1背景と目的
現在,高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的として,可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の終末期まで続けることができるように,地域包括ケアシステムの構築が推進されています.
地域包括ケアを行うためには,排尿の自立が重要ですが,入院中に低下した排尿自立の回復には時間が必要です.そのため,入院中に排尿ケアが完結することはほとんどなく,退院後の在宅でも排尿ケアを継続する必要があります. しかし,在宅医療を支える訪問介護ステーションでは,排尿アセスメント・ケアに関する一定のマニュアルをあまり利用しない傾向にあります.
そこで本研究では,在宅での排尿ケアに関する情報や記録,マニュアルをうまく活用し,高齢者の排尿自立を促すための支援を行う,排尿ケア支援システムを開発しています.
2高齢者のための排尿ケア支援システム「リリケア」
本システムは在宅介護者を対象としたWebアプリケーションです. 図1は,システムの構成を示しています. 主な利用者である訪問看護師などの医療従事者は,各自が所持しているPCやタブレット端末,携帯端末からシステムを利用することができます.
本システムでは,在宅で排尿ケアを受ける高齢者の排尿記録(排尿日誌)をシステムに入力することで,個々の状態に応じた適切な処置を提示します. 複雑な計算や分岐をシステムに任せることによって,マニュアルやケアの指標として有効活用されることを目指します.
図1. システムの構成 |
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3システムの機能
(1) 排尿記録の入力機能
在宅で記入される排尿記録(排尿時の尿量,感じた違和感などを書き留めておくもの)を,訪問看護師などのスタッフがシステムに入力する機能です. 図2は実際の排尿記録画面です.入力した情報はデータベースに保存されるほか,(2)の情報表示機能で整理され表示されます.
図2. 排尿記録画面 |
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(2) 患者情報と適切な排尿ケア方法の表示機能
排尿記録で入力された情報を整理し,それに対するアドバイスと一緒に表示する機能です.図3は実際の画面の表示例です.ここでは,以下の4つの情報を表示します.
● 基本患者情報
● 排尿記録の進捗状況
● 排尿記録
● 排尿記録の内容に対するケアのアドバイス
図3. 患者情報表示画面 |
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(3) 問題点に即したプロトコールの表示機能
排尿ケアを行う中で生じた問題の解決案を提示する機能です. 問題点についての質問に回答することで,問題がある部分とそれに対するアドバイスやケアの方法を提示します.図4が質問の画面例,図5が質問の回答に対するアドバイスの表示例です.
質問はほとんどが「はい/いいえ」の2択で答えられる簡単なものとなっています.
図4. 質問画面 |
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図5. 回答に対するアドバイス表示画面 |
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発表
- 梅本美月, 吉野孝, 横山剛志, 永坂和子:地域在住要支援者および要介護高齢者のための排尿ケア支援システムの提案, 情報処理学会,第80回全国大会講演論文集第4分冊,3ZB-09,pp.689-670(2018-03-14).
連絡先
- 梅本 美月:s195007 at center.wakayama-u.ac.jp
- 吉野 孝:yoshino at sys.wakayama-u.ac.jp