1 背景と目的
三次元仮想空間Second Lifeは,新しいコミュニケーションの場として世界中の人々の間に普及しました.
しかし,Second Life上のコミュニケーションの主要言語は英語で,現実世界と同様の言語障壁が生じています.
そこで,Second Life上に多言語チャット支援システムを構築し,評価する研究を行いました.
2 多言語チャット支援システム
Second Life上での多言語チャット支援システムとして,翻訳チャットルーム,翻訳チャットHUD,多言語講義室を構築しました. Second Life上の土地に図1の建物を構築し,翻訳チャットルームと翻訳チャットHUDの配布システムを内部に配置してシステムを稼働させています.
これらのシステムは,Second Lifeにログインすれば誰でも利用することができます.
3 翻訳チャットルーム
翻訳チャットルームは,部屋型の多言語チャット支援システムです.
SecondLife上に部屋型のオブジェクトが構築されており,中にある椅子に座ってチャットを行うことで,チャット文が自動的に翻訳され,翻訳分と折り返し翻訳文が表示されます.
現在,日本語⇔英語,日本語⇔中国語,日本語⇔韓国語の3つの翻訳言語対ごとに部屋が用意されており,自由に利用することができます.
図2. 機械翻訳を用いたチャットの例 |
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Second Life上の翻訳チャットルームの位置 : http://slurl.com/secondlife/Kyoto%203Di%20Lab2/161/27/41
4 翻訳チャットHUD
翻訳チャットHUDは携帯型の翻訳チャットシステムです.
アバターに装着すると,ヘッドアップディスプレイ(HUD)として画面上に図2のオブジェクトが表示されます.相手の言語,自分の言語を ボタンをクリックして選択しチャットを行うことで,自分自身と会話相手のチャット文を自動的に翻訳します.9ヶ国語のクロス翻訳に対応します.携帯型のため,様々な場所に持ち運んで利用できます.
ユーザ登録Webページでユーザ登録を行うことで,誰でも翻訳チャットHUDを利用して多言語チャットを行うことができます.
翻訳チャットHUDユーザ登録Webページ : http://yoshino.sys.wakayama-u.ac.jp/sl/j/index.html
5 多言語講義室
多言語講義室(図8)は,機械翻訳を利用して多言語での講義を行うためのシステムです. 学生用,講師用の椅子と,プレゼンテーションを表示すためのスクリーンが備えられています. 機械翻訳を利用するためのHUDは9ヶ国語分が用意されており,学生は自分の言語に対応したHUDを装着し講義室内に座ることで,自分の言語で講義を受講することができます.
6 システムの特徴
(1) 機械翻訳機能
機械翻訳機能により,Second Lifeユーザが母国語で入力したチャット文の内容を,相手の言語に翻訳できます. これにより,不慣れな外国語を読み書きする負担を減らすことができます.
(2) 多国語対応
機械翻訳は9ヶ国語のクロス翻訳に対応し,翻訳チャットHUDのインタフェース,使用方法説明パネル,ユーザ登録Webページは6ヶ国語に対応しています.
(3) 折り返し翻訳機能
折り返し翻訳機能により, 入力したチャット文の意図が,翻訳を介して相手に正しく伝わったかを確認することができ,必要に応じて言い直すことができます.
(4) 一方向辞書機能
チャットの際に用いられる特有の表現(省略語など)を,正しい表現とともに一方向辞書に登録しておくことで,翻訳精度を高めることができる機能です.
表1.登録した一方向辞書データの 反映された翻訳結果の例 |
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一方向辞書データ登録ページ : http://yoshino.sys.wakayama-u.ac.jp/sl/trans/dict_edit.php
(5) 対訳辞書機能
機械翻訳が対応していない単語を各言語での翻訳結果と共にあらかじめ対訳辞書に登録しておくことで,翻訳の際に対訳辞書データが反映され,翻訳精度を高めることができます.
表2.登録した対訳辞書データの 反映された翻訳結果の例 |
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対訳辞書データ登録ページ : http://yoshino.sys.wakayama-u.ac.jp/sl/trans/dict_sl_edit.php
7 テレビでの本研究紹介
口答発表
- 池信克也,吉野孝:三次元仮想空間上における多言語チャットコミュニケーション支援, 情報処理学会 第70回(平成20年)全国大会 講演論文集(分冊4),pp.385-386,(2008).
- 池信克也,吉野孝,重信智宏:言語グリッドを用いた三次元仮想空間における多言語チャットコミュニケーション支援システムの構築,第7回情報科学技術フォーラム,第3分冊,pp.421-422(2008).
- 池信克也,吉野孝:三次元仮想空間における多言語チャットコミュニケーションのための対訳辞書作成システムの構築,人工知能と知識処理研究会,AI2008-59,pp.85-90 (2009).
受賞
情報処理学会 第70回(平成20年)全国大会 学生奨励賞 受賞
題目「三次元仮想空間上における多言語チャットコミュニケーション支援」
- 関連Webサイト -
- 社団法人情報処理学会 - 全国大会 学生奨励賞69大会,70大会
http://www.ipsj.or.jp/10jigyo/taikai/local_award/03.html - 和歌山大学 - 研究活動に関する受賞実績|学生の活動|デザイン情報学科
http://www.sys.wakayama-u.ac.jp/di/activities/research/award2008_3.html
メディアでの紹介
- THE SECOND TIMES:和歌山大学、Kyoto 3Di Lab内にて多言語翻訳「言語グリッド」の実証実験を開始
http://www.secondtimes.net/metaverse/spot/20080317_wakayamauni.html - IT PRO:世界中の人と日本語で話せる!?NICTが「言語グリッド」紹介
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080318/296423/ - 和歌山大学、Kyoto 3Di Lab内にて多言語翻訳「言語グリッド」の実証実験を開始。:ナスコ株式会社
http://www.nasco-sys.co.jp/3/news_detail.html
連絡先
- 池信 克也:s105003 at sys.wakayama-u.ac.jp
- 吉野 孝:yoshino at sys.wakayama-u.ac.jp
本研究は,情報通信研究機構(NICT)の言語グリッド(Language Grid)プロジェクトとの共同研究です.
NICT 言語グリッド : http://langrid.nict.go.jp/jp/