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上野山実先輩
パナソニック株式会社
常務取締役
1975年松下電器産業株式会社に入社。取締役を経て、2010年より現職。
和歌山大学 経済学部
経済学科
23期卒業
企業サイトURL:http://panasonic.jp/
取材者
川崎競平
和歌山大学経済学部2回生
本日はお忙しい中、貴重な時間を割いていただき、ありがとうございます。いろいろ質問させていただきますが、よろしくお願いします。
―まず、和歌山大学に入学された動機やきっかけについて教えてください。
実家が和歌山で、生まれてから大学卒業までずっと和歌山にいました。昭和28年生まれで、当時、家が貧しかったです。4人兄弟で私は3番目。兄も姉も中学出て高校には行っていなかった。当時は今と環境が違って高校に行く人も多くありませんでした。私は高校にも行きたかったし、大学にも行きたかった。そこで、親に迫ったところ、大学に行くなら、生活が大変だから和歌山の家から通いなさいと。そして、授業料のお金は自分でアルバイトして稼ぎなさいと言われました。なので、高校2年の時にそういう大学は和歌山大学しかないと決めたのです。経済学部の受験科目は国、数、英の3科目しかなかったので、その勉強に集中して試験を受けました。頑張って勉強したのですが、試験を受けた時にあまり試験の出来が良くないように感じ、もうこれは落ちたと思っていたのですが、幸い合格していました。
―大学時代にどのようなことに力を入れて活動されていましたか。
大学に入学して、家計上アルバイトをしないといけない状況でしたが、授業にはまじめに出席していたので、2年生で必要な単位はほとんど取り終えていました。クラブは1年生からマンドリンクラブに入部して、これは4年間熱心に続けました。ゼミは小野先生の国際金融論で金融関係に興味を持っていました。
アルバイトは本当に色々なことをしていました。アルバイトで一番印象が深いのは、1年半続けた紀ノ川の近くにある気象台での仕事です。電話の117番の天気照会に対する応答のテープの吹き込みです。毎朝5時半に行き、正月も休みもなしに雨が降ろうと何があろうと気象台に行かなくてはならなかった。行ったら宿長さんが1人いてその方がアドバイスをしてくれて、天気図を見て気圧などを自分で書き入れていくのです。晴れとか曇りとか波の高さは最初から作ってくれているのですが、天気図を見て自分で文章を書かなくてはならない。それを見てもらってOKをもらえたら、回転テープに吹き込んでいく。それがとても面白かったですね。そういう経験が就職活動に役立ちました。
―就職についてはいかがでしたか。
私の家は、ナショナルショップ店でした。休みに昼夜問わず修理などの電話がかかってくるし仕事の時間が不定期で決まっていない、私はそういう生活が嫌でした。なので、私は決まった時間にスタートして決まった時間に休むことができるサラリーマンになりたかったのです。それと就職したら和歌山から出たいというのがありました。
私は国際金融論をやっていたから、就職活動は銀行にばかり訪問しました。大阪をずっと歩いて就職活動をしたが、全然決まらなかったのです。そして最後に残ったのが住友銀行(現:三井住友銀行)だったのです。面接をこなし、試験を受けたら通ったのです。
そこで、何故松下に入ったのかという話になるのだけれど、先程言ったように家がナショナルショップ店だったので、松下を受けたらという薦めがあって。両親がいうからと当時は落ちる覚悟で試験を受けた。そしたら内定したのです。私としては銀行に行きたかったのですが、両親から説得され、家が店をやっていることもあり、最後まで迷ってパナソニックを選んだ。銀行だったら途中で終わっていたかもね。今はメインバンクが三井住友銀行だしね(笑)。縁があるのかな(笑)。
―当時は不本意だったのですか。
まぁ、自分の気持ちとしてはね。しかし、入社してからは良かったと思います。
私は、就職は本人が望む業種に行くのが一番いいと思いますが、私は自分にとって、メーカーがあっていると思います。面白味という面でメーカーはいいと思いますよ。というのも商品を作って価値を生み出せるじゃないですか。商品をお客さんに買ってもらって、それで生活に役立ててもらって、満足してもらえる。ところが銀行は、預かったものに利子をつけて利ざやで回収しているというイメージがある。付加価値を生んでいるというイメージがあまり無いのです。私が結果として今言えるのは、メーカーに行って良かったと思っていますし、お薦めできるのではないかということです。
―今までどのようなお仕事を担当されてきましたか。
入社してから経理です。パナソニックの経理は結構役割があって事務屋ではないのですよ。普通、経理というのは帳簿をつけて、そして決算書を作って、国なり税務署に申告して終わりといった事務的なものなのです。ところがパナソニックの経理業務は普通の経理と違い、決算書を作った後、どの事業の業績が良く、どの事業の業績が悪いかを分析し、問題点と、対策をたて、トップに具申する役割を持っているのです。だから重要な仕事で、非常にやりがいがあります。
―その中で一番大きな出会いや転機は何でしょうか。
誰でもそうだけれど、入社して3年ぐらいすると、壁に打ち当たることがあります。私は今、入社して35年目になりますが、一回だけ本気で会社を辞めようと思ったことがあります。入社してから3〜4年した頃、仕事が上手くいかず上司から怒られる日々が続き本当に悩みました。しかし、その時、違う部署に変わり、上司から、経理の考え方や、松下の考え方を丁寧に教えてもらいました。その上司に出会ってから、自分に自信が持てるようになり、また仕事も上手く回転しだしました。そのような人との出会いは非常に大切です。
もう1つの転機は、2000年に経理会計のコンピューター化をはかるシステムを作り上げる部署のプロジェクトリーダーになったことです。この仕事は、今までの仕事と、全く違ったもので大変勉強になりました。経理から10名、情報システムから10名、残りの180名はソフトウェア会社の外部メンバー、多いときは200名に上り、とにかく0から作って350拠点に新しいシステムを導入しなくてはいけなかった。それを予定通り約1年半かけて完成する事が出来たのです。この仕事を通じて、仕事の進め方というものをつかんだ感じがしました。まぁPlan-Do-Check-Actionですね。これがやっぱり大切な事だと実感しました。
―企業としてどのような学生を必要としていますか。
パナソニックの新入社員にも話していることですが、一番大切なことは、まず姿勢として受け身にならないことです。受け身になることは、指示待ちになるということで、悪く言うと、「考えない」・「意見を言わない」・「行動しない」ということで、これが一番悪いです。だから積極的に、どんどん前向きに明るく対応できる人になりなさいということです。
私は、会社も個人の生活も一緒だと思います。きちんと目標を立て、それに向かってやっていくということです。上手くいかないときは軌道修正してPlan-Do-Check-Actionをすること、これが大切です。
もう1つ大事なことは、グローバルに思考できるようになることです。パナソニックも日本だけでなく、世界で事業展開をしています。グローバルに考えて、グローバルにコミュニケーションができてグローバルに行動できるという、そういう人になってほしいです。
―グローバルな思考を育てるために何かアドバイスはありますか。
例えば、留学は良いと思いますよ。海外旅行をするのでも良いです。実際、外国で見聞すると考え方や世界観が変わると思います。
―経済産業省が提唱している社会人基礎力の中で一番大事なものは何でしょうか?
どれと言われても、全部大事だね(笑)。先に、私が言ったように、考えなくてはならないし、前向きに行動しなくてはならない。ただ、一番大事なことは、考え抜く力・変化に気づき疑問を持つ力で、チームワークや行動はこれが無ければ始まらない。毎日目を光らせて、変化を認識して考えることが大事ですね。
―色々な本がありますが学生に薦める書籍を教えてください。
だいぶ古い本だけど、昭和47年の創業者、松下幸之助「人間を考える」を薦めたい。私が松下に就職した頃、何気なしに読んで、ものすごく感激しました。なぜ人間は生まれてきたのかという哲学的なところから始まっているのですが、非常に読みやすい本です。
もう1つは、中谷巌の「プロになるならこれをやれ!」という本です。ここに書かれている内容を急に全部できるとは思わないが、我々が今、読んでも違和感がありません。この2冊はタイプが全然違う本ですが、私のお薦めですね。
―和歌山大学の後輩に一言お願いします。
先にも少し言いましたが、これからは英語が必要です。グローバルという観点から見れば、日本は遅れすぎている。この5年間、日本の留学生はどんどん減ってきている。このまま、日本人が海外を意識しなくなれば、ますます孤立化してしまう。世界が1つとして動いているくらいの意識を持ち、その為に、語学力を高めなければならない。英語ぐらい話せるようにはならなくてはいけない。韓国のサムスン電子はTOEIC900点が採用条件ですが、そういう世の中になってきている。だから英語は絶対必須で、今日は絶対にこのことを言おうと思っていました。
あとは、何か少々困難にあたっても、それを突破できるような、たくましい人になってほしいです。一人でできないことはいっぱいあると私は思います。しかし、相談できる仲間がいれば、それを乗り越えて行けます。我々がどういう人を採用したいかと言うと、やはり何かに真剣に打ち込んでいる人、趣味でも徹底的に追求できる人。そう言う人を採用したいと思っています。
―本日は、貴重なお話ありがとうございました。これからも宜しくお願いします。
<取材の感想>
グローバルな思考を持つために
初めての大先輩への取材ということで、大変緊張しました。話は飛躍しますが、物を考える能力を高めるといっても、その基礎となる知識の蓄積があってのことです。外国のことを考えるには語学力が必要で、その国の言葉が解らないと、その国の文化や考え方もわかりません。講義のわからないところを質問するにしても、知識不足で、どこがわからないのかわからないという事がありました。今回の話を聞いて遅まきながら、勉強をしなくてはと反省しました。今回は、貴重な時間を過ごさせていただきありがとうございました。
取材日:2010年4月12日(月)
時間:13:00〜14:00
場所:パナソニック株式会社本社(大阪府門真市)
取材同行・写真撮影・記事編集:
川崎競平・林昌司(経済学部2年・和歌山大学新聞会)