた後のギャップはありますか。

まず、税関には様々な業務があることです。例えば、先ほどの質問11.で紹介した仕事以外にも、ブランド品等のコピー商品を権利者(商標権者、特許権者等)・輸出入者等の意見を聞きながら輸出入差止認定の手続を行う仕事や、経済連携協定等の恩恵を享受することが適当な貨物であるかを原産地の面から確認、管理する仕事等、他にも紹介しきれないたくさんの仕事があります。

また、活躍する女性職員が多いことも入社してから実感しました。例えば、旅具通関部門でも女性旅客の身辺を検査する際、男性職員だけでは検査ができないので女性職員の存在は大きいです。

さらに、先ほどの質問15.で紹介した育児休暇や育児短時間勤務等の休暇制度が利用しやすい点も良い意味でのギャップでした。

━ 求める人材はいかがですか。

プラス思考で物事を考えることができる人材です。例えば、自身の不手際で旅客や輸出入者等の方からお叱りを受けることがあります。また、もともと不機嫌な方もいらっしゃるので、こちらが適切な対応をしていても怒りをぶつけられる場合もあります。このような時にいつまでもクヨクヨと悩んでいても上手くいきません。反省するところは反省が必要ですが、次はやってやるぞという強い心持ちが大事になってきます。そのため、ただ悩んでいるだけの時間は勿体ないので、次に進もうと気持ちを切り替えられる人が良い人材の1つの要素ではないかと私は思います。

━ 英語以外の言語はやっておくべきですか。

勉強しておくことに越したことはありません。しかし、入社するまでに必ず勉強しておく必要はないと思います。私は韓国語を勉強していますが、始めたのは税関に入社してからです。税関は語学研修が充実しており、取得資格により段階的な研修を受けることができます。例えば、初級のうちは大阪地区で研修を受け、上級になると千葉県にある税関研修所で全国から集まった有資格者と共に何ヶ月もの間、泊まり込みで研修を受けることもあります。このように、語学能力も評価してもらえる職場だと思います。

━ 英語以外にお勧めの言語はありますか。

英語圏以外になると、近隣のアジア諸国から来日する旅客が多いため、使用する機会が多い中国語と韓国語がお勧めです。

取材の様子

━ 学生時代から続けていることはありますか。

歩くことです。私が和歌山大学に通っている当時、現在の最寄り駅となる南海本線和歌山大学前駅がなく、同線紀ノ川駅から毎日片道30分程度歩いて大学に通っていました。他にもYMCA 野外ボランティアリーダーの活動で歩く機会が多かったので、学生時代から歩くことは苦になりませんでした。しかし、今の配属先では長時間立ったままの姿勢が多いので大変です。

━ 学生に薦める書籍はありますか。

岸見一郎さんと古賀史健さんの「嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え」です。この本では、人の悩みは対人関係が大半の原因であり、自分がコントロールできない自分以外の他人のことについて悩むことは時間の無駄であると位置付けています。そして、自分が直面している問題からこのような他人が関わっている問題を取り除き、自分自身の問題を解決することのみに力を注ぐことを推奨しています。

大学生のみなさんは、就職活動や新入社員としてこれから社会で活躍する中で、様々な悩みに直面することがあるかと思います。そのような時は、どうしても他人の目や心象を気にしがちですが、この本を読んで考えを変えてみてはいかがでしょうか。自分の解決できない範疇の悩みに苦しむことをやめて、自分自身で解決できる課題について整理をして集中的に取り組めば、案外、悩みはシンプルに解決できると思わせてくれる本になっています。

━ 今の大学生に向けてアドバイスをお願いします。

私は税関職員になるまでに紆余曲折のうえ、2年間の就職浪人を経験しています。その過程で学んだことは、就職に対して「絶対にこれ以外は納得しない。内定を取らなくてはいけない。」と必死になって一人で考えるよりも、自分とは異なる立場や考えを持った人、自分と同じ立場の人の意見を聞きながらリラックスして考えると、「自分の興味」について、また新たな発見ができるかもしれないということです。少しでも自身が興味を持つことがあればプラス思考をもって前向きに考え、行動し、自身の明るい未来をつかみとってください。

取材の感想

取材の感想

初めてのインタビューでとても緊張しました。しかし、自分が将来なりたいと思っている税関職員の方にインタビューできて本当に良かったと思います。今回のインタビューで私が知らない税関の仕事内容や仕事に対する姿勢を知ることができました。様々な国からやって来る人と関わるお仕事なので言語はもちろんのこと、日本が恥をかかないように日本を代表する気持ちで仕事をするという姿勢に驚きました。

仙田さんが仰っていた「選択肢は無数にある」という言葉は今の自分に特に響きました。税関という職業に固執するのではなく、勉強や課外活動に積極的に取り組むことで得られる経験を活かして広い視野で進路を考えることができたらいいなと思いました。これは学生時代にしかできないことなので1年生のこの時期に気づくことができてよかったです。

お忙しい中、貴重なお時間をありがとうございました。

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