2018.2.5何事も真面目に取り組む

西浦 頼子さん

和歌山県商工観光労働部企業政策局 企業振興課 経営支援班
副主査

卒業学科
和歌山大学経済学部市場環境学科56期卒業
企業サイト
http://www.pref.wakayama.lg.jp/ 外部リンク
取材者

取材者

中林 朋夏

和歌山大学経済学部経済学科69期

━ 和歌山大学経済学部に入学した理由は何ですか。

高校生のときに、テレビや新聞で流れる世界の経済状況や金融の仕組みに興味を持ち、深く掘り下げて経済や経営を学べる経済学部に入りたいと思って入学しました。和歌山県内(以下、県内)に親戚がいるので、和歌山大学はよく話題に出ており、昔から関心を持っていました。

━ 学生時代に力を入れていたことはありますか。

大学では授業やサークル、アルバイト等、楽しい学生生活を送りました。特に勉強面では、授業は全部出席しよう、単位を落とさないようにしよう、と基本的なことですが真面目に取り組んでいました。

━ 学生時代にやっていたことで、お仕事に役立ったことはありますか。

大学で簿記の授業を受けたことがきっかけで簿記2級の資格を取りました。気休めかもしれませんが、履歴書に「簿記2級」と記入でき、お守りにもなりました。資格を取っただけでまったく実践を積んでいなかったので、和歌山県庁(以下、県庁)に入庁して、決算業務で複式簿記を使うとなったときはかなり焦りました。本当に実践が大切だなと感じました。ただ、資格取得時に簿記の専門用語は勉強していたので、その点では助かりました。

大学のときにもっとやっておけば良かったなと思うことは、いろいろな本を読んでおくことですね。小説やエッセイ、ビジネス本を通じて、もっと広く世界を知ることができると思います。そして、やっぱり英語は必須だなと実感しています。県庁では、県内の観光を海外のメディアに案内したり、海外からの要人を迎えたりとさまざまな場面で英語を使う機会は多いです。これから英語を勉強しないといけないですね。

━ 就職活動での思い出を教えてください。

公務員になるために、大学3年生から専門学校の公務員講座に通っていました。筆記試験対策はひと通りしたので手ごたえはあったのですが、苦手な面接試験対策を十分にやっておらず、面接試験はほろ苦い思い出です。学生時代に社会人から面接されるというのは、おそらく就職活動時だけなので、アルバイトや大学のゼミ等で、日頃から社会人とたくさん話をして、「社会人との会話」という垣根を超える経験をもっと積んでおけば良かったな、と感じました。

━ 現在のお仕事を選ばれた理由は何ですか。

大学の授業で"公共システム論"という講義があり、その講義の中で、"富山県で路面電車を走らせて高齢者の交通の便を良くしよう"とか、"災害が起きた時に行政はどんなことをするのか"など、いろいろな行政の課題事例を和歌山県に当てはめて学ぶ機会がありました。その講義がきっかけで、和歌山県の役に立てる仕事がしたいなと思い、県庁を選びました。

西浦 頼子さん

━ 西浦さんは出身が大阪府ですが、大阪府庁(以下、府庁)ではなく県庁に入庁したのはなぜですか。

出身が大阪府なので、府庁も選択肢にありましたが、県庁の職場説明会でお話されていた女性がキラキラしていたこと、大学OGで県庁に入庁した女性が活躍されている記事を読んだこともあって、県庁で働くことを夢に描いていました。

━ 県庁に入庁して良かったことは何ですか。

県庁では商工部門や総務部門、福祉部門等でさまざまな業務を行っていますので、幅広いキャリアを積めることです。県庁に入庁して10年が経ちますが、商工部門や県立医科大学の総務部門、府庁への派遣等でいろいろな経験を積むことができました。まだまだ経験していくことばかりですが、あらゆる面でジェネラリストとして県の施策や未来に携わることができる仕事というのは、すごくやりがいがあってすばらしいことだなと思います。

━ 和歌山県の魅力はどんなところだと思いますか。

県庁に入庁して、さまざまなことを教わり、資源が豊富で今後も飛躍する県だなと、実感しています。食料面で言うと、日本は自給率が低いと言われている中で、和歌山県は温暖な気候のおかげでみかんや梅などのいろいろな作物を生産することができる環境だし、マグロとか鯛とかが捕れますね。観光面で言うと、行きたい県のランキングで和歌山県は上位にあります。パワースポットに興味のある女性が高野山や那智勝浦に多く来られますね。また和歌山県は、製造分野でも歴史があって化学の発祥地だったり、橋本市の高野口周辺はパイル織物が盛んで、そのパイル織物で作った生地が新幹線の座席シートや高級ホテルなどで使われていて、やっぱり技術力が優れているので国内や海外から注文が来るんだと思います。和歌山県はたくさん良いものが埋まっているんだな、といつも実感しています。

西浦 頼子さん

━ 現在携わっているお仕事について教えてください。

現在は県内産業の活性化に取り組み、商工部門の企業振興課で、主に創業支援に携わっています。「創業セミナー」の開催や「起業家支援施設」の運営を行い、県内での創業者の掘り起こしや創業支援の専門家と引き合わせて、創業する方のお手伝いをする仕事です。

例えば、昨年6月に開催した創業セミナーでは、和歌山大学システム工学部を会場に、世界で活躍する創業支援専門家の講演やワークショップ等を実施しました。特に、パネルディスカッションでは、経済学部の卒業生で創業された方にも登壇してもらい、創業時の経験談や今後の事業展開などで盛り上がりました。創業セミナーを開催するにあたっては、セミナーの進行や登壇者の選定、事業の予算等を企画段階から考えて、いろいろな人の意見を聞きつつ企画を何度もブラッシュアップして、当日の開催となります。創業セミナーの開催が近くなると、業務が多忙になりますが、後日、参加者から、「創業を決めて商工会に相談に行ったよ」とか「カフェを創業したよ」というお話を聞くと、すごくうれしいです。

また、起業家支援施設の運営では、和歌山大学との連携も視野に入れて大学周辺の建物の一角を県が借りていて、創業者のためにオフィスをリーズナブルに提供しています。それと、オフィスを知ってもらうために、創業者向けのWebやデザイン等のミニセミナーを建物内で開催しています。規模が小さいので、より参加者の創業状況を聞くことができますし、逆に創業のポイントを教えてもらうこともあります。

和歌山県の創業状況は、直近の開業データは全国的に見て下位にあります。ただ、県内には、化学や繊維等の産業の根幹となる分野の集積地もあり、世界と渡り合う県内発祥の企業も多くあります。新たな事業が生まれ、県内産業が活性化できるよう、これからも創業支援に取り組んでいきたいです。この前、和歌山大学で開催された創業イベントに参加したのですが、将来、創業したいという学生さんがおられたので、全力でバックアップさせてもらいたいです。また、創業支援を通じて、製造業や金融機関等のさまざまな分野で働いている卒業生にお会いしますが、皆さん、活躍されていて、すごく誇りに思いますし、これから創業支援を行う上で、大変心強く感じました。

━ お仕事のやりがい、好きなところは何ですか。

創業セミナーが終わった後に、参加者が創業して、「これから頑張っていくぞ」と意気込んでいる姿を見ると、うれしさが込み上げてきますね。セミナーの企画段階から、セミナーの開催、結果・実績という過程を見ることができるっていうのが今の仕事の面白いところです。

それと、人とのつながりが広がることですね。創業支援に取り組む中で、支援側の商工会や商工会議所、金融機関の方々とお話する機会があって、県庁以外の仕事についてどんなことをやっているのか、ちょっと覗けたりします。県庁以外の方々と連携できることも面白いところの1つです。また、創業支援に携わる中で、普段めったに会えない創業者や経営者に会うことができます。大きな決断や試練を乗り越えてきた方の生の話を聞けるっていうのは、新聞をやビジネス本以上の価値がありますね。

西浦 頼子さん

━ 県庁の職員になったら、県庁以外にどんなところへ配属されますか。

和歌山県では、将来、県のために活躍できる人材を育てるために、国の省庁や海外、大学等へ派遣する制度があります。経済産業省や総務省等の国の中核となるところへの派遣に特に力を入れています。おそらく他府県に比べて、和歌山県は国の省庁への派遣が多いと思います。そこで県庁の職員に勉強してもらって、最新の情報を仕入れて、和歌山県での支援策に反映させています。海外派遣では、中国の山東省やアメリカのニューヨーク、イギリス、シンガポールなどに派遣されています。海外派遣の場合は、1年間は日本の語学学校に通って、その後2年間は海外の大使館等で勤務となります。県内で県庁以外なら、人事交流で市役所とか町役場に行ったりしますね。また、民間の会社との交流もありますね。和歌山大学にも派遣されていますよ。

私も2年間府庁の商工部署に派遣されました。同期も、国の省庁や海外、民間企業等、あらゆるところに派遣されていますので、同期で集まったときは、いろいろな話が聞けておもしろいです。

━ 府庁に派遣されておられましたが、どんなことをしていましたか。また、大阪府と和歌山県の違いはなんですか。

府庁では、大阪府内(以下、府内)のばねやねじ等で優れた技術力を持つ企業さんを掲載した広報誌を作成し、東京や大阪の展示会や商談会などで配るという広報活動に携わっていました。府内には、塗装や溶接等のさまざまな専門会社があって、医療機器分野に進出する企業や、自社製品の靴下を製造する等、作家の池井戸潤さんの小説のモデルになるような企業がたくさんありました。

府庁と県庁の組織の違いについては、あまり変わりはありませんが、和歌山県の人口が約95万人で大阪府の人口は約880万人なので、府庁は職員数も多く、県庁より組織が細分化され、情報系統も複雑でした。

府庁に派遣されたときは、知っている人がいない中で、やっていけるのか心配で不安でした。でも、配属された部署がすごくいいところで、部署の方々が業務のフォローをしてくれたり、勤務先の周辺に飲食店が多かったので仕事が終わってから食事に誘ってくれたり、充実した2年間でした。県庁でも新しく部署に来た職員に声をかけたり、気にかけてくれるので、そこが府庁も県庁もいいなと思うところですね。

業務を通じて感じたことは、大阪の企業さんは自分たちで新しいものを作りつつ、さらに新しいものを取り入れていこうという商人気質を持っているな、と思いました。あと、どんどん新商品を開発していこうという想いも強いなと感じました。業種がそれぞれ違う塗装とか板金、ばねなどの企業さんたちで企業連合を組んで、大企業の大型注文にも対応していました。和歌山県も、今までの地盤や伝統を守りつつ、新たな事業にも挑戦しようという企業さんが多いと思います。やっぱり、真田幸村(真田ひもの発案者)さんや松下幸之助さんなど、発明家が多いので、新規分野にも進出しようという土壌があるかもしれませんね。

━ 西浦さんがご自分で決めている仕事に対するポリシーは何ですか。

「何事も真面目に取り組む」ということをいつも念頭に置いて仕事をしています。最初の部署では、給与や旅費支払い等の庶務に携わっていました。条例や規則に基づいて支出をしたり、文書を通知したり、みっちりと基礎的なことを学びました。そのとき使っていた「文書事務の手引き」はボロボロですが、今も愛用しています。1,2年目は予算や決算等の社会人になって初めてやることばかりで、出来ないことも多くて、泣きたくなったときもありましたが、同期との昔話で、「あのときがんばったから今があるんだよね」と笑い話になっています。入庁して10年が経ちますが、入庁時のがむしゃらにがんばった気持ちを持って、これからも、何事にも真剣に真面目に取り組みたいと思います。

西浦 頼子さん

━ 社会人になるために身に着けておくべきことは何ですか。

私が重要視しているのは相手の意見を丁寧に聴く力、"傾聴力"です。話し合いの中で、自分の意見を言いたくなるんですけれど、相手の話を聴いてどんなことを思ってるのかな、というのを考えてから話するようにしています。せっかくの事業も、ちょっとした歯車のかみ合わせの違いでバラバラになってしまいます。そうならないように、対等な関係を築きつつ、寄り添いながらやっていくっていうのが大切なので、「まずは相手の意見を聴く」ということを心がけています。大学生では友達と楽しくワイワイ騒ぐだけでも良いですが、相手がどんなことを考えているのか、尊重しあうことも心がけたら、より大学生活が充実するのかなと思います。

でも、傾聴力を身に着けるのは難しいですよね。ただ話を聴いておけばいいのかというとそういう訳でもないし。だから、まずその人の言っていることを頭の中で反復するようにしています。もちろん話す力も必要ですよね。私はどちらも苦手で、上司や先輩の話を聴いて、日々、説明時の組み立て方や間の取り方を学んでいます。

━ 学生におすすめの書籍を教えてください。

オードリーの若林正恭さんの『完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込み』です。若林さんはオードリーの春日さんのボケを理解して突っ込んでいるんですけれど、それはすごいことですよね。テレビのお笑い番組で春日さんがボケているところを見ますが、どんな芸人さんでも春日さんのボケを理解して突っ込めるかと言われると難しいと思います。若林さんは、春日さんの暴走気味のボケを寛容な心で受け入れて、愛情あるツッコミをしていることがすごいです。若林さん自身はとてもネガティブ思考らしいのですが、番組を見ているとどこかほっこりするような発言や雰囲気のある方だなと、いつも興味を持っており、この本を読んでいると、やっぱりほっこりするのでおすすめの本です。

学生時代に出会った本では、手塚治虫さんの『ブッタ』とか『火の鳥』ですね。大学の図書館に手塚治虫さんの漫画があったので、空き時間によく読んでいました。入庁時、上司がちょうど手塚治虫さんの世代だったので、手塚治虫さんの漫画が話題に上がったとき、その話の輪に加わることができました。学生のときは同じ年齢くらいの人としかしゃべらなかったので、入庁してどんなふうに話をしていいかわからず困惑しましたが、漫画をきっかけにコミュニケーションが図れたので、読んでいて良かったです。

━ 和歌山大学の学生に向けて、アドバイスやエールをお願いします。

大学生活の中で、将来どんなことをしたいのか、どんな仕事をしたいのか考えることが大事です。それと、私はあまりできなかったのですが、大学の部活やサークルの参加、アルバイト等も、いろいろとやっておけばよかったと後悔しています。経験した分だけ人間的な魅力も増すのかなと思うので、その他、留学や創業とかいろいろなことに挑戦していってほしいです。

取材の感想

取材の感想

私は以前から公務全般に興味があり、今回のインタビューを通して、実際にどんな仕事をしているのか知ることができ、貴重な時間を過ごせました。公務員と一口に言ってもさまざまな仕事があり、県外だけでなく海外派遣など、活躍できる場がたくさんあることが驚きでした。西浦さんは、和歌山県庁の仕事内容だけでなく、和歌山県の魅力についてもたくさんお話してくださいました。和歌山県の産業や歴史的価値のある名所なども知ることができ、もっと和歌山県の良いところにも目を向けていこうと思いました。また、西浦さんの仕事に対するポリシーである「何事も真面目に取り組む」という言葉がとても印象に残りました。真面目にコツコツと取り組んできたからこそ、今となっては「良かったな」、「自分のためになったな」と思えることがたくさんあったとおっしゃられていました。私も就職したら西浦さんのように、真面目に続けてきて良かったと思えるほど仕事に向き合いたいです。今回はお忙しい中、時間を割いていただき本当にありがとうございました。

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