背景と目的

防災意識の向上や自分の住んでいる地域を理解することを目的とした,まち歩き型の防災マップづくりが日本各地で行われています. 防災マップづくりは,参加者の防災意識の向上に貢献することが確認されているため,地域コミュニティにおける自助,共助の能力向上が期待できます. 防災マップづくりを支援するシステムはありますが, まち歩きによる情報収集,防災マップづくりおよび発表までの,一貫した支援が可能なシステムは提案されていません.

そこで,本研究では,まち歩き型の情報収集に対応した防災マップづくり一貫支援システム「あがらマップ」の開発しています. あがらマップの利用した防災マップづくりにより,効率的な防災マップづくりができることを目指しています.

あがらマップの防災マップづくり支援

あがらマップの「一貫支援」とは,まち歩きをしながら防災情報を収集し, まち歩き後に防災情報を整理して,避難経路などの情報を追加してまとめて, 発表まで行うことを指します(図1).

まち歩き時は,登録機能を使って各自の所有するスマートフォンやタブレットで防災情報や写真を登録します. 追加情報がある場合は,口コミ機能を使って追加情報を登録します. 防災マップづくり時は,編集機能を使って既に登録した情報を修正したり, 登録機能で避難経路を登録したり,まち歩きのときに入力できなかった詳細情報を口コミ機能で登録したりします. その後に,作成した防災マップを利用して発表を行います.

あがらマップの防災マップづくり支援
図1. あがらマップの防災マップづくり支援

あがらマップ

あがらマップの「あがら」は,和歌山弁で「私たち」という意味があります. あがらマップというシステム名には,東日本大震災以降に重要視されている「共助」において, 「自分の住んでいる地域の防災マップを,私たち自身でつくろう」という意味が込められています.

図2に,あがらマップのシステム構成を示します. 本システムは,WebGIS の中でもブラウザ上で動作する HTML5 および JavaScript を使った Web アプリです. サーバ側は,PHP,PostgreSQL( PostGIS )による防災情報サーバと ArcGIS Online サーバから構成されています. ユーザが防災情報を登録すると,防災情報サーバに保存されます. 防災情報サーバから送られてくる防災情報,ArcGIS Online のサーバから送られてくる地図データは, ArcGIS API for JavaScript を介して,ユーザの端末の ArcGIS Online のマップ上に表示されます. Web アプリはブラウザがあれば動作するため,スマートフォン,タブレットおよび PC のどの端末でも動作します.

あがらマップのシステム構成
図2. あがらマップのシステム構成

あがらマップの機能

(1) 防災情報の登録機能

登録できる防災情報としては「目印」「ライン」「領域」「テキスト」の4種類があります. 「目印」「ライン」「領域」は,「防災情報の名称」および「登録者」, 必要な場合は写真を追加することで防災情報が登録されます.

図3に,マーカの登録例を示します. 登録できるマーカは,AED の他にも危険箇所や防火水槽などがあります.

マーカの登録例
図3. マーカの登録例

(2) 口コミ機能

ユーザ自身もしくは他のユーザが登録した防災情報に対して, 写真やコメントなどの追加情報を登録できます.

図4に,口コミの登録例を示します. 登録された口コミは,タイムライン形式で表示されます.

口コミの登録例
図4. 口コミの登録例

(3) その他の機能

  • 現在地表示機能:ユーザが現在地を探す手間を軽減
  • ハザードマップ重畳表示機能:その地域で災害が起きた場合の被害をわかりやすく提示
  • 標高表示機能:特に浸水の可能性を知るために利用
  • 編集機能:登録した防災情報を修正

参考文献・発表

  1. 榎田宗丈,福島拓,吉野孝,杉本賢二,江種伸之: まち歩き型防災マップづくり支援システムの提案,マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2017)シンポジウム,pp.1721-1732(2017).
  2. 榎田宗丈,福島拓,吉野孝,杉本賢二,江種伸之: まち歩き型防災マップづくり支援システムの利用による防災意識への影響,情報処理学会関西支部 支部大会,G-27,pp.1-6(2017)
  3. 榎田宗丈,福島拓,吉野孝,杉本賢二,江種伸之: まち歩き型の情報収集に対応した防災マップづくり一貫支援システムの提案, 情報処理学会論文誌,No.59,Vol.3,pp.992-1004(2018).

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