2019.7.16小さな積み重ね

岩元翔さん

株式会社ソビア/ソビア社会保険労務士事務所
代表取締役

卒業学科
和歌山大学経済学部経済学科54期卒業
企業サイト
http://sovia.jp/ 外部リンク
取材者

取材者

岡﨑 勇介

和歌山大学経済学部経済学科71期

━ 和歌山大学に入学されたきっかけは何ですか。

和歌山大学は国立でイメージが良かったので、受験することに決めました。和歌山大学の入学試験の選択科目が自分の成績に対して有利だったというのも理由の一つですね。確か当時は、センター試験で点数の良かった教科を三つ選ぶことができるというシステムだったと思います。それに二次試験では、好きな教科で自信のある数学がありました。正直なところ、センター試験に失敗したというのもあるのですが(笑)。

━ 大学時代に熱心に取り組んだことは何ですか。

居酒屋のアルバイトと就活、就活支援団体の活動、あとは学業ですね。アルバイトも就活も大変でしたが楽しかったです。就活では、特に自己分析と面接が楽しかったです。面接って当然制約はありますが、ある程度公平に勝負する機会が与えられますよね。これは僕の今までの経験の中ですごく新鮮に感じました。就職活動では、当然学歴や実績などは見られると思いますが、面接になれば自由に自分を演出できる、それがすごく楽しかったことをよく覚えています。あと個人的に良かった点としては、大阪で就活する和歌山在住の学生にしか経験できないことがあります。それは、面接を終えてからの電車の時間です。難波から和歌山までの50分間は、どこが良くてどこが悪かったのかと、自問自答の時間となりました。ただ、この時間が自分にとってはすごい良かったですね。徹底的に自分を内観し答えを見つけ出す、この時間がその後の社会人人生に大きく影響しました。また、内定後に活動した就活支援団体の活動にも活かされました。

取材の様子

━ 先ほど就活が楽しかったとお伺いしましたが、逆に就活で大変だったことはありますか。

上手くいかなかったときの切り替えが大変でした。面接で不採用になると、人格否定された気になるんですよね。「お前は必要のない人間だ」と。途中それに疲れてしまって、1か月ほどひきこもる時期もありました。完全に逃避しました。幸い就活を始めるのが早かったので、就活が本格化する時期にはまた動き出すことができました。ひきこもった時期と被らなくて良かったと思います(笑)。

━ 就職進路はどのように考えていましたか。

人材業界に進もうと考えていました。友達に精神的な症状で悩んでいる人がいたんですね。いわゆる鬱や精神疾患と呼ばれるものです。僕は比較的に人と話したり、相談に乗ったりするのが好きだったのですが、全く知識がなかったので、何のアドバイスもできなくて悔しい思いをしました。仕事を選ぶことができるなら、そういうことを支援できる仕事がいいなと思いました。人のキャリアの相談や支援ができるようになれば、人の悩みを解消できる人間に成長できるかもしれない。そのような経緯で人材業界に進もうと決心しました。

━ 就活支援団体の活動について詳しくお聞かせください。

和歌山大学生の進路が決定した先輩が、後輩に就活の経験をシェアするといったものでした。団体への参加のきっかけは、私と同じ人材広告の仕事に内定が決まっていた同期に誘われたことでした。面接練習をしたり、OBを呼んで話をしていただいたり、社会人と接点を持つサークル活動のようなものでしたね。

━ その活動の中で得られたものは何ですか。

直接関係ないかもしれませんが、友達が多くできたことですね。内定が決まってからの活動だったので、これから社会に出るということについて、自分たちの夢、やりたいことや価値観を語り合うことができました。卒業して10年以上経ちますが、今でも良い関係が続いています。

━ 就職してからはどうでしたか。思っていたような仕事はできましたか。

広い意味での人材支援ということでは期待通りでしたが、もともと就活のときにイメージしていたのは、働く個人に対しての支援でした。配属された仕事のメインは法人向けサービスだったのでミスマッチではあったかもしれません。しかし、広い意味では支援でしたし、なにより何もできない社会人1年生だったので、与えられた仕事を精いっぱい頑張ろうと思いました。

━ 社会人になるときに、不安はありましたか。

不安はそれなりにはありましたが、期待感の方が強かったですね。学校生活はみんなで遊んでおもしろいとか、学生ならではの体験をするという喜びはありましたが、社会に向けて自分で何かをやり遂げたり、目標に向かって必死になったりなど、そういった経験はありませんでした。社会人になればそのようなやりがいや達成感が味わえるのではないか、という期待感が強かったですね。不安は「遅刻せずに行けるかな」とか(笑)。あとは営業だったので「結果出せるのかな」とかですね。

━ 働いてから、期待していた達成感は得られましたか。

期待していた達成感は得られました。お客様にご評価いただき、直接その喜びを伝えてもらえるときは、やっぱりすごくうれしかったですね。社会人1年目なのですべて楽しいことばかりではなかったですが、与えられた条件や制約の中で、どうすれば成果を出せるかと考え、取り組みました。その試行錯誤は、今の仕事観の中で大きな支えとなっています。当時は愚痴ばっかり言ってましたけれど(笑)

━ 学生から社会人になって一番変わったことは何ですか。

責任を負ったということですね。学生って責任が少ないですよね。責任というとネガティブなイメージがあるかもしれないですが、僕の中では自由とイコールだと考えています。責任を果たせるから、コミュニティに自由が認められるというイメージです。全く責任がないって、期待されていないということに近くてとても寂しいですよね。ですので、学生より社会人の方が僕は楽しいと感じました。

━ 働き始めて必要だと思ったスキルは何ですか?

当時の僕が思ったことは、パソコンスキルの低さでした。提案書を作るとか、見積もりを作るとか、PCを使った作業は当然ありましたが、会社で教えてもらうことでもないですし、我流で必死に勉強した記憶があります。10~20年後はわかりませんが、しばらくはまだまだ必要だと思います。Word、Excelはできないよりはできた方がやっぱりいいですね。あとは、選ぶ仕事にもよりますが、ヒアリングスキルも大切だなと思いました。先輩やお客様が伝えたいことは何か、期待していることは何か、というのを理解して受け止める力が必要でした。接客をしていても、営業をしていても、先生に質問するときでも、様々な場面でヒアリングスキルは必要になる力ですね。

取材の様子

━ 起業のきっかけはありますか。

お世話になっていた会社で社長や従業員に対して信頼を損なうことをしてしまい、退職することになった出来事が大きなきっかけでした。先ほどお話ししたとおり、自分の仕事観として、人の支援や人に喜んでもらえるようなことがしたいと考え、採用してもらったのに、期待に応えるどころか裏切ってしまい、当時、相当落ち込みました。今後どうすればいいのか、自分は何をしたいのかということを悩み続け、とりあえず、個人で仕事を始めてみたんです。一人だと人に迷惑は掛からないので。そこからさまざまなご縁に恵まれ起業に至りました。

━ 起業はとても勇気のいることだと思います。それでも起業に踏み切れた理由は何ですか。

本音を言えば、起業をすること自体前職の会社の方々に申し訳ない気持ちがありました。調子にのりやがって、反省してないな、みたいに思われていたらどうしようという感じで。ただ、自分がしてしまった失敗をどうやって取り返せるのかを考え続け、より厳しい環境でダメな自分を変えて、もし一人でも喜んでもらえる人を増やすができれば、少しの恩返しはできるのではないかと思いました。もちろん自分が何かをしたところで、前職の方々が喜ぶわけではないのは理解していましたが、過去について何もできないのであれば、自分なりの行動をするしかないなと。もし僕が今後、世の中にとって良いことができれば、失敗を意味のあるものに変えられるかもしれない。そうやって、これからの人生に活路を見出そうと思ったことが起業を決めた理由です。

━ ソビア社会保険労務士事務所という会社の名前にもある、社会保険労務士とはどういった仕事ですか。

ざっくりいえば、企業が労働関連法との付き合い方をアドバイスする仕事です。労働関連法はすごくたくさんあるので、経営者の方々がすべて暗記しているわけではありません。そこをサポートしていきます。

━ 社会保険労務士事務所での仕事を始めたきっかけはありますか。

個人でやっていたときに、支えてくれていた人が社労士の先生でした。すごくお世話になっていたので、その人の仕事のサポートをし、何かお返しできればと思ったことがきっかけです。もともと人事と労務は親和性が高いので、提供できるノウハウもありました。今ではその人と共同経営という形で会社を営んでいます。

━ 新しく取り組んでいるホワイト企業認定とはどういった取り組みなのでしょうか。

素晴らしい会社経営をされている企業を認定し、世の中にPRするという取り組みです。私たちはホワイト企業を「次世代に残したい企業」と定義していまして、その構成要素を指標化しています。ホワイト企業といえば、ブラック企業の反対と思われがちですが、そういう定義ではありません。“人口動態に左右されづらい適正な利益構造を持っていること”、“顧客満足度・競業優位性が高い企業であること”、“多様な労働者が活躍できる環境・満足度が保全されていること”これら3つの要素を兼ね備えている企業をホワイト企業として定義しています。

━ ソビアさんはどこから収益を得るのでしょうか。

ホワイト企業認定について、現段階ではあまり収益を重要視していません。かかる費用は、初年度無料で更新料の15万円です。もちろんビジネスなのでお金儲けはしたいですが、この普及が広がることは世の中にとって非常に価値の高いことだと考えているので、何よりも普及、次に収益化です。なので今はまったく儲かっていません(笑)。幸いなことにその考え方をご評価いただき、現在すごい勢いで広がっていっています。パナソニックさんやアメックスさんのような超大手企業にも応援していただけることが決まったことは本当に嬉しかったです。

━ 起業してよかったところは何ですか。

言い訳しなくてよくなったことですかね。言い訳ってしてしまいがちです。親や学校のせいにしてみたり。起業してからは、当然全てが自分の責任なので、すごく考えがシンプルになりました。どのビジネスを選ぶのかも自分の選択ですし、攻めるも守るも全て自分次第。周りのせいにしなくていいって実は結構楽なんです。

取材の様子

━ 働く中で、難しさは何ですか。

わかりやすいゴールがないことですかね。仕事をしないという選択をしない限り、仕事は短期間で終わるものではないです。営業で数字を達成しても、来月にはまた次の目標が待っています。出世して役職がついても、新しい役割と、次の目標が待っています。頑張った仕事がうまくいっても、即座に次の課題がやってきます。ゲームクリア!みたいにわかりやすいゴールがあればいいですけどね。だから、ゴールがないからこそ、「今している仕事が自分にとって価値のあるものだと思えるかどうか」という基準を僕は大切にしています。

━ 働く中で、モチベーションは何ですか。

やっぱり、一緒に働いている人ですかね。関わる人が喜んでくれたり、大きなことができたりすると嬉しいですね。逆に言うと、一人で出し抜くとかはモチベーションが湧かないです。支えてくれている人たちと一緒に大きなことをやりたいという気持ちが僕の中では大きいです。

━ 学生時代と現在のご自身を比べて、どのように変化しましたか。

何かをしたいという気持ちは今でも変わらないですね。一度きりの人生なんで、人がいい意味で驚いてもらえるようなことをしたいという気持ちはずっと持っています。変わったのは、当時よりは自信がついたことですね。学生時代、社会人になった最初の頃はとにかく自信がありませんでした。何もしてないのに、何についての自信なんだって話ですけどね(笑)。今はまだまだ小さな会社ですが、喜んでいただけるお客様に恵まれたり、従業員がうちの会社を選んでくれたりと昔よりは社会に貢献できているのかなと思います。それが好循環につながっています。根拠のない自信ってよく言いますけど、すごく大切ですよね。その方が人は応援してくれます。当時の僕は全く持てなかったですが(笑)。

━ どうやって自信を持つことができたのでしょうか。

お客様に少しずつ喜んでいただけるようになったからですね。作った会社には何の実績もないので当然最初は信用されませんし仕事もありません。「この仕事できますか?」と聞かれて、「僕に任せてもらえばうまくいきます」とやったこともないのに提案し、そうやって仕事は頂いていました。そのまま本当にできなかったら詐欺になるので、必死に勉強して、考えて、色々な人に相談して、知恵を絞って何とかお客様の期待を超えるものにしました。そうするとすごくご満足いただけるんですよね。「そこまでやってくれると思ってなかった!」みたいな感じで。そういう経験を繰り返しているうちに「あんまりできないことってないんじゃないか」と思うようになりました。お客様の期待に意地でも応えてひとつひとつ信頼を積み上げる。その経験の積み重ねが今の自分の自信になっています。

━ 起業のときに一番重視したことは何ですか。

起業の目的ですね。社会に対して何か良いことをしたいと思っていたので、色々な選択を迫られたときでも、そこは今でも信念として持ち続けています。「人材活用の新しいスタンダートを作る」というのが会社のビジョンなんですが、世の中にとって本当に価値のあるスタンダードを今後創っていきたいですね。

━ 起業のために大事なことは何ですか。

起業の目的と、そしてすると決めたからには、自分を信じてとことんやりきるという覚悟ですかね。失敗は別にしてもいいと思うんですが、そのときに「やりきったな」と思えるぐらいの熱量があったかということが重要だと思います。やっぱりうまくいくことばかりではなくて、嫌なことも落ち込むこともたくさんあります。そうした時に、「そもそも何のために起業したのか」という自分の意思を振り返り、改めてもっと頑張ろうと思うことができています。

━ 学生時代にやっておくべきことは?

時間のかかるものは全てですね。取りたい資格があるならば取っておいた方が良いと思います。僕は社労士の資格を一度受けたんですけど落ちてしまって、二年目からはとても忙しくなってなかなか勉強できなくなりました。結果、今も取れていません(笑)。資格を取りたいなら、社労士とか、難しい国家資格は勉強量が必要なので学生のうちから勉強しておいた方が良かったなと思います。ただ資格によっては、大学卒業が受験資格だったりするのでそこは注意してくださいね。あとは旅行ですかね。ヨーロッパ旅行とか長期休暇が必要になる旅行は、社会人になったらそんなにいけなくなりますので。個人的に是非やってほしいのが、帰る日を決めない旅ですね。

━ どうして旅をすべきだとお考えですか?

僕自身経験して、楽しかったからです。僕のときは転職のタイミングでしたけど、1か月ほど暇だったんでやったら楽しかったですね。ふらっと一人で出ました。時間のある学生のうちにできればすごく良いと思いますね!

━ 学生へのアドバイスをお願いします。

あんまり形にこだわらずやりたいことはやったら良いと思います。今は新卒採用が絶対である時代ではないし、終身雇用も崩壊するといわれています。新卒の方が大手企業から内定を得やすいことは間違いないんですけれど、それで選択肢を狭める必要はないです。学生の頃を思い出すと、何であんなにガチガチに考えていたんだろうと思うことがよくあります。あとは失敗を恐れるということも意味のないことだと思います。大きな失敗をしても、人生に色々な選択肢と可能性があることは、これから僕が証明できるように頑張っていきます。

取材の様子

━ 最後に、AIの進化、東京オリンピック、外国人労働者の受け入れなど、日本は今、時代の分岐点にあると考えています。岩元さんは、これからの時代を見据えてどうお考えですか?

僕たちが働く上で大切にしなければいけないのは付加価値(他にはない独自の価値)だと考えています。独自の価値がないものはどんどん機械にとって代わられていきます。「人間がやっているからこその価値がある仕事」をする必要があると考えています。学生の立場で考えれば、今から自分の武器、得意なものを身に付けてほしいということですね。成績とか実績でもいいし、そうでなくても考え方とか行動とか。「自分だけの武器なんてない」という人は、どんな小さなことでも自分にとって大切だと思うことを見つけて、どれだけこだわってできるかが大事だと考えています。きっとそういったこだわりの積み重ねが、自分だけの武器や自信を創っていくんだと思っています。

取材の感想

取材の感想

初めてのインタビューだったので、多少の緊張やぎこちなさはありましたが、自分が興味のあった‘‘起業‘‘についてしっかり質問し、掘り下げることができたので良かったです。今回のインタビューを通じて、起業にも色々な形があるのだと知り、今まで自分には無縁だと考えてたものが、実は自分次第だということに気づくことができました。将来への不安はありますが、肩の力を抜いて、“小さな積み重ね”を意識して学生生活を過ごしていこうと思います。とても貴重な経験ができました。お忙しい中、お時間を割いていただきありがとうございました。

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