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背景と目的

現在,日本は超高齢社会であり,将来的に医師や病床数が不足する可能性があることから,在宅医療のニーズが高まってきています.その中で,医療従事者間での連携・情報共有がより重要となってきています.しかし,在宅医療には異なる組織に属する多くの職種の医療従事者が関わっており,情報共有が不十分であるという大きな課題があります.また,各組織で使用している医療記録用システムに加え,情報共有用システムへの情報入力は,医療従事者の負担となります.

そこで本研究では,在宅医療連携のための多職種医療従事者間情報共有システムの開発を行っています.情報入力の負担を考慮し,書式が未統一な記録書などを「写真」で共有する機能やチャット機能などを作成しました.本システムは,これらの機能を用いた,異なる組織に属する多職種の医療従事者間におけるコミュニケーション支援を目指します.

在宅医療連携のための多職種医療従事者間情報共有システム

本システムは,SSL暗号化通信を利用したWebアプリケーションです.システムの開発には,PHPとHTML5,Javascriptを使用しています. 図1は,システムの構成を示しています.様々な職種の医療従事者は,各自が所持しているPCやタブレット端末,携帯端末からシステムを利用することができます.

また,本システムはきのくに医療連携システム「青洲リンク」と連携しています.青洲リンクとは,患者の診療情報を参加医療機関間で共有する和歌山県の医療連携プラットフォームです. 青洲リンクに保存されている患者情報を照会し,本システムに情報を表示します.

システム構成
図1. システム構成

システムの機能

(1)患者情報共有機能

患者の基本的な情報を登録することができます.患者の基本情報の項目を表1に示します. 緊急時において,患者が病院に到着する前に,医師が患者の基本情報を閲覧することで,早い段階で治療方針を決定することができると考えられます.

表1.患者基本情報の項目
患者氏名 患者氏名(読み仮名) 住所 生年月日
年齢 性別 職業 主病名
家族歴 アレルギー 主たる介護者氏名 続柄
特記事項 情報登録日時 情報更新日時 地域患者ID
担当者 担当機関

書式が未統一な看護の記録書や医師からの指示書などを,タブレット端末やデジタルカメラなどで撮影し,その「写真」を共有する仕組みがあります. これは,情報入力の負担を軽減させる仕組みの一つです.写真に加え,PDFや動画も共有することができます. 図2は,登録された患者に関する写真や動画,PDFを一覧表示にした,ファイルデータ一覧です. また,データ登録のモチベーションにつなげようと考え,登録した情報の閲覧者記録を見られるようにしています.

ファイルデータ一覧
図2. ファイルデータ一覧

(2)テキストチャット機能

医療従事者間でテキストベースのチャットを行う機能です.図3は,担当患者チャットの画面例です.担当患者に関するリアルタイムな情報を異なる組織に属する患者の担当者間で共有することができます. また,いつチャットに発言が行われたかについて,自動的にメールで通知するような工夫をしています.

担当患者チャット画面例
図3. 担当患者チャット画面例

(3)ビデオチャット機能

医療従事者間でビデオチャットを行う機能です. システムにFacetimeの着信用連絡先に設定しているメールアドレスを登録すると,連絡先を知らない相手とでもFacetimeでのビデオ通話を行うことができます. 遠隔地から訪問看護師が医師に患者の状態について相談したい場合,ビデオ通話を用いることで,実際に患者の状態を医師に見せながら,相談を行うことができると考えています.

(4)緊急ログイン機能

緊急時,救急隊員や主治医以外の医師がシステムを利用し,一時的に患者の情報を閲覧できる機能です. セキュリティを保つために,位置情報サービスと連携し,IDとパスワードが漏洩しても,あらかじめ登録した位置以外ではログインできない仕組みになっています. また,情報漏洩を防ぐため,患者情報が閲覧される度に,どのアカウントでどの患者情報が閲覧されたのかについて,管理者へメールで通知するようにもなっています.

システム導入

和歌山県田辺市の医療機関10機関で,システム導入を行っています. 現在,システムの利用者数は21名です.

口頭発表

  1. 山本理絵,吉野孝,入江真行,高野誠,中井國雄:分散した患者情報の集約および共有を目的とした在宅医療支援のための多職種医療従事者間情報共有システムの提案,2014年度 情報処理学会関西支部 支部大会 講演論文集,2014,G-06,pp.1-7 (2014-09-10).
  2. 山本理絵,吉野孝,入江真行,高野誠,中井國雄:在宅医療支援のための多職種医療従事者間患者情報共有システム,第34回医療情報学連合大会,pp.1048-1050 (2014-11).
  3. 山本理絵,吉野孝,那須英紀,中井國雄,西端めぐみ,柳本将喜,入江真行:在宅医療連携のための入力負担軽減を考慮した多職種医療従事者間患者情報共有システム,第35回医療情報学連合大会,pp.1308-1311 (2015-11).

連絡先

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