大家統吾先輩
株式会社池田泉州銀行
人事部 調査役(取材時)
リスク商品事務部 上席調査役(現在)
1995年泉州銀行入社、10年間の営業を経て現職。
経済学部 経済学科 43期卒業
和歌山大学 経済学部
経済学科
43期卒業
企業サイトURL:http://www.sihd-bk.jp/
取材者
中本達也
経済学部 経済学科 4年生
本日はお忙しい中、貴重な時間を割いていただき、ありがとうございます。いろいろ質問させていただきますが、よろしくお願いします。
―和歌山大学に入学したキッカケを教えてください。
高校の時、担任をされていた先生が国公立大学をしきりに薦める方でした。その先生の話に魅了された事が和歌山大学を選んだ大きな理由です。その先生は私立のマンモス大学出身で、大学へ行くなら、生徒が何千人何万人いる私立よりも、少数制鋭でしっかり学問に専念できる国公立がいいとおっしゃっていたのです。しかもそれは地方の方がなおさらであり、のんびりとした雰囲気でしっかり腰を据えて勉強ができることを伺いました。その話に魅了され、地元大阪の私立校よりは国公立校へ行きたいと考えたのです。合格した大学が先生に魅せられた地方国立大学という事もあり、和歌山大学を選びました。
―学生生活ではどのような事に取り組まれていましたか?
力を入れていたのはサイクリング部の活動です。私は高校ではクラブに所属しておらず、経験の要らないクラブに入部したいと考えていたのです。それに加え自転車で旅をするという、学生時代でないとできない事にとても魅力を感じました。当時部員は40〜50名おり、とても和気藹々としたクラブだったように思います。入部してからも先輩や同回生、そして後輩たちの人柄がよく、そんな気の合う仲間達と自転車で旅ができるという事にも魅力を感じました。またサイクリング部には気の合う仲間を集め旅へ出る、ツアーと呼ばれるイベントがあります。私はツアーを通じて北海道や東北、四国、九州、信州と多くの場所を旅しました。しかしそのような旅は決して楽しい事ばかりではありません。道中は何日もの間が野宿生活ですし、体力的にも精神的にもタフでないと自転車が嫌になるのです。またこの時代に車で旅に出るのではなく、自転車で旅に出ることが何になるのだろうという葛藤を感じた事もありました。しかし峠や山の頂上まで自転車をこいで登り、そこから見える絶景を目にした瞬間の感動や、この山を征服してやったという達成感は、何物にも代えられない物となるのです。その想いを大好きな仲間と共有できることがとても素晴らしいと感じました。それらを体験できたことがサイクリング部へ入部して本当によかったと思うポイントです。今でも当時の同回生やお世話になった先輩とお会いする機会はありますが、昨日の事のように話が盛り上がりますよ。
―クラブの中で苦しい事はありましたか?
クラブで主将を任されてからの一年間です。それ以前は部員としてクラブを純粋に楽しんでいました。しかし幹部としてクラブを引っ張っていく立場となり、部員との間に意識の差を感じるようになりました。自分はこんな良い仲間と旅が出来る事が素晴らしいと感じているのに、人によってはそれを感じていない事に気付いたのです。つまり他の部員はクラブ以上にアルバイトや学業を優先させたいと考えていたのです。その事が原因で、クラブが面白くないとさえ感じたこともありました。しかし色々な行事の中で人間とは、それぞれ価値観やモチベーションがあり、それを変えていく事は難しいのではないかと考えるようになりました。互いに議論して、相手を打ち負かし、意識を変えてもらえるのでなく、共に考え理解することで、人を認める事の大切さに気が付いたのです。以前は純粋にクラブを楽しんでいましたが、運営をしていく中で、大切な事は互いを理解し、話をしていく事なのだと考えるようになりました。それにより問題が解決したわけではありません。しかしクラブを嫌う気持ちは払拭されました。そしてサイクリング部とは多くの価値観を持った人間の集団だと思えるようになり、改めてサイクリング部が好きになっていきました。
―当時の就職観について教えてください。
そうですね、当時は経済学部だから金融というイメージや、お金を扱うビジネスはかっこいいというぼんやりとした考えしか持っていませんでした。しかし就職活動は真面目にやりましたね。金融に限らず、メーカー、商社なども廻りましたよ。企業セミナーやOB訪問、企業の人事の方に直接お話を伺う機会も幾度となくあったように思います。そしていろいろな業界を比較していく中で、金融業は面白いと考えるようになりました。銀行は個人、法人問わず多くの人と関わることができます。個人で言うと通帳を持つ方全てがお客様であり、法人であれば、企業の経営者と直接お会いし話をする機会が多くあります。銀行員はその企業の財務内容や経営戦略に密に関わっていくので経営者やオーナーと信頼関係を構築し話を進めていかなければなりません。またそれは銀行と取引をしていただいていると同時に私自身と取引していただいていることでもあります。そのことが大変面白いと感じ、最終的には銀行に就職したいと考えました。また私自身が大阪出身という事もあり、大阪で仕事がしたいと考えていました。当初は全国転勤も考えていたのですが、就職活動をする中で、やはり関西に残り仕事がしたいと感じるようになり、地元の地方銀行に決めました。
−当時はどのような就職活動をされていたのですか?
当時は今のようなパソコンはなく、ハガキで資料請求をしていました。そして資料と共に送られてくるハガキを、また企業へ送り返すというやりとりをしていると企業から電話があり説明会へ呼んでいただけるのです。まさにアナログの時代でした。今考えれば採用側も大変だったのではないかと思います。現在の就職活動と決定的に違う事は学生が持つ情報量です。インターンシップなど、現在では多くの情報を得る機会がありますよね。当時の私たちはそのような機会は今と比べるとほとんどありませんでした。しかしそれが悪い事なのかは一概には言えません。結局自分が納得できるかどうかであり、今は、情報量が多すぎるあまり情報に踊らされ企業を選ぶことができないという学生も多いように思います。当時、会社説明会などにも行きましたが本当に真剣になったのは筆記試験や面接段階になってからでした。当然不合格の会社も沢山ありましたよ。やはり選考となると緊張するし、気合も入りました。面接で何を話していたかは覚えていないですが、クラブ活動の事をしきりにアピールしていたと思います。企業へのエントリー数はweb化している、今と比べるとかなり少ないと思います。何しろ手書きですから・・・。
今、新卒採用の仕事をしていて感じる事は、学生の就職活動に対する意識が二極化しているように思います。就職活動をしている人は、とことんやっていますが、やらない人はとても軽く考えています。面接で学生時代の経験などを聞くと分かるのですが、多くの事へ挑戦し、活き活きと輝いた学生生活を過ごしている学生と、そうでない学生との落差が大きいと思います。学生時代のエピソードを面接のテクニックでカバーしようと思っても難しいと思います。面接で話すネタの為に何かに取り組むのは本末転倒ですが、学生時代に何かにチャレンジし、目的を持って過ごすことは後々の人生にとって有益ではないかと思いますよ。
―入社してからの出会いや転機はありますか?
私は入社して最初の10年間は営業店で主に外回りの営業の仕事をし、その後5年間は人事部で働いています。入社して間もない頃、私が担当させていただいていたある企業の社長から「事業をやめようと思っている」との相談を受けました。事業資金の運用や調達あるいは財務諸表に関する研修は受けていましたが、「事業をやめる? そんな事は研修で習ってないぞ!」と心の中で呟いたのですが、お客様は、銀行員としての情報や意見を求めていらっしゃいました。結局、不動産を売却し、その資金で借入金を返済。取引先や従業員への理解を経て廃業されました。当行との取引が長かったこともあり、最後に社長から「ありがとうお世話になったね。」と言われました。この仕事は個人・法人問わずその人の人生に大きく関わる仕事であり、またお金を扱う仕事であるため、絶対に手を抜いてはいけないのだとその時感じました。銀行とは人生の節目に関わる機会が多い仕事です。個人のお客様ですと家を買う、車を買うなどのライフイベントに関わっていきます。また、法人なら創業や上場等にも関わっていくのです。このことは、私にとってとてもやりがいのあることだと思います。ただしその分 責任感も必要ですし勉強もしなければなりません。いつかを境に考え方が変わった訳ではないですが、様々なお客様と接する中で、少しずつ社会的な責任の重さを感じると同時にやりがいを感じるようになってきたんだと思います。
また最近の話では、人事部で新卒採用の仕事に携わる中で、たくさんの学生と接しじっくり話しを聞き、銀行の仕事についての面白さや魅力について話をする事はとても重要で責任のある仕事だと感じます。人生の岐路に立とうとしている学生にとって面接は真剣勝負です、真剣に自分の将来について考える真摯な姿勢に思わず襟を正すこともあります。ピーク時は毎日たくさんの学生と接しヘトヘトになりますが手は抜けないです。当行に入行するしないに関わらず、学生さんも私たちにとってはとても大切なお客様ですから。
―企業が求める人材像を教えてください。
企業が求める人物像ではないですが、私が一緒に仕事をしたいと思える人は「アンテナの高い人」です。営業力がある人と言い換えてもいいかもしれません。アンテナの高い人とビジネスをすると、年齢、性別、社内、社外に関係なく一緒に仕事をしていて楽しいと思います。そんな人が職場にいれば雰囲気もいいですし、モチベーションも上がります。一般的に営業力と言えば、良く気がつく事、熱心である事、性格が明るい事、提案力がある事、アイデアが豊富である事、モチベーションが高い事、人の名前をよく覚える事等。色々ありますが、全てが備わるスーパーマンみたいな人は存在しないと思いますし、当然私にも備わっていません。私が言いたいのは、今言った力を伸ばしていく意識、感覚を持っている人が「アンテナの高い人」ではないかと思います。社会に出て、様々な人に出会い、コミュニケーションをとる内にアンテナが高ければ高いほど営業力が磨かれていくのだと思います。 面接でも、業種にもよりますが、ある程度「アンテナの高さ」を見ています。学生時代どんな事を頑張ってきたかを質問し、その答えの中からこの人は物事に対しどんなモチベーションで取り組み、どのくらいの持続力で、どのように周りに働きかけてきたのか等を見ているのです。逆に残念だなと思うのは、こちらの話を全く聞かず、一方的に話をする人は「アンテナが低いな」と感じてしまいます。面接は会話をする場であり、スピーチをする場ではないですからね。
―面接の時、どのような話に心を揺さぶられますか?
面接で心を揺さぶられるのは、話の中でリアリティを感じる時です。経験の大小の問題ではなく、学生時代の経験の中で仲間とどのように関わってきたのか、どのような努力をしたのか、それがどう今の自分に活かされているのか、といった事が熱意と共にリアルに伝わった時に心が揺さぶられます。そんな人の話を聞いているとき、思わず引き込まれてしまいます。それはテクニックではありません。その体験の中で自分なりにどう工夫をしたのか、どのようなアンテナを張り巡らせていたのかが伝われば、面接官もついうなずいてしまうのです。
―いろいろあると思いますが、社会人基礎力の中で重要な要素を教えてください。
そうですね、私は社会人になって16年目ですが、その時々で必要な力は変わってくると思います。また担当する職務や職位によっても違います。現在は営業職を経て本部の職務に就いていますが、ここで必要だと感じる力は計画力、提案力、考える力、ですね。しかし例えば、職位が上がるにつれて今度はマネジメント力が重要になってきます。また、営業の時は、前に踏み出す力、まず自分でやってみる力、実行する力などの働きかけていく力が重要です。銀行の仕事は一人だけでできる仕事ではありませんからね。お金を貸す権限を担当者が有している訳ではないので、支店長や本部へも働きかけ自ら行動していかなければなりません。そういう意味では働きかける力は重要でしょうか。しかしだからと言って、考え抜く力が不必要なわけではありません。当然実行力も、チームワークも、ストレスに耐えに抜く力も必要です。要は全ての要素がバランス良く必要だと思います。 意識的に鍛えようとしても難しいと思います。その時々で真摯に仕事に向き合う事によって培われるものだと思います。
―学生に薦める書籍があれば教えてください。
そうですね、実は薦める書籍というものは特にないんですが本を読むのは好きですよ。新書や、歴史小説をよく読みます。小説を読んでその世界に没頭する感覚がとても好きで、人と会話をするという体験を擬似的に小説の中でできるところが魅力です。本で得た事を自分の中に落とし込み、実際に人と会話する時に発信していく事が自分の成長の肥やしになっているようにも思います。ただし、本の経験はあくまで擬似であって、実際の体験とは違いますので、本から得た知識で本当に心に残っているものはそれほどないように思います。ですから薦める書籍はないんです。実は、本を読む習慣がついたのは社会人になってからで、学生時代に本をあまり読んでなかったのです。だから国語は苦手だったように思います。読むスピードも遅く、今でもコンプレックスに感じています。社会人になって読む習慣がついたきっかけとなった本は、司馬遼太郎さんの作品です。何が面白いのかと言うと、すごくリアリティがあるのです。作者が生きていない時代の話なのにまるでその場にいたかのように書かれています。頭の中で映像が自然と浮かんできます。「本の面白さってこれか!」と開眼しました。私はそれをきっかけに様々な本を読むようになりました。実際に読書が自分にとってどれ程有益かどうか分かりませんが、読む習慣がついた事はよかったかなと思います。
―学生に対し、エールやアドバイスがあれば教えてください。
新卒採用の仕事をし、多くの他大学の学生と接して感じることですが、和歌山大学は‘地方の大学なのだな’と思いますね。一方ではのんびりと学生生活を満喫できる本当に素晴らしい大学です。しかし他方では刺激の少ない一地方大学に過ぎないのです。同じ世代の他大学の学生で、もっとアグレッシブに活動している学生はたくさんいます。もっともっと外へ出て行く事、例えば、サークル活動を通じて他大学と交流する、または海外に出て学生時代しかできない事にチャレンジするなどです。実際このような学生生活を送っている和大生もいるとは思いますが、機会があれば和歌山大学の枠から飛び出し様々な刺激を受けて欲しい。確かに和歌山はよい場所ですが、もっといい場所は他にもたくさんあります。他にもすごい奴がいる事を前提にいろんな刺激を受け高め合っていってほしいと思います。こんな事を言うと母校の後輩達に怒られるかもしれませんが、他大学と比べたとき、和歌山大学の学生は大人しく、消極的だと思います。母校の学生に頑張って欲しいから期待を込めて敢えて厳しく言いたい。「もっと外へ出ろ」と。
本日はお忙しい中、お時間を頂きありがとうございました。
―取材感想
『銀行の仕事は絶対に手を抜いてはいけない』という言葉がとても印象的でした。
お客様のライフイベントに関わる仕事である事の重み、そしてそのやりがいと責任感を強く感じました。また大家先輩のお話を伺い、何事にも熱意を持って行動することの大切さに気が付きました。しかしそれは日常生活においても同じ事なのだと思います。たとえ小さな事であっても熱意を持って行動する。それが充実感や、達成感に繋がり、自分を成長させていくのだと感じました。
金融業界は私自身がこれから関わっていく業界です。多くの人と関わっていく中で、熱意をもって行動し、社会人としてこれから活躍していきたいと思います。本日は貴重なお時間を過ごさせていただきありがとうございました。
取材日:2010年9月16日(木)
時間 :15:00〜17:00
場所 :池田泉州銀行 本店営業所
取材同行・写真撮影・記事編集:
中本達也(経済学部4年)・小松優人(経済学部3年)