1背景と目的

2014年8月,和歌山県紀南エリアの9箇所の市町村に位置する「南紀熊野ジオパーク構想地域」が貴重な地質や地形を認定する「日本ジオパーク」に認定されました. そのため和歌山県の多くの人々が,自然にできた地形や景観(ジオサイト)を巡るツアーである“ジオツアー”に関心を持っています. ジオツアーをおこなう目的は主に2つあり,1つ目は,ツアーを通じて大地や地球などの自然を学び,より身近に自然があることを知るというものです. 2つ目は,ジオサイト(観光地)を訪れるというきっかけから,他地域・他府県の方を呼び込み,地域経済の活性化につなげるものです. しかし実際のジオツアーにはいくつか問題点があります. まず1つ目の問題点として,ガイドの口頭説明のみでは,参加者は説明に対して理解を深めづらいことが挙げられます. ジオツアーでは,説明の中に地形や地質に関する専門用語がでてくるため,知識を有していない一般の参加者は,説明を理解できなかったり,ときには聞き逃してしまったりすることがあります. また,2つ目の問題点として,ガイドが遠方の場所(ジオサイト)を説明する際,参加者に対して指さしだけでは対象物がわかりづらいことが挙げられます. 例えば,ジオサイトが海の中や山の上,危険地帯などに存在する場合,近くまでいくことができないため,ガイドは指さしで説明をおこないます. しかし,ガイドとの距離が離れていたり,似たような山や岩がいくつも存在する場合,どれがジオサイトなのかを参加者は理解することが難しいというものです. さらに,3つ目の問題点として,“ジオツアー”そのものの知名度があまり高くないことが挙げられます.

そこで本研究では,ガイド説明理解度向上とジオツアーの知名度向上を目的としたジオツアー支援システムを提案し開発をおこないました. さらに,実際に和歌山県紀南エリアで活躍されているガイドの方と手を組み,実際のジオツアーでシステムを運用し,評価をおこないました. また問題点の解決だけでなく,このシステムを通じて,ガイドと参加者や,参加者同士が相互にコミュニケーションをはかるきっかけになるようなシステムを目指しています.

2ジオツアー支援システム「ついジオ」

ジオツアー支援システム「ついジオ」は,ジオツアーガイドと参加者の両者が自身の持っているスマートフォン上で動作するWebアプリケーションです.本システムは図1のように構成されます.

システム構成図
図1. システム構成図

3システムの機能

(1) ガイド説明配信機能

本機能の具体例を図2に示します. この機能は,ガイドがあらかじめ登録した説明および写真や画像を参加者へと配信することができる機能です. 図2(a)がガイド側のアプリ画面,図2(b)が参加者側のアプリ画面です. 初めにガイドは,図2(a)の(1)のジオサイト選択ボタンより,登録しているジオサイト場所をプルダウンメニューから選択します. そうすることで,選択したジオサイトごとに登録した説明がリスト形式でプルダウンメニューの下に表示されます. 次にガイドは,図2(a)の(2)の説明配信ボタンをタップすることで,あらかじめ登録しておいた説明および写真や画像を参加者へと配信することができます. 参加者側の画面では,図2(b)のようにガイドがボタンを押すとすぐに,説明が自動で表示されるため,ほぼリアルタイムでガイドの説明および写真や画像を閲覧することが可能となっています. また,写真や画像は拡大できるため,より詳細に閲覧することができます. 参加者側の画面に説明が自動で表示されることで,参加者の負担を軽減し,よりガイドの説明に集中できるようになると考えられます.

ガイド説明伝達機能
図2. ガイド説明配信機能

(2) ツイート投稿機能

本機能の具体例を図3に示します. この機能は,図3(1)のテキストエリアに記述した文字がTwitterへと投稿される機能です. また,ツイート投稿時に図3(2)の写真選択ボタンから,写真を1枚同時に投稿可能です. さらに,この機能の一番の特徴として図3(3)のツイート投稿ボタンからツイート投稿時に「#ジオツアー」がテキストスペース内の文章に自動付与されるという特徴があります. また,図3(4)のひとこと追記ボタンを押すことで,テキストエリアへと素早く簡単に,ひとことを追記することが可能です. ツアー参加者は,その時の心情や気持ち,またはジオツアーの楽しさなどを,このツイート投稿機能から投稿することで, 参加者自身が意図せずとも,“ジオツアー”を参加者自身のフォロワーへと宣伝することができると期待できます.

ツイート投稿機能
図3. ツイート投稿機能

(3) ツイート閲覧機能

本機能の具体例を図4に示します. この機能は,ガイド画面側と参加者画面側のいづれの画面も存在する機能です. 図4(1)に参加者のツイートがリスト表示されています. Twitterにつぶやかれている「#ジオツアー」付きツイートを自動収集し,ユーザ名,ユーザID,ツイート文を表示する機能です. 図4(2)のいいねボタンや共有ボタンにより,他者のツイートにアクションを起こすことも可能です. ガイドや参加者が,この画面を閲覧することにより,ツアー中に誰が何を思っているのかを知ることができるため,話をするきっかけになり,円滑なコミュニケーション支援ができる可能性があります.

ツイート閲覧機能
図4. ツイート閲覧機能

4利用イメージ

利用イメージ動画

参考文献・発表

  1. 谷口翔吾,吉野孝:スマートフォンを用いたジオツアーガイドシステムの開発,情報処理学会第77回全国大会,第4分冊.pp.853--854(2015-03).
  2. 谷口翔吾,吉野孝:マイクロブログを用いたジオツアーガイド支援システムの提案,2015年度 情報処理学会関西支部 支部大会,講演論文集,pp.1--3 (2015-09).
  3. 谷口翔吾,吉野孝:ガイド説明理解度向上と知名度向上を目的としたジオツアー支援システムの開発と評価,第13回観光情報学会 全国大会,第12巻掲載予定(2016-07).
  4. 谷口翔吾,吉野孝,本塚智貴(人と防災未来センター):マイクロブログを用いたジオツアー支援システムの開発,情報処理学会,マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2016)シンポジウム,pp.24--31(2016-07).
  5. Shogo Taniguchi, Takashi Yoshino:Development of a GeoTour Support System Using a Microblog,The Eighth International Conference on Collaboration Technologies (Collabtech2016),Collaboration Technologies and Social Computing pp.220--230(2016-09).
  6. 谷口翔吾,吉野孝:ジオサイトの知名度向上を目的としたジオツアー支援システムの開発,2016年度 情報処理学会関西支部 支部大会,講演論文集.pp.1--3(2016-09).
  7. 谷口翔吾,榎田宗丈,吉野孝:ジオサイトの知名度向上を目的としたジオツアー支援システムの開発と評価,グループウェアとネットワークサービスワークショップ2016,ワークショップ2016(GN Workshop 2016) 論文集,pp.1--8(2016-11).

連絡先

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