取材者
森将也
経済学部ビジネスマネジメント学科1回生
*今回の取材は、経済学部「現代社会実践論―業界研究―」の授業にて清水さんの講演を拝聴した後行わせて頂いたため、記事中そのことを前提の上お話している場面がありますが、ご容赦ください。
◆和歌山大学経済学部に入学されたきっかけは何ですか。
私は大阪府立生野高校出身なんですが、高校2年生の時に父が舌癌にかかってしまい結果的に父は助かったのですが、その影響で母から私立大学には行かせれないといわれていました。入試では国立旧一期校に滑ってしまい、私学では滑り止めで受けた同志社大学と関西学院大学に受かったのですが、最終的に国立旧二期校の和歌山大学にきたというわけです。
それでも国公立大学に行きたいという願いがかなったので、合格したときはうれしかったですよ。
◆私が以前、和歌山大学研究集会というものに参加したときに出席されていた文部科学大臣官房審議官の小松親次朗さんが、現在の和歌山大学の中に“所詮自分は和歌山大学生だから”というような思いで学生生活を送っている学生が大勢いることをもったいないとおっしゃっていました。このことについて清水先輩はどのように思われますか。
私も先ほど就職支援課の先生方からそのような事例を聞きましたが、自分で自分の枠を決めてしまう、これは好ましいことではないと思います。どの人も成長する可能性を持っているんです。それなのにそれを初めから自分で抑え込んでしまうというのは、個人にとっても国にとってもとてももったいないことですね。可能性というのはそれなりに無限大なんです。やはりチャレンジ精神というのは必要なんですね。
◆学生時代の思い出や取り組まれたことを教えてください。
私は当時写真部に入っていましたが、父親の病気のこともあり奈良からの通いであまり時間もなくそれほど部活を頑張ったというようなことはありません。それ以外にもぶらくり丁を歩き回るというようなこともあまりしなかったですし、どちらかというと真面目な学生であったかなぁと思います。取り組んだこととしては、英語の勉強をかなり真面目にしていました。(清水先輩は事前に行われた講演で、商社マンになるために英語の勉強を頑張ったとおっしゃっていた。)
◆先ほどの講演で清水先輩は、商社マンを父親に持つ英語の先生に影響され、ご自身も商社マンにあこがれたとおっしゃっていましたが、その思いは大学生まで変わらなかったのですか。また、学生時代の就職観はどのようなものだったのか教えてください。
そうですね。商社マン一筋でした。頑固と言うか、ませていたというか・・・。海外に行きたかったんですね。中学校時代から就職先を決めていたというのは珍しいとは思いますが、私はそうでした。そしてそのために英語の勉強を頑張っていました。
でも商社しか受けなかったというわけではないですよ。松下電器や、三和銀行、第一勧銀、富士銀行など10数社受けました。そして結果的にすべて受かったんですが、私は商社に行きたかったので順番に断わっていき、最後に伊藤忠商事と丸紅が残ったんです。でもこの2つは迷いました。答えは最後まで出ず、いよいよ当日の朝になっても、私は大阪本町の駅でどちらに行こうか迷っていました。結局私の足は丸紅のほうに向いて行ったんですが、これは当時私が既に結婚することを決めていて、その女房のいとこが丸紅にいたからなんですね。後に伊藤忠の人事部長から電話がありまして、かなり怒られました。
学生時代の就職観は極めて平均的で普通でした。大企業で安定したところにサラリーマンとして勤めるのがいいかなぁと。
◆丸紅に入社されてからのギャップなどはありましたか。
やはりないことはないですね。入る前は誰でも仕事の内容に関してイメージだけしか持っていないですし、でも入ってしまえばこんなもんかなぁとも思いますよね。厳しいところもあればほんわかしたところもありますが、どこの会社に行ってもこれは同じだと思います。
しかし商社に30数年勤めていて海外勤務などもしていると、他の業界のことはよくわかるようになります。どの人も自分の企業文化は当たり前だと思うようになるようなのですが、中には驚くような文化の企業もありました。たとえば出張手当が出ないとか・・・。
◆入社されてから心に残っている出会いや転機などありましたか。
当然あります。30年以上いると、いいことも悪いこともたくさんありました。最初の海外駐在でニューヨーク赴任の際の話です。前任者は後任者より一般的に5歳前年上なのです。これは5年程度駐在すれば同じ年齢層で人事を廻せるからという配慮からです。しかし私のケースは例外的で前任者は私の一回り以上歳上の管理職であった為、(通常、管理職は多くの顧客を抱えている訳ではないので)引継をしてくれなかったのです。これは苦しかったです。げっそり痩せました。しかも上司は陸軍士官学校出身の方でとても厳しかったんです。昼間に契約書を書いていたときや、たまたま電話のベルを3回以上ならしてしまったのを見つかった時はかなり怒られたのを覚えています。他にも私は繊維部門でしたので営業時間中にデパートに視察に行ったんですが、それを報告すると「そんなもんは自分の休暇中にしろ」とまたまた叱られたりと徹底的にしごかれました。でも最後にはよくやったとほめてもらえ、大変うれしかったのを覚えています。本当の意味での愛の鞭ですね。
その駐在も後半になると慣れてきて非常に楽しかったですね。80年代当時アメリカで大変人気のあったRALPH LAURENというブランドの商売は私が始めんたんですが、朝から晩までRalph Laurenさんの事務所に通いそこにいる人たちと話をするんです。当時業界ではRalph Laurenに一番近い日本人と言われていましたが、何を話すかというと商売のかたぐるしい話ではなくて、野球やアイスホッケー、映画などの話をするんです。そしてそこから彼らの信用を得ていき、情報や商談をとっていくんです。商売というのは商品を売るのではなくて、まず自分を売ることから始めるんですね。
そのことはどこの国に行っても、同じです。所詮人間同士の信用なんですから。アメリカ人もウエットです。人見知りもしますし、どうせ商売するなら居心地のいいやつとしたいと思うんですね。中東に行っても、欧州に行ってもそうです。
◆今年の3月までドラマも放送されていた山崎豊子さん作の「不毛地帯」という小説は商社を舞台にしていますが、現実でもあのような世界なのでしょうか。
あのドラマは伊藤忠商事元会長の瀬島隆三さんをモデルにしているといわれているように、非常に個性が強くて会社で権限を持った人間だからこその世界であると思います。嘘ではありませんが、現実的には商社だからといってふつうのサラリーマンと何も変わりません。
◆若いころから仕事を任せられることはありますか。
結構任されることはあります。いい提案をすれば聞いてくれますし、筋が通っていれば採用してくれます。しかし私はそれで大きな失敗をしたことがありますが、失敗しなければ進歩はないですし成功もしません。
◆経済産業省が提唱している社会人基礎力の中であえて重要な力を選ばれるとすればどれだとお考えですか。
すべて大切だと思いますが、あえて選ぶとすれば実行力だと思います。それは商社だからこそではなく一般的にそうだと思います。主体性や働き掛け、創造力、計画力がないとまず実行に移すことが出来ないんですね。最終の終着点は実行力であると。いくら言い訳出来ても実行していなければ何の筋もとおらない。たとえ失敗しても結果を残す過程が重要なんです。失敗すればそれを反省し、次につなげればいいのだから。まずは踏み出すということが大事なんですね。
◆企業として求める人物像はどのようであるとお考えですか。
基本的に企業であれ、役所であれ求める人物像は同じであると思います。先にも言った実行力もそうですし、何より個性のあるとがった人材が求められています。面接官をしたこともありますが、少しの間しゃべっただけでその人の本当の能力なんて分かりません。その時になんとなく人間的魅力がありなびかされる、そういう人材を会社は求めていると思います。それは単に話が上手いとか言うだけのものではありません。
◆清水さんの商社マンとしての心入れはどのようなものですか。
やはり信用ですね。取引先の相手から信用されていれば、自然と商機はついてきます。ニューヨーク駐在時の体験で喋りましょう。合繊でいうと東レや帝人といったメーカー、綿紡績でいうとクラボウや東洋紡というメーカーが毎年シーズンになるとやってくるんですが、そういったときに誠心誠意付き合っているといざという時に大事な情報を教えてくれたりするんです。それはとても大事なパイプです。そうして自分も相手に色々な情報を教えたりしていると、そのパイプは太くなっていきやがて大きな信用となるのです。これはもう財産ですね。
◆学生に薦める書籍があれば教えてください。
日本人と外国人の大きな違いに、宗教があります。これは外国人を理解するのに非常に重要です。その点で曽野綾子さんの『失敗という人生はない』をはじめ、彼女の本がお勧めです。彼女はクリスチャンで、キリスト教による宗教観をバックにしたゆるぎない精神を持っています。日本人が読めば感心するくらい、明確に自分の意見を出されます。別にそれに共鳴する必要はないのですが、こういう考えもあるのだということを理解しておくのは重要だと思います。幅を作っておくべきですね。少なくとも私はその根性の座り方にいつも感銘を受けるんです。それに宗教や文化の価値観の違いを通じて物を見ないというのが日本人が外国人とおおきく違っているところですので。
欧米人は規律を恥とはとらえず、罪ととらえるんですね。たとえば欧米では離婚なんて日常茶飯事ですが日本人は家庭内離婚が当たり前です。世間体を気にするんですね。欧米人のほうがよっぽど自分に正直なんですね。
◆後輩に向けてメッセージをお願いします。
自分の可能性を閉じ込めるなということですね。自分を高めるということを日々継続してやるべきなんです。何事にも問題意識を持ち自分を磨く、これに尽きます。これは誰にでも出来ますし、今のうちにやらないともったいないですね。
◆最後に清水さんが仕事で失敗してもくじけず、前に向かって努力されてくることができた信念などあれば教えてください。
この答えは本当に難しいと思います。仕事が忙しいというのもあるのですが、その失敗の原因を自分の中で見つけ出ししっかり忘れないということ、これをしているといつまでも過去ばかり振り返ることなしに前を向いて頑張れると思います。ある程度の楽観主義や心の切り替えは重要ですね。引きずることはよくないです。
《取材の感想》
今回の取材で、私は清水さんの2つの信念を学ばせていただいたように感じることができました。それは相手から信用を得ることの重要さと、行動力の大切さ。清水さんはインタビュー中ご自身の体験談からしきりにその重要性を説かれていて、特に行動力に関しては私の心に強く響くものがありました。
そもそも私がこのプロジェクトに参加しようと思ったのは、より多くの優秀な社会人に触れ少しでも自らの人生に活かしたいと思ったから。まだまだ未熟な私はこのインタビューからさまざまなことを学び、感じることができました。そしてこれから、その教えを活かし人生に役立てていければな、と思っています。今回は貴重なお時間を頂き、本当にありがとうございました。
取材日:2010年11月11日(木)
時間:3:00〜4:00
場所:和歌山大学
取材同行・写真撮影・記事編集:日高悠真(経済学部4年)・石橋開仁(経済学部4年)
以上