1背景と目的

2015年4月,高野山は開山1200年を迎えました.高野山には,参詣道のひとつとして「町石道」があります.町石道には,「町石」と呼ばれる,高さ3mほどの石造りの道標が180基建てられています.町石には一つ一つ由来があり、

観光地を案内する従来研究として,携帯端末を用い,観光地を自動音声案内する研究があります.これは,現地に機材を設置し,その電波を携帯端末で受信することで,案内を聴くというものです.

町石道の観光案内の困難な点として、町石道は山道であるため,機材の注視や、手元の操作は転倒の恐れがあり危険であることが挙げられます.また、世界遺産であるため,装置や機材の設置も困難です。 そこで本研究では、音声とGPS機能を用いて、高野山町石道を案内します。

2高野山町石道

高野山は、真言宗の開祖である、弘法大師が自身の修行の場として金剛峰寺を開いた場所です。

高野山町石道は、高野七口といわれる高野山の登山道七本のうち、弘法大師によって高野山の開創直後に設けられた参詣道で、慈尊院から高野山へ続きます。 世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部です。

鎌倉時代に「覚きょう上人」というお坊さんが石造の町卒塔婆の建立を発願し、それまで木像の卒塔婆であったものが、現在の石造の町石(図1)になりました。 町石には、建立者や供養された人の名前、建立の由来が彫り刻まれています。 町石は道しるべであると同時に、ひとつひとつが仏様でもあるため、昔は参拝者が一町ごとの町石に手を合わせてお祈りしたといわれています。

現在では、町石の由来を知るためには語り部が必要です。また、石の風化や地形の変化によって、町石が容易に発見できない個所もあります。

五十九町石
図1. 町石

3ぽーたりべの概要

ぽーたりべには、次の3つの特徴があります。

(1) 音声案内

町石道を歩行中,町石に近づくたびに、該当町石の音声案内を自動で再生します。これにより、山歩き中も手を使わずに案内を聞くことができ、端末操作による危険や面倒を解消します。(図2)

(2) GPSで位置比較

町石の位置情報(緯度経度)は、システム内にあらかじめ登録されています。この町石の位置情報と、GPSで取得した利用者の位置情報を比較し、利用者と町石が近いかどうかを判定します。これにより、現地に機材を設置する必要がありません。(図2)

(3) 会話で解説

案内の内容は、ガイドと利用者目線の二人のキャラクターの会話形式です。町石の由来を分かりやすく、楽しく解説します。

利用イメージ
図2. 利用イメージ

4音声案内例

ガイド役の「今村」と、利用者目線の「美聡」の2人の会話で解説します。音声案内の一例を示します。


  • 今村: この町石の建立者は、慶賢(けいけん)という人なんだ。ここで、今村クイーーズ!!
  • 美聡: なっ。なんですかいきなり!
  • 今村: 時々、今村クイズが出るからね!さて、慶賢は、あることで、すごく貢献した人なんだ。では、慶賢が貢献したことは、3つのうちどれでしょうか?1、全国各地をまわり宗教を広めた。2、弟子の育成にものすごく注力した。3、仏典の制作・印刷に打ち込んだ。さて、どれでしょう
  • 美聡: う~ん、たくさんの弟子を育成した2かな?
  • 今村: 残念。正解は3!仏典開発のために版木を制作・印刷に打ち込み仏典開発のために尽力したんだ
  • 美聡: 確かに、簡単に仏教に関する本が作れたら、普及しやくなるもんね!

5利用者と町石の距離比較手法

より確実に、端末に少ない負荷で位置比較をするため、次の4つの手法で利用者と町石の位置を比較しています。

手法1 すべての町石と比較する手法

180基の町石すべてに対し、現在位置との距離を比較します。15m以内に町石があれば、その町石の音声案内を再生します。 これは、システムを起動した直後に、一番近い町石を見つけるための手法です。 180基の町石とすべて比較するのは端末への負荷が大きいため、この手法を利用するのは、はじめの町石を音声案内するまで、 もしくは後述の手法において町石を一定距離判定できなかった場合に限ります。(図3)

手法1
図3. すべての町石と比較する手法

手法2 前後の町石と比較する手法

最後に音声案内した町石の前の後の町石のみ、位置情報を比較します。15m以内に町石があれば、その町石の音声案内を再生します。 「前後の町石」としているのは、登りと降りの両方に対応するためです。 これは、手法1では負荷が大きいために採用している方法です。(図4)

手法2
図4. 前後の町石と比較する手法

手法3 町石間の距離を利用した手法

最後に音声案内した町石の前後の町石のみ、位置情報を比較します。 前の町石から現在位置までの距離が、前の町石と次に到達する候補の町石の間の距離の80%以上で、かつ町石が25m以内にあれば音声案内を再生します。 これは、GPSの誤差により、利用者と町石の距離が15m以内になる前に通り過ぎてしまう問題への解決案です。 町石道は一本道であるため、前の町石からの距離によって、次の町石にたどりついているかどうかを判断しています。(図5)

手法3
図5. 町石間の距離を利用した手法

手法4 判定もれ後の回復手法

最後に音声案内した町石の前後数個の町石に対し、位置情報を比較します。 これは、手法2、手法3で町石に到達したことを判定できず、音声案内をしないまま町石を通り過ぎてしまった場合の対処法です。 また、道から外れている、場所が分散しているなど、変則的な番号で出現する町石への対処も兼ねています。(図6)

手法4
図6. 判定もれ後の回復手法

6デモムービー

発表

  1. 今村美聡, 吉野孝, 児玉康宏, 吉住千亜紀, 尾久土正己: スマートフォンを用いた高野山町石道案内システムの開発,観光情報学会, 第10回研究発表会,pp.17-18(2014-11).
  2. 今村美聡, 吉野孝, 児玉康宏, 吉住千亜紀, 尾久土正己: 山歩きを伴う高野山町石道案内システムの開発と評価, 情報処理学会第77回全国大会,5ZD-03,第4分冊,pp.799-800(2015-03).

連絡先

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