2019.7.16とにかく夢を持つこと

北口正人さん

株式会社阪神コンテンツリンク
代表取締役社長

卒業学科
和歌山大学経済学部経営学科32期卒業
企業サイト
https://hcl-c.com/ 外部リンク
取材者

取材者

河田 岳士

和歌山大学経済学部経済学科70期

━ 和歌山大学経済学部に入学したきっかけは何ですか?

あまり勉強してなかったんですよね(笑)。浪人は許されなかったので、自分のレベルで考えたときに、大学の歴史や経済学部の強さに魅力を感じ、和歌山大学に入学しました。経営の勉強をしたかった、というのもあります。

━ 学生時代に取り組まれていたことを教えてください。

軽音楽部に入っていました。旧高松キャンパスの松下会館に部室があって、高校のときから、ドラムをやっていました。在学2年生まではジャズドラマーになりたいと思っていました。

━ 当時、将来の目標はどのように考えておられましたか?

就職は海外に行く仕事がしたかったです。商社に内定を貰っていたのですが、親の反対もあって地元から離れなくていい電鉄会社に入社しました。今の時代と違って、就活のイメージが無く、3社くらいしか受けていません。いくつか受けたら通りました。

━ 自分のやりたかったこととのギャップはいかがですか?

後からも話をしますが、28から好きな仕事をしているから、自分のやりたかったことをやってきました。地元から通える鉄道会社に就職したけれども、ロスにも支店があって、現在は海外の仕事もしています。

━ 入社されてからはどのような部門でお仕事を経験されましたか

最初は、遊園地に配属されました。甲子園阪神パークのイベントの企画から、広報、営業、どのような施設をつくるかといった投資の仕事、遊園地全般の仕事をしました。それから本社に戻り、どのような街を作ればいいかということで神戸の土地取得のコンペのチームに入りました。当時の上司がニューヨークのジャズクラブを観てきて、「日本にも本物の音楽ライブを毎日聴くことができる環境を作りたい」、「街づくりの一環として提案したい」、という発言がありました。そのコンペでは採用されなかったのですが、その上司に影響されて、29のときに上司と共に株式会社阪神コンテンツリンクのベースになる会社を作りました。

━ 株式会社阪神コンテンツリンクという会社はどのような会社ですか?

この会社のベースは大阪ブルーノートを運営するために設立した(株)阪神ブルーノートです。ブルーノートはNYの有名ジャズクラブでその事業で得たノウハウを阪神電鉄が持っているコンテンツを使ってビジネスをする会社になりました。

━ それからどのようなキャリアを歩まれましたか?

ジャズクラブを大阪、名古屋、福岡で作りましたが、東京に進出したく、ビジネスモデルをチェンジしたかったのでブランドをブルーノートからビルボードに変えました。並行して、タイガースのコンテンスビジネス、球場や阪神グループの広告代理店、サイン制作の事業を展開しました。2012年に一度本社に戻り、阪急阪神ホールディングスグループ経営企画室事業政策部で2年、阪神電鉄新規事業推進室で4年間M&Aと新規事業を創る仕事を4年やってきました。そして、2016年にこの会社に社長として戻ってきました。

━ 阪急と阪神が経営統合されたときはどんなお気持ちでしたか?

事業が大きくなるので社員としては悪くはなかったのですが、当時の好きな経営者が多く辞めたのは残念でした。ただ事業が大きくなるのは良いことですし、阪急にも優れた人材がたくさんいます。

━ 阪急阪神ホールディングスで誇れることは何ですか?

ウイングが広いこと、優秀な人材が多いことです。
ウイングとは事業の幅のことで、ウイングが広いと色々なことに挑戦できます。

━ 今されているお仕事を具体的に教えてください

阪神コンテンツリンクの代表として、会社経営とビルボードジャパンの代表をしています。 社長の仕事は幾つかあります。一つ目は将来をきめて社員と目標を共有すること、二つ目はお客さんを創造する仕組みを作っていくこと、三つ目は何があっても計画した利益を出し続けることです。社員が働きやすい職場をつくり部下を育成することも大事ですね。しっかり現在の経営状況、どこの事業部でどのくらいの利益が出るかを理解し、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)という経営するための指標を幹部が理解できる仕組みを作る。会社によって違いますが、どのくらいの資金が必要かも大事ですね。例えばイベントでは、原価率、生産性がどうなっているかなど、現在の数字が分かる仕組みを作るということです。

取材の様子

━ 部下の育成やコミュニケーションはとられますか?

命令系統をしっかりと作らないといけません。直属の部下と話をすることがポイントです。社長は全社員に向けて話をしなければならないときがあります。社員、アルバイトを合わせて400名います。年に4回、今の会社の状況を伝え、年に1回どんちゃん騒ぎの新年会をします。日頃もタイミングが合うと部下とランチにも行きます。

━ 社長という立場で気をつけていることは何ですか?

自分に謙虚であることですね。おごりはNG。社員はいつも見ていますから。 大きい会社のトップになればなるほどみなさん謙虚ですね。

━ 今までやってきたお仕事の中で印象に残っていることは何ですか?

一貫して僕らがやってきたのは、アメリカにあるようなクオリティの高いライブを日本の音楽ファンに見せる環境を作り、いい音楽を紹介してきたことです。つまりは日本にビルボードを持ってきたこと、広めたこと、この会社を作ってきたことですね。

━ なぜ阪神コンテンツリンクはビルボードの独占権があるのですか?

もともとブルーノートというジャズクラブを大阪で運営していました。音楽事業を拡大するために、様々なブランドリサーチをして、ビルボードの方も日本で事業展開をしたいという意思がありました。ビルボードというブランドは、アメリカのアーティストからすれば非常にリスペクトされるブランドです。かつ日本でのマスターライセンス契約をとれるということになり、ライブの事業だけではなく、たくさんのビジネスモデルを取り入れることができるところに魅力を感じ、両社が合致しました。本当にたまたまの出会いなのですが、契約を得ることができました。

━ 今しているお仕事で自慢できることは何ですか?

オンリーワンのエンターテイメントをつくっていくことです。ビルボードもタイガースもうちしかできません。ブランドをしっかりつくって、ブランドにコンテンツ、企画を販売するビジネスモデル。オンリーワンのモノをどれだけもっていけるかで利益率が変わってきます。なぜならうちの会社からでしか買えないからです。

━ ブランドを守るために気をつけていることはありますか?

1人がコントロールしないと、ブランドはできません。ブランドをしっかり作れる人をそのポジションに添える、ブランドを作るための投資が必要です。例えば、どの色を使うか、ライブであればだれを連れてくるか、どのようにデザインするか、ということをコントロールできなければなりません。

取材の様子

━ 広告立案や企画は大変そうですがいかがですか?

どうやったらお金をもらえると思いますか?お客さんのニーズを知ることです。相手が欲しいことを整えて提案する。そんなに難しい話ではありません。相手の信用を得ることが大事。信頼できない人にお金は払いたくないでしょう。相手が欲しいものをきっちりと提案していけば、お金はいただけます。

━ 企業が求める人材を教えてください。

会社によって違うと思いますが、二つあります。一つ目は尖がって事業を作れる人材と二つ目は協力し合って働ける人材です。事業を拡大するにはその人材のバランスが必要だと思います。一般の働くということは、協業して一緒にしっかりルーチンをして利益を守ることです。一方、事業を作れる人間は生き方です。その生き方をしている人間が事業を作れます。逆にその生き方をしている人間でないと作れません。その生き方とはしっかりネットワークがあって、営業力、交渉力が身についた人間のことです。そのような人間が事業を作れる。このようなことを意識して生きている人間です。なかなかいないですよ(笑)。僕は、新規事業の責任者をしていたんですけど、うちのホールディングスでもなかなかいないですね。仲良く仕事をして利益を守っていける人間はいっぱいいます。でも新しい事業を作っていける人間は100人に1人くらいかな(笑)。また、人材採用の最終決定の仕事は社長の仕事です。採用する人の決め手は、私たちが一緒に働きたいと思っている人を選べばいいんですよ、そうすれば会社の風土は守れます。ただ事業を作っていかなければいけないポジションは尖がったやつを入れないといけない。そこは非常に難しくて、一緒に働けるかなと思う時もありますが、ある程度事業を作れる人材を優先します。

取材の様子

━ 今後、別の事業を作っていきたいと思っておられますか?

今、どんどん作っていますよ。例えばビルボードの拡大で、クラブ&レストランだけだったのですが、今はチャート事業や日本全国のクラシックホールを借りて、オーケストラと日本のビッグアーティストをコラボさせる仕事や、インバウンド向けのエンターテイメントを作っています。インバウンド向けのマーケティングは難しくて、中国人とアメリカ人が同じものを喜ぶかというとそうでもありません。きめ細かく対応していかないといけないですね。

━ 学生にすすめる書籍はありますか?

とにかく本はたくさん読むことですね。経営書は、アレン・B・ボストロムの「イン・ザ・ブラック~継続的な黒字会社をつくる9つの原則~」という本があり、僕の考えがたくさん書いてあります。河合雅司の「未来の年表」という本があります。今の学生さんの時代はものすごい勢いで世の中が変わっていくと思います。日本の人口が減少していくのは目に見えています。それを補っていくがAIじゃないですか。だからAIの本はもっと読むべきだと思います。AIは次の10年ですごく変わると思うので、見て聞いてどんな職に就くかを考えるべきだと思います。将来を生きていかないといけないので、それを推察できるような本をたくさん読むべきだと思うし、就職のときすごく大事にすべきだと思います。

でも経営者は残っていくと思います。遠い将来はわかりませんが(笑)、情緒的とか感情的な部分は残ってくると思います。僕は浅田次郎の「蒼穹の昴」(そうきゅうのすばる)という本が好きです。清朝末期の宦官の話で、皇太后と皇帝が清の末期に分裂しちゃうんですけど、宦官の仕事は皇太后に使えるために自分の急所を切ってしまうんです。それで仕えていきます。それで義理の弟か兄か忘れたけど、皇帝の方について争うのだけど、情緒的で考えさせられる本だと思います。

━ 最後に学生に対してエールやアドバイスをお願いします。

とにかく夢を持つことです。かつ実現するために、何が必要かを時間軸で考えることです。かつ毎日PDCAを回していくことです。例えば、年が明けたときに、今年はなにをするか考えるでしょ?それを年末になったときにちゃんとできたのか、今年できなかったことを来年こうしよう、そしてそれを実行していく。それを一か月一週間毎日に落とし込んで、これを繰り返し考えるのがPDCAを毎日回していくということです。しっかり夢をもって実現するためにいつまでに自分はなにをしないといけないかをしっかりと考えて、実現するために毎日PDCAを回していく。若いから何でもできるじゃないですか。まず夢を持つ。僕らのときにくらべて今の学生が夢を持っている率は高いと思います。今はそういうアイディアに対して、お金がつく時代だから。アクセラレーターという仕組みがあって、起業を支援する仕組みもあります。彼らを見ていたら自分が若いとき思いつかなかったようなアイディアもあります。僕らが若いころは大きい会社に入ってサラリーマンをする、そんな考えでしたからね。ただアメリカ、ヨーロッパ、アジアに比べたら率は低いですよね。新しいことをやっていこうと思ったときに、どうやったらいいかをできるだけ早く考えていったらいいと思います。僕は20代のときに会社の決裁をもらって、好きなことを好きな事業として作って生きていこうと思いました。だから好きなことをしてきましたし、ビルボードもそうです。逆にしんどいこともあるけれど、好きなことをさせてくれるのは嬉しいことです。

取材の感想

取材の感想

今回の取材ではとても良い刺激を頂きました。なぜなら取材前、鉄道会社関連の会社は保守的なのかなと勝手に思っていました。しかし、社長という立場におられる北口さん自ら、起業をしている人の話を聞き、様々なところに直接耳を傾け、若い世代のアイディアを取り入れようとバイタリティあふれる行動に驚きました。また社内でも次々と新しい事業を考え、創造し、実行していく力に圧倒されました。一方、今まで作り上げてきたビルボードや阪神タイガースのブランドを守っていく大変さも知りました。

北口さんから伺った、まず夢を持ち、PDCAをして自分の課題を見つけていくことは普段の大学生活から活用できると思いました。例えば、サークル、部活で克服したいこと、勉強の中にも自分の小さな課題はたくさんあります。そんな課題をリストアップして何をする必要があるかを知ることができれば、自分の中で整理がつき、課題解決に向けての道筋がつきます。そして社会に出て壁にぶつかったときも、これをする習慣があると乗り越えやすくなるのではと思いました。

大学生活でしたいことはまだまだ山ほどあるので、どんどんチャレンジをするとともに北口さんから教えていただいたPDCAをできるところからしていこうと思いました。

お忙しい中、貴重なお時間をありがとうございました。

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