2018.3.30好きなことはとことんやる

藤原 崇志さん

一般社団法人 共同通信社
記者

卒業学科
和歌山大学経済学部経済学科51期卒業
企業サイト
http://www.kyodonews.jp/ 外部リンク
取材者

取材者

湯淺 智周

和歌山大学経済学部経済学科69期

━ 新聞記者をされていますが、仕事に対するポリシーは何ですか。

好きなことは、とことんやることです。学生とは違い社会人は組織に所属し色々なハードルがあるため、すべて好きにやれるわけではありません。しかし、その中でも方法を見つけて好きな取材をやっていくということは心がけています。

━ 学生時代に力を入れていたことはありますか。

大学で出会った友達や経済学部教授の足立基浩先生、昨年退職された観光学部教授の山田良治先生など様々な人と交流し、ゼミの活動にも力を入れていましたが、特に力を入れていたのが産業廃棄物処理場建設の反対運動です。

藤原 崇志さん

2回生の時に、大学近くの孝子峠に産廃処理場が建設されるという話があり、教育学部の江利川春雄先生や当時経済学部の河音琢郎先生が反対を呼び掛けていました。当時は産廃規制が緩く、各地で環境汚染を引き起こす悪質な処理場が問題になっていました。建設予定地は高台に位置し、すぐ近くには大学のほか、中学校や住宅地があり、農業用水も通っていました。大学や住宅地に有害な煙が飛散したり、水が汚染されたりする恐れが強い場所での建設に疑問を感じ、先生方と一緒に学生や教職員に処理場建設の危険性を訴え、反対運動を拡大させていきました。大学周辺の地域住民の方々とも協力し、先生と学生、住民が一致団結し10万筆を超える反対署名を集めました。1500人規模の住民集会を開き、私が司会を務めました。また、産廃処理場の問題点に詳しい専門家を招いて勉強会を開催し、建設予定の処理場には大きな問題点があることも指摘してもらいました。反対するだけでなく、住民と一緒に地域の自然環境の良さを再発見し、守り、ゴミの減量化にも取り組みました。また、香川県の豊島や岡山県吉永町、京都府など同じように悪質な産廃問題に取り組む地域を視察し、住民の方に話を聞き、連携して活動しました。そして、和歌山市長に建設許可を出さないように直接要請し、大学の先生とともに記者会見を行いました。私たち市民の声を受け、和歌山市は建設を不許可としました。「環境省令で定める技術上の基準に適合していない」「周辺地域の生活環境の保全に適正な配慮がされていない」と処理場に大きな問題点があるというのが理由でした。その後、業者が和歌山市を相手取り、民事裁判を起こしましたが、最終的には業者側が訴えを取り下げ、裁判に事実上勝利することが出来ました。

業者が訴えを取り下げたのは、私が卒業し、記者になってからでした。訴えを取り下げ、勝利したことを自分で記事にし、新聞の一面を飾りました。自分が学生時代に関わった活動の最後を記事にでき、感慨深かったです。

━ 学生時代の活動が今の仕事に繋がった。

その通りです。産廃問題の活動中に記者の人たちから取材を受けたことで、記者の仕事内容を垣間見ることができました。また、自分たちの活動が大きく報道され、メディアの影響力の大きさを実感しました。産廃問題という社会問題に直面し、活動する中で「今度は自分が記者になって社会の矛盾を記事にし、改善したい」と思いました。実は、学生新聞である「和大新聞」の論説委員という肩書をもらって毎月好きなことを書かせてもらった経験があります。産廃問題はもちろんですが、学内の問題や先生についてなど本当に様々なことを書きました。その中でも、1人だけでは自分の視点しかなく思わぬ間違いもあったりするので、友達の編集者など自分以外の人の目を通して、新聞を発行するようにしていました。これは、通常の新聞発行でも同じことをします。産廃反対運動や和大新聞での活動が現在のベースとなっていますし、活動していなければ記者になっていなかったと思います。元新聞記者だった恩師の足立先生からも影響を受けましたし、他にも記者出身の先生がいて、現役時代のお話を聞かせてもらっていました。今思えば、学生時代の環境はとても恵まれていました。

学生時代に執筆した実際の記事。学生とは思えない鋭い指摘が並ぶ
学生時代に執筆した実際の記事。学生とは思えない鋭い指摘が並ぶ

━ 学生のうちに身につけていて良かったことは。

いろいろな人にフットワーク良く会いに行って、何かしらアクションを起こしたことです。大学生の時は多くの先生の研究室をノックして回りました。ちょうど産廃問題について運動していた頃だったので、「あなたは賛成か」「反対か」などを聞いて回ったりすることもありました。このように様々なことに関心を持ち、ここは違うのではと思えばすぐ人とコミュニケーションをして運動を起こせたのは今に繋がっていると感じます。

━ 学生のうちに頑張っておけば良かったことは。

もっと海外旅行に行けば良かったです。仕事を始めるとなかなか長期の海外旅行には行けません。足立ゼミで、合計4カ月間ほどイギリスのケンブリッジに語学留学と環境問題の研究に行きましたが、ヨーロッパだけでなく、世界中の国々を巡ってみても良かったのかなと思います。当時はお金がなかったのですが、親にお金を借りるなり何かしら工夫しても良かったと思います。

湯淺 智周

━ 和歌山大学に入学された理由は何ですか。

国立大学に進学したいと考えていて、伝統があり出身地の兵庫からも比較的近い大学であったため入学しました。一生の友達や先生方に出会え、入学して本当に良かったです。今の自分があるのも、和歌山大学でいろいろな経験をしたからです。

━ 就職活動でのエピソードは。

第1志望のマスコミ業界だけではなく、金融業界など様々な企業に練習もかねて面接を受けに行きました。就職活動では練習だと思って気楽に面接を受けた企業ほど上手くいったため、真面目すぎても緊張してしまうので気持ちを高めて堂々とした態度で面接に臨みました。

━ ご自身の強みは何だと思いますか。

しつこいことと、前向きに考えられることです。

━ その強みは仕事でどう活かされていますか。

取材相手に嫌がられても、なんとか食いついていくのが仕事なので、情報を得るという点でしつこさは活かされていますね。また消極的な考え方でもやっていけないので、なるべく前向きに考えてやるしかないと思うようにしています。このしつこさとポジティブに考える姿勢というのが、記者という仕事に大切だと思います。

━ 現在の仕事内容について教えてください。

環境省を担当し、環境に関する国の政策、企業や環境団体の動きなどを取材しています。政策の問題点を指摘し、改善につなげています。特に地球温暖化のように、今の世代よりも次の世代に大きな影響が出る問題では、今のうちに対策をしなければ手遅れになります。このような環境問題を啓発することも私たちの仕事です。最近注目されているのがESG投資。環境などに配慮した企業に積極的に投資するといった取り組みです。逆に、環境に悪影響を及ぼす企業から、投資を引き揚げるダイベストメントといった動きが海外ではあり、日本でも今後広がる可能性があります。他にも、クールビズや石炭火力発電所の二酸化炭素排出問題、世界自然遺産、再生可能エネルギー、リサイクル推進、廃棄物問題なども取材します。これまでに、安倍政権を揺るがしている加計学園問題など首相に関する疑惑を追及する調査報道、経済分野のTPP交渉、農業政策、マグロやサンマ、クジラなど水産資源を巡る国際会議なども取材しました。首相や閣僚の記者会見にも足を運びます。

━ 現在の仕事のやりがいは何ですか。

社会の矛盾や課題、疑惑を追及することは面白いです。記事を書くことによって不正を正したり課題が解決したりすると、社会に貢献できたという気持ちになれます。そういったことがやりがいだと感じます。また、名刺一枚で基本的に誰とでも会えるので、政治家や経済人、研究者、裁判官、弁護士、文化人、官僚、アスリート、市民団体など様々な人と関わり、人脈が広がります。多くの人とコミュニケーションをとってみたい人には良い仕事だと思います。一方で、取材する分野について幅広く、また深い知識が必要になるので勉強もしなければなりません。さらに、地道な取材を続ける忍耐力、大きな事件や問題が発生した場合に昼夜を問わず取材する体力も必要です。

藤原 崇志さん、湯淺 智周

━ 政治や経済、スポーツ、芸能など様々なジャンルがありますが、希望するジャンルに就くことは出来ましたか。

最初はいろいろなことをやりたかったので、20代の時に赴任した富山県や兵庫県では事件・事故や地方政治、選挙、環境問題、教育、スポーツなどありとあらゆる事柄を取材しました。阪神大震災の被災者の方の取材、死刑判決が出るような裁判の取材、皇族にまつわる取材のほか、市長や行政職員による不正行為を暴いたこともありました。そして次は国の動きや政策を取材してみたいと思いました。そういった点では希望するジャンルの取材ができているかもしれません。ジャンルにはそれぞれの面白さがあるので、多くの分野を経験した方が、様々な世界を見ることができて楽しいのではないかと思います。

━ 自分の取材内容を匿名の人に批判されることを恐れはしませんか。

恐れることはないです。インターネットなどで批判する人がいますが、匿名でしか批判できない人として捉えています。しっかりとした取材をして裏付けを取っているので、批判されても反論はできるという自信は持っています。自信のある記事を書かないといけないというのが基本なので、匿名の人に批判されることを心配するようなことはありません。

━ 今後、インターネットの普及によって新聞等の紙媒体が無くなる可能性はあると思いますか。

無くなることはないと思います。しかし、実際には新聞の部数は減少傾向にあります。インターネットの普及で若者が新聞を取らなくなったのが一因なので、ネットと新聞の関係を見直さなければならないという課題はあります。

━ その課題についてどうすればよいか何か考えはありますか?

業界の取り組みで、教育の中で新聞を教材として使ってもらい、時事問題を通して社会の仕組みを勉強してもらうNIE(Newspaper In Education)という活動があります。読解力の向上にもつながるほか、世の中に出回っている情報について真偽を見抜いたり、分析して活用したりするリテラシーの力もつきます。スマートフォンなどで読むニュースは自分の興味があるものしか調べないですよね。要するに、見る内容に偏りが生まれてしまいます。対して、新聞は関連記事をまとめて工夫して掲載しているので、読めば偏りのなく分かりやすいものとなっています。つまり、ネットだけでは視野が狭くなり、現代社会の潮流をとらえる幅広い知識が身に付きません。また、社会のいろいろなごまかしにも気付かないかもしれません。一方、新聞を読めば世の中の動きが分かりやすくなる。そういったことを伝えていけば、新聞などの紙媒体は必要不可欠なものとなるのではないでしょうか。

藤原 崇志さん、湯淺 智周

━ 一番印象に残っている取材相手や内容は。

阪神大震災で、体に重い障害を負った人たちを震災障害者として報道し、支援を求めるキャンペーンを行いました。その際に関わった震災障害者の人々の生き様、苦労について取材したことが一番印象に残っています。両足が不自由でほぼ寝たきりになった高齢の女性が蒸れにくいオムツを考案したり、震災の影響で体に障害が残ってしまった夫が妻と助け合いながら生きていく姿を見たり、片手が動かなくなってしまった女性が震災を風化させないように他の人たちに語り継いだり…そういった人たちを取材できたことが印象強く残っています。

他には、記者になって間もない頃に関わった警察署の広報担当の副署長さんも印象に残っています。初めの頃は要領が分からず何回も取材の電話を入れたので、副署長さんによく怒られていました。それでも、怒鳴られながら話を繋げて関係を築き、取材を続け、粘り強く話を聞く勉強になりました。副署長さんのように、記者として取材相手の人に育ててもらったと感じることはあります。

━ 企業が求める人物像について教えてください。

採用担当でないのであまりうまくは言えないのですが、記者として求められる人の特徴を挙げるとすれば、打たれ強い人、好奇心が強い人です。特に記者は、物怖じせずに誰に対しても意見や質問をしなければなりません。このような特徴を持つ人が企業の求める人物像ではないかと思います。

私が就職活動していた時、目を合わしてくれない面接官がいました。そういう時でも、しっかりと自分を主張しなければ面接は通りません。というより、面接官はどんな状況でも主張できる人物を求めていたのだと思います。物怖じせずに意見を言える人というのは就職活動でも有利に立てると感じますね。

━ お勧めの書籍があれば教えてください。

学生時代に読んで参考になった本は、『二十歳のころ(1)』『二十歳のころ(2)』(新潮文庫)です。これは作家の立花隆氏とゼミ生による本です。いろいろな人に20歳のころについてインタビューするという内容でした。もう1つ、私は読んだことはありませんが、『二十歳の君へ―16のインタビューと立花隆の特別講義』(文芸春秋)という本も2011年に出版されています。「二十歳のころ」の生き方を考える際の参考になるかもしれません。他にも、恩師の足立先生の著書『シャッター通り再生計画』『イギリスに学ぶ商店街再生計画』(ミネルヴァ書房)の2冊も和歌山の街づくりを学ぶ上でとても分かりやすい内容となっています。

私自身、経済書を買って勉強していましたが、読書家という性格ではなかったので、いろいろな活動に参加したり、人とコミュニケーションをとったりすることで成長していきました。ゆえに、本や新聞で知識を得るだけでなく、実際の活動を通して得た経験も大切にしていました。

━ 学生たちにエールを含めてアドバイスをお願いします。

学生は、周りに流されずやりたいことをやるべきです。そして、ちゃんと毎朝、新聞を読んで、幅広い知識を身につけてもらいたいです。初めは新聞に書いてあることが難しいと思いますが、まずは4コマ漫画から読んでみよう、興味のあるスポーツ欄から読んでみよう等の工夫をして、少しずつ読む量を増やしていってほしいです。他にも、コラムなどを書き写して、就職活動に向けて書く力を養うこともできます。このような工夫をして知識を蓄え、社会問題に対して自分なりの考えを持つことが重要です。

大学をフル活用することもお勧めします。いろいろな先生の研究室を訪ねるのがいいと思います。私は恩師の足立先生と出会って、「この人についていけば間違いない」と確信しました。そして先生の良いところを吸収するように心がけていました。先生たちは色々な知識を持っているので、先生と信頼関係を築き、専門分野について話を聞けば、知識が高まります。他の学生はあまりこのようなことをしないので、差をつけやすいのです。せっかく授業料を払って大学に来ているのだから、学部を気にすることなく、興味を持った分野の先生とコミュニケーションを取って、大学をフル活用して楽しんでほしいですね。

取材の感想

取材の感想

私は記者になりたいと思っていたので、藤原さんの実際の経験から話してくださった言葉ひとつひとつが大変貴重なものとなりました。また、藤原さんの好きなことをとことんやるという所にも感銘を受けました。産廃処理場建設の反対運動の件をはじめ、他の人では妥協しそうなこともとことんやりきっているのが印象に残っています。やりたいことをやるのは言うだけでは簡単ですが、先生や地元の人々、自治体まで巻き込んでやり遂げてしまう人はそういないと思います。このような行動力、コミュニケーション能力はしっかりと学び取りたいです。実際に私をはじめ、やりたいことはあるけれども、あらゆる障壁を考えてしまって行動できない人は沢山いると思います。しかしこのインタビューを通じて、そのような障壁は考えず、まずは好奇心のままに行動すべきだという考えに至りました。行動しなければ何も経験できないし、出会いもありません。できないと言い訳して何もしないよりも、できるかできないかは分からないけれど行動した方が知識は広がり、それが将来のベースに直結するのだと藤原さんから教えられたような気がします。このインタビューを糧に、私自身も一歩先に進めるように日々努力していきます。今回はお忙しい中、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。

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